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コロラド博士のJack in The BoxNo.002 2023/07/13(GMT) 元祖合衆国版コルジ・ローゼンタール・ボックス(Corsi–Rosenthal Box)の解説

1.今こそ経空感染対策を(2020/07/06)

SARS-CoV-2による感染症、COVID-19は、2019年の暮れに中国武漢市で発見されて以降、2020年2月には空気感染を起こす結核や麻疹並みの感染力を持つ深刻な感染症であると報告されはじめました。

空気感染≒経空感染は、医学の世界では常に強く否定するバイアスがかかっており、COVID-19においても科学的ではない、教条的、政治的対立が生じていました。

2020年10月5日、合衆国疾病予防管理センター(CDC)は、正式にCOVID-19が経空感染しそれが主たる感染経路であることを文書で発表しました。CDCは、同年9月18日に経空感染を認める文書を公表していましたが、「下書きを誤って公表した」として、直後に取り下げていました。

このとき、合衆国は大統領選挙直前で、「コロナは終わった」を強調するトランプ大統領(当時)が、CDCやホワイトハウス・新型コロナウイルス対策タスクフォースに激しい圧力を加えており、デボラ・バークス調整官がワシントンD.C.を逃げ出してしまうなど異常事態にありました。

"ホワイトハウス内に対立、感染拡大のあきらめが政権対応に反映 CNN"
2020/09/02


トランプ大統領は、9/30にCOVID-19発症し、命が危ぶまれる状況となり、当時治験中だったモノクローナル抗体カクテル療法で九死に一生を得て10/5に退院しましたが、その混乱の最中にCDCが経空感染を強く認める文書を公表したことは、たいへんに興味深いものでした。

この2020/10/05CDC文書によって日本を除く旧西側世界では、COVID-19は、経空感染する感染症であるという事実が急速に合意形成されてゆき、サブミクロン級(粒径数百nm〜数μm)のエアロゾル対策が重要であるとして対策が本格化しました。この頃日本では、「マイクロ飛沫」という言葉遊びを政府、専門家が行っていましたが、経空感染であり、サブミクロン級のエアロゾル対策が必須であるという合意は、いまだに正式には行われていません。このことが、岸田氏によるこどものマスク剥がし遊びにつながっています。

旧西側世界では、中国に経空感染対策が遅れましたが、それでも2020年7月には、「今こそ経空感染対策を」とする論文が発表されていました。

"It Is Time to Address Airborne Transmission of Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) | Clinical Infectious Diseases | Oxford Academic" 2020/07/06

合衆国を筆頭として旧西側世界では、日本とごく一部の国を除き一斉に感染性エアロゾル対策を始めており、この差がο株(オミクロン株)対策の成否となって表れています。

感染性エアロゾル対策として当初は、換気と屋外活動が推奨されましたが、エアコンと干渉する換気は現実的でなく、屋外活動も限定されます。とくに米欧では、マスク着用を嫌がる文化が定着しており、集団には必ずマスクを着用できない人が現われることから、別の対策が模索されてきました。

その一つが大流量高性能空気清浄機です。

しかし、例えば300立方メートルもある米欧の教室の換気を十分に行うには、数千ドル(数十万円)の空気清浄機を要する為、合衆国の場合、バイデン政権が連邦予算の手当てをしているものの焼け石に水で全く間に合わない状況でした。

そこに現われたのが、「誰でもすぐに材料が手に入ります」「誰でも15分程度で組み立てられます」「お値段たったの50〜100ドル」という空気清浄機でした。これがCorsi–Rosenthal Box(コルジ・ローゼンタール・ボックス)です。

5面濾過コルジ・ローゼンタール・ボックス(上)
日本版コルジ・ローゼンタール・ボックス(下)

2. コルジ・ローゼンタール・ボックス

それでは、カリフォルニア州立大学デイビス校の説明をもとにコルジ・ローゼンタール・ボックスをみてゆきましょう。コルジ・ローゼンタール・ボックスは、土木・環境工学者であるDr. Richard L. Corsi(UC Davis工学部長)が共同発明者です。日本では、「エンジニア」と紹介されている為に学位持ちでないと早合点してバカにする人がみられましたが、人の経歴など検索すれば即時にわかります。まことに情けない話です。(日本では、EngineerとTecinitianの混同が多く見られ、「エンジニア」を不当に軽視する風潮があります。)

コルジ・ローゼンタール・ボックスは、Wired の記者、アダム・ロジャーズが、2020年8月にリチャード・コルジとジム・ローゼンタールを引き合わせたところから始まりました。

Could a Janky, Jury-Rigged Air Purifier Help Fight Covid-19? | WIRED 2020/08/06

テックス・エアフィルターのCEOであるジム・ローゼンタールは、2020/08/22には、MERV13フィルターと20インチボックスファンの組み合わせで優れた空気清浄機をつくれることを実験の上で証明しています。

"A Variation on the "Box Fan with MERV 13 Filter" Air Cleaner - Tex-Air Filters" 2020/08/22

2020年10月、トランプ大統領(当時)がCOVID-19で倒れたどさくさにCDCは、COVID-19対策ガイドラインを改訂し、経空感染を主たる感染経路と認めましたが、このとき、ニューヨークタイムズ(NYT)にコルジ・ローゼンタール・ボックスの紹介記事が掲載され、一般に広く知られることとなりました。

"The plexiglass barriers at tonight’s debate will be pretty useless, virus experts say. - The New York Times"
2020/10/07

この間、僅か2ヶ月です。日本では、PCR検査をめぐる嘘や空気感染を否定する教条主義が厚生労働省、医学・医療業界を中心に幅を利かせ、科学者がそれらの誤りを指摘するのに苦労していたとき、合衆国では経空感染対策の要素技術が大きく伸びていたのでした。

少なくとも500ドルを超える(濾過容量はたいしたことのない)HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)式空気清浄機に対して、4面濾過で1400立方メートル/時という大きな濾過容量を持つDIY(Do It Your Self)フィルタが、65ドル程度であり、性能も検証済み、どこでも部品が手に入り、誰でも短時間で製作できるため、合衆国では急速に普及してゆき、カナダ、英国から世界に広がってゆきました。

とくに1400立方メートル/時という巨大な濾過容量は、合衆国の小中高校の教室に二個設置すれば1時間に10回以上すべての空気を濾過するという驚くべき能力を意味します。

この濾過容量を発揮する為にあえてHEPAではないMERV13という中性能フィルタで立方体の4面ないし5面を形成し、20インチ(50cm)のボックスファンで濾過した空気を吹き出す構造となっています。

コルジ・ローゼンタール・ボックスの製作方法は、公開されており、誰でも手に入ります。

Corsi- Rosenthal Box, DIY Box Fan Air Filter

基本的に、30分以上人がいない場合を除けば常に運転することが前提です。

前回の記事で紹介した日本版コルジ・ローゼンタール・ボックスは、この製作マニュアルをもとに日本にあわせて変更したものです。

3. コルジ・ローゼンタール・ボックスの性能はどうなのか

コルジ・ローゼンタールボックスは、流量を稼ぎ、入手しやすく、安価とする為にあえてHEPAでなくMERV13フィルターを用いています。

HEPAフィルターの場合、300nmのエアロゾルを99.97%以上除去できますが、MERV13フィルターの場合、300nm〜1μmのエアロゾルを50%以上除去、3〜10μmの粒子でも90%以上除去とかなり見劣りがします。

ANSI/ASHRAE Standard 52.2-2017

しかしながらMERV13フィルターは、20インチ×20インチ(50cm)で2インチ厚(5cm厚)のフィルター6枚組で50〜70ドルとたいへんに安価です。これを4枚使い、正6面体の箱を作り、20インチのボックスファン(30〜40ドル)を取り付けることで底面を段ボールで封じればよいだけです。

2台のコルジ・ローゼンタール・ボックスで教室の中の空気を1時間あたり10〜15回濾過できますので、条件の悪いサブミクロン級のエアロゾルであっても新たなエアロゾルの供給がなければ1時間で1/1000未満まで減らすことが出来ます。

とくにο株以降感染経路として重要度の高いサブミクロン級のエアロゾルは、感染者が排出したあと、重力落下せずに蚊取り線香の煙のように長時間浮遊しますので高性能大流量空気清浄機の重要性はたいへんに高くなります。

もちろん、コルジ・ローゼンタール・ボックスなど高性能大流量空気清浄機は、N95などの高性能マスクを置き換えるものではなく、リスクの高さに応じて併用することが基本です。

4.地域住民が学校に、幼保に持ち寄るコルジ・ローゼンタール・ボックス

合衆国だけでなく、米欧の人々は、なぜかマスクが大嫌いです。これを良く表しているのが覆面ヒーローのご面相で、スパイダーマンなどのごく一部をのぞき、皆、口元を露出しています。キャプテン・アメリカがその典型でしょう。

一方で、日本の覆面ヒーローは、シルバー仮面などごく一部を除き、口元を隠しています。仮面ライダーがその典型です。

また運動中のマスク着用は無理がありますし、人権意識と独立意識の高い米欧では、マスク強制は困難です。経空感染が脅威となるCOVID-19から子供たちを守る為に合衆国やカナダ、英国、豪州など世界の多くの国々で地域住民は、続々とコルジ・ローゼンタール・ボックスや相当する空気清浄機を製作し、学校に幼保に持ち込みました。

学校が感染拡大の中心となり学校から家庭へ、家庭から学校へ、家庭から職場、社会へと感染拡大する経路には世界中が手を焼いており、それを学校で断ち切ることで社会を守るという意味もあります。

"Arizona school tackles dust, COVID-19 with DIY air purifiers"
2023/02/27

"Ex-teacher calls for classroom Covid air filters - BBC News"
2022/10/16

"A Viral Sensation - Corsi-Rosenthal Boxes - Sactown Magazine"This article appears in the July-August 2022 issue of Sactown Magazine.

5. 学校が感染拡大の中心となった日本

現在生じている9th Surgeでは、岸田政権による生徒児童、教職員のマスク剥がし政策の成果で、学校・幼保で感染拡大が起こり、家庭と学校の間でピンポン拡大を起こし、社会全体に広がるという米欧が20年から21年にかけて苦しんだ典型的な感染拡大が生じています。

これまでは、マスク着用と教職員の労働強化による感染症対策によって学校のエピセンター化が抑えられ、しかも偶然に夏休み、冬休み、春休み入りによって強く抑制されてきましたが、岸田政権ノーガード政策により、5月に入り全国的にBaselineの上昇が発生し、6月から7月にかけて学校を中心にCOVID-19が広がっていったと考えられます。

現在のドミナントであるXBB系統の変異株には、現行のワクチンが殆ど効果を持ちませんので、ワクチン依存で非薬理的感染症対策を放棄した日本のみ2020年の米欧と同じ状況に戻る可能性があります。

今からでも非薬理的感染症対策を大幅に強化する必要があると筆者は考えます。

お問い合わせやご質問があれば、筆者のTwitterアカウントまでお寄せください。

文中、一部敬称略

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