カビの生えないバームクーヘン

カビが生えなくったって、いいって言うんですか?

と叫んでしまったらしい。
若い頃の父の話です。

まだまだ、日本に洋菓子が普及していない頃、とある洋菓子会社に勤務して間もないころ。

その会社は、創業者の意志である無添加にこだわって、一切添加物を使わない菓子製造を続けてきた。いまもそれは、その会社の売りになっている。

添加物を使わないということは、カビが生えたり、腐ったりしやすいということ。当然、日持ちが悪く、カビが生えたというクレームも来たらしい。

ある日、四谷の主婦連合会間に呼び出された父は、上司とともに、主婦連に糾弾されたそうで。やり取りを続けるうち、業をにやした父が、冒頭にある言葉を叫んだらしい。

そうしたら、場が静まり返ってしまい、話が終了したそうだ。あとから上司に、「君、よくあんなこと言えるなー」と、お褒めの言葉なのか、呆れの言葉なのか、分からないことを呟かれたそうだ。

添加物を使用してカビないバームクーヘンを望むか、安心して食べられる、つまりちゃんと自然の摂理に従ってカビるバームクーヘンを望むか。

時代の流れに逆行する選択だったのかも知らないが、譲らなかったものがいまや強みになった、いい例だと思う。


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