見出し画像

コロラド博士のJack in The Box No.005 2023/07/28(GMT) コルジ・ローゼンタール・ボックス実践的技術解説・ファン編

1. たいへんに重要なファンの選択

日本版であっても合衆国版であってコルジ・ローゼンタール・ボックスにおいて風量=濾過流量はきわめて重要です。合衆国版では、MERV13フィルタのエアロゾル除去能力の限界から室内の空気を少なくとも1時間に10回は濾過する必要がある為、教室では1時間あたり1500立方メートルに近い大流量を二基必要としています。


日本版では、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタを使う為、一度の濾過で99.97%以上のエアロゾルなど粒子を除去できますが、エアロゾルの滞空時間が長くなってしまい、その滞空時間が感染機会となり得ますから、やはり1時間あたり10回程度室内の空気を濾過する必要があります。


この為、ファンには次の要求項目が挙げられます。

1) 大きさ、形状がフィルタと容易に接続できる事

2) 流量が大きい事 200〜2000立方メートル/時

3) 音が静かである事

4) 電源が容易に取れる事

5) 安全である事

6) 使用条件下で発火しない事

7) 年単位の運転寿命を持つ事


2. 技術要件について

2-1大きさ、形状がフィルタと容易に接続できる事

コルジ・ローゼンタール・ボックスは、フィルタとファンが主要構成部品であり、この二つが命といってよいです。フィルタを介して吸気した空気がファンをとして排気され、それによって空気を浄化しますので、ファンとフィィルタの間には隙間があってはいけません。

本来はどのような形のファンでもよいのですが、このファンとフィルタを密着させるという条件に合うのは、基本的に平らなファンとなります。扇風機のように後ろが出っ張っているファンでは不都合です。

またファンの流量は、ファンの口径に依存しますので出来るだけ大口径のファンとなります。結果として四角のフィルタの場合は、ボックスファンに、円筒形のフィルタの場合は、丸いファンとなります。

もちろん、段ボールやプラ板などでアジャスターを作れば、形が違っても接続できます。要は、隙間がなければよいのです。

段ボールを用いたアジャスターの実例


2-2流量が大きい事 200〜2000立方メートル/時

流量はとても大切な条件です。ファンを4〜5面のフィルタに取り付けると風量は50〜80%程度に下がります。フィルタが4〜5面ないし円筒で構成される理由は、表面積を大きくして、流量を稼ぐ(損失を減らす)ためです。

簡単な風量計(マノメーター)で測定し計算すると、筆者の合衆国版コルジ・ローゼンタール・ボックスは、吐き出し風量で1,200〜1,500立方メートル/時と評価され、同日本版は、200〜250立方メートル/時と評価できます。

マノメーターによる測定
場所によりばらつきがあるので平均値をとる

この数字で設置する部屋の容積を割る事で1時間あたりの濾過回数が算出されますが、合衆国版は、10〜20回/時、日本版は、10回/時となる吐出風量が得られれば十分です。得られない場合は、設置する数を増やせばよいです。

ファンの風量は、余り公開されていませんが、モバイル型に用いる事が出来る小型USBファンの場合は、CFM(立方フィート/分)という単位が使われていることが多です。筆者は、日常使っているヤードポンド法という邪悪な単位系ですが、次の換算式を使えば立方メートル/時に換算できます。


1cfm×1.7=1.7m^3/h


それほど高いものではないので、マノメーターを使って風速を評価するとより良いでしょう。


2-3 音が静かである事

コルジ・ローゼンタール・ボックスは、生活空間、特に教室での設置を前提としています。そのため、騒音を出すようでは困ります。

この点で合衆国版の20inch・ボックスファンは、たいへんに良い製品で、大口径のファンをゆっくり回す為に風量が大きい割に静かです。

ファンの出す音は、小口径になるほどに高速回転を要する為に音が高く、大きくなってゆきます。

部屋に設置する場合は、日本版の30cm(12inch)角のボックスファンが騒音という点では最小の大きさと筆者は考えています。


轟音の為使えなかったファン


小型のモバイルシリンダでは、環境全体を循環する事はあきらめており、奇麗な空気を一人ないし二人に供給する(原則として個人用)ことを前提としていますので直径12cm程度のファンで妥協しています。この場合、70CFM≒120立方メートル/時程度のファンまでは容易に入手できますので、装置全体での濾過容量は、60〜100立方メートル/時となります。だいたい80立方メートル/時ですとダッジ・グランドキャラバン程度のミニバンやハイエース程度の大型自家用車の車内や、鉄道の個室、個人程度なら防護できます。

小型のファンは、羽根が高速回転しますので音は高く、大きくなります。そのため生活環境での運用には余り向きません。あくまで臨時用と考えてください。


2-4電源が容易に取れる事

電源は、基本的にAC100Vが使えればどこででも使えますが、モバイルを考慮する場合は、5V USBモバイルバッテリが使える事が強く望まれます。

12Vですと鉛シールバッテリなどの古典的な二次電池が使えますが、重い事と、中に硫酸が入っていますので航空機などでは持ち込み制限となります。

USBモバイルバッテリならば、機内持ち込みを一定制限下で認められています。

大容量ACアダプタすら破壊するほどの電力喰いで使えなかったファン


2-5安全である事

ファンは、扇風機に見られるように羽根が高速回転しますので、刃物と考えてよいです。そのため指や異物が入らないようにファンガードが必要です。ボックスファンの場合は、ファンガードが付いていますが、冷却ファンにはファンガードが付いていない場合があります。後付けで良いのでファンガードは必ず付けてください。

ファンガードは、抵抗であり、風量を落とします。そのためどんなに高速のファンを使ってもファンガードをあと付けして風量が下がってしまう事があります。基本的にファンガード付きの製品をお勧めします。

ファンは手に触れないように保護されていなければならない


2-6使用条件下で発火しない事

発火しない事は、最も重要な条件です。コルジ・ローゼンタール・ボックスでは、ボックスファンをMERV13フィルタボックスに取り付けて運転しても発火の恐れがない事が確認されています。

日本版は、歴史が浅く、発火しない事の確認はとれていません。

消費者向け製品であるボックスファンの場合は、HEPAに取り付けても発火する可能性は低いと思いますが、装置冷却用の5V 12cm(5inch)ファンなどは、注意を要します。基本的に装置組込み用のファンを24時間365日連続運転する事は避けたほうが良いと思います。それが故にもあくまでモバイル用として性能を限定しています。


2-7 年単位の運転寿命を持つ事

コルジ・ローゼンタール・ボックスは、学校などでは人が居る30分前から、人が退出したあと30分間の運転が求められます。週休二日ですので、一週間に40時間以上の運転時間となります。1年間で1300〜1400時間の運転となり、結構きつい条件です。

家庭用の日本版中小型コルジ・ローゼンタール・ボックスは、基本的に24hours-7days(年中無休24時間営業)運転を推奨しますので、1年間に約9000時間運転となります。これはかなり厳しい運転条件ですが、一方で止めないのでモーターへの負荷は、間欠運転よりは軽くなります。

家庭用のボックスファンなどのサーキュレータ類は、本来は24hours-7days運転が求められますが、実際は8hours-7daysの運転と考えられます。その運転条件で3〜5年の設計寿命ですので24hours-7days運転では2年前後の寿命と考えられます。

したがって、2年程度でファンは交換になると考えてください。

機器冷却用の12cmファンも2年程度で異音を発生するようになってきますので、やはり2年持てば十分でしょう。

なお、扇風機などのACモーター(交流モーター)は、通電しても回転できない場合は、発火しますので回らなくなったら捨てましょう。モーターに温度フューズが入っていますので、発熱したら発火する前にフューズが切れる破壊安全装置が入っているのが基本ですが、万が一もあり得ます。

ボックスファンは、基本的にDCモーターですので、ACモーターほどは発火しやすくありません。そうであっても回らなくなったら捨てましょう。


今回は、コルジ・ローゼンタール・ボックスの主要構成要素であるファンについて実践的に解説しました。ご質問等がありましたら、筆者のTwitterアカウントまでお寄せください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?