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沖縄育ちの独自技術で農業をサスティナブルに。世界市場を目指すEF Polymerの挑戦

気候変動によるかんばつの頻発と人口爆発が同時に進行する世界で、持続可能な食料生産をどのように実現し得るか。EF polymer(イーエフポリマー)株式会社は、そんな壮大な問いに向き合う沖縄発のベンチャー企業です。

EF Polymer株式会社 取締役COO 下地邦拓さん

同社が保有する独自技術は、これまで廃棄されていたバイオ資源を原料に、土壌を劣化させずに保水性を高める完全オーガニック(※1)の生分解性ポリマーを製造するというもの。エコフレンドリーなプロダクトを通して、世界各国の農業の課題に果敢に取り組む同社取締役COOの下地邦拓さんに、グローバルな視点から見たローカルベンチャーの可能性についてお話を伺いました。

※1 有機JAS資材リスト、ECOCERT INPUTの認証を取得

人口300人の農村の文化から生まれた新発想

創業者であり生分解性ポリマーの製造技術を発明したナラヤン・ラル・ガルジャール氏は、インド ラジャスターン州の人口300人の農村で生まれました。下地さんは、こうした出自が廃棄バイオ資源から新素材を生み出した発想に影響していると捉えているそう。

「『ポリマー』というカテゴリーは、日本の大企業が世界を牽引する市場です。成熟した市場環境において、ナラヤンには、多くのパテントを積み上げてきた実績の延長線上でイノベーションを目指す既存の化学企業にはない強みがありました。それは、既成概念に囚われない発想です。捨てられていたものに着眼したのは、ナラヤンが生まれ育った村に、捨てるものなく暮らすことが当たり前の文化があったから。もともと、オレンジの皮をそのまま畑に蒔いていたそうで、『何かできそう』とヒントにしたようです」

数々の受賞歴から期待度の高さがうかがえます



前回、那覇市市議会議員の外間ゆりさんから伺ったまちぐわ〜の「持ち上げシステム」にも通じる"捨てずに生かす知恵"。ナラヤン氏は、故郷の村での暮らしで培われた文化と発想力を発明へとつなげたのです。

こうして生まれた生分解性ポリマーは、沖縄科学技術大学院大学(OIST)でナラヤン氏と出会い、「沖縄に産業をつくりたい」とEF polymer社にジョインした下地さんの足で世界中に広がりつつあります。

沖縄育ちの技術で救える農業の課題は世界中にある

2020年3月に設立されて今年で4期目となるEF polymerですが、下地さんは今年だけでタイ、インド、フランス、イタリア、アメリカ、ブラジルに訪問し、現地での事業開発に取り組んでいます。現地で数多くの営農者から直接話を聞く中で、ローカルでの課題意識と、気候変動下の人口爆発というグローバルな課題の乖離を感じているそう。

「ナラヤンの原体験は、雨が降らないために売り物である農作物の価値が損なわれ、多い時では3-4割も収入が減ってしまう小規模農家の家計の現実です。化学物質で保水や保肥を行う既存の方法は、一時的には効果がありますが、土壌を痩せさせてしまったり、その先の地下水の質を劣化させ、長期的に見るとネガティブな影響となって跳ね返ってくる。ところが、EF polymerを土に入れると、約6ヶ月間吸放水を繰り返して必要な給水量を4割削減し、収量を15%向上でき、1年後には生分解性されて土壌の質を損なうことなく土に戻ります。農家さんにとっては、EF polymerの導入によって、かかるコストを上回る収入の向上が見込めるかがすべて。農作物の種類や環境によってコストとメリットのバランスが大きく異なるので、どの農作物でどんな使い方をするとメリットが出せるのか、世界各国で実験を進めています

EF polymerのEFは"エコフレンドリー" の頭文字で、原料から製品となって価値を発揮し、寿命を終えるまでの全工程において生態系へのダメージが少ないという特徴を表しています。廃棄される際に燃やされてCO2を排出しているバイオ資源を、シンプルな工程でアップサイクルしてつくられるEF polymerは、温室効果ガス排出削減にも有効です。しかし、農業従事者に購入して活用してもらうには、経済的メリットが必要不可欠です。

「上場企業においては、サプライチェーン全体(※2)の温室効果ガス排出量の情報開示を求める『サスティナビリティ開示基準』がグローバルスタンダードになる見通しです。世界経済は、生態系に配慮した企業活動を行わなければ投資が受けられなくなる方向に舵が切られています。ですが、大企業レベルでのこうした動きと農業の現場の意識の間には、まだまだ乖離がある。なので、事業を進める上では、グローバルな視点を持って世界経済のメガトレンドを押さえつつ、目の前の農家さんに向き合うことが必要不可欠です。EF polymerを、ローカルとグローバルの両側面で価値が出せる製品に育てることが目下の目標です」

※2 自社拠点から出る「スコープ1」と使う電気などに由来する「スコープ2」に加え、取引先による原材料製造や輸送時などに出る「スコープ3」まで求める。

そんな下地さんの目に、農業や食料生産の未来はどう映っているのでしょうか?

農業関連の技術は飛躍的な進歩を遂げてきていますが、水だけは『雨が降るのを祈って待つしかない』のが今なお世界共通の課題です。EF polymerは雨を降らせることはできないけれど、降った雨を土中に留めておくことで、別の角度から水問題にアプローチできます。そうすることで、農業を今よりも稼げる仕事に変え、食を支えてくれている農家さんたちが報われる世界をつくりたい。その世界では、商用作物であるサトウキビを抜いたら5%以下にとどまっている沖縄の食料自給率の向上にも、取り組みやすくなるはずです」

直近では、欧州での実験で良い効果が出て、販路開拓に向けた交渉を始めているとのこと。

インドで発明された技術が沖縄で事業として芽吹き、沖縄から世界へと広がっていこうとしている2023年。食べなければ生きていけない人類にとっても、旱魃に苦しむ世界中の農業従事者にとっても、食料自給率の低迷と農家の高齢化問題を抱える日本と沖縄にとっても、明るい未来を予見させてもらえる物語が始まっています。

BagasseUPCYCLEが展開するかりゆしウェアをご着用いただきました。伝統工芸デザインの「白地霞枝垂桜cartoon文様」(下地さん)と紅型「青海波に帆掛け船」(弊社代表:小渡)

取材 : 2023年9月

バガスアップサイクルは、沖縄の地場産業である製糖業の過程で発生するサトウキビの搾りかす「バガス」の繊維を活用したかりゆしウェアのシェアリングサービスを展開しています。詳しくは、コーポレートサイトをご覧ください。デザイン一覧および那覇市内各所でのレンタルサービスについてはこちらでご案内しております。