赤い公園の終幕に寄せて

時に2014年秋、J-WAVE固定にしていた営業車のカーラジオから流れてきた『NOW ON AIR』が、彼女たちとの初めての出逢いだった。

NOW ON AIR 赤い公園

赤い公園。西東京にある高校の視聴覚室で、同級生の藤本ひかり、歌川菜穂、佐藤千明、そして1年先輩の津野米咲の4人が集い生まれた4ピースバンド。僕の中での赤い公園のポジションは、第1期は世界最強のガールズバンド、2期はその域を超えるポテンシャルを発揮し始めたところ、というのが昨年夏の現在地だった。

はじめて耳にしたその日のうちに2ndアルバム「猛烈リトミック」を手に入れ、その完成度に打ち震えた。思えばあの年の年末から年明けにかけてのヘビロテは、大森靖子の「洗脳」とこれの2枚だった。琴線を弾かれたリスナーとしては、むろん歴史を遡る。そこにあったのは、POPでキャッチーな「猛烈リトミック」では垣間見えるレベルだったダークな楽曲群だった。最たるは『何を言う』。メジャーデビュー直後のツインミニアルバム後半「ランドリーで漂白を」の巻末に収められたこの曲にはとにかく衝撃を受けた。まるで「The First Take」での演奏のような、ほぼピアノとヴォーカルのみのシンプルな編成であるにもかかわらず、津野米咲の落ち着いた音階に乗せて闇をさらけだす詞曲と佐藤千明の暴発に至る心情そのままの唄が、聴く者の心臓を鷲掴みにする。その握力は、いまでもたまにフラッシュバックしてくるほど。

何を言う 赤い公園


2016年5月5日、六本木ヒルズアリーナでのTOKYO M.A.P.Sではじめて生で触れた。約30分、『サイダー』『KOIKI』『NOW ON AIR』などを披露し躍動する4人のステージは、他の出演者とは一線を画したオーラを感じた。
4枚目のアルバム「熱唱サマー」リリース直前の2017年夏、圧倒的表現力を誇る絶対ヴォーカル佐藤千明が脱退を発表。財布やスケジュールを理由にLIVE参戦していなかったことを心底悔やんだ。ドルヲタの友人から「現場は、行きたいと思ったら行かなきゃダメ。卒業や解散はいつなんどきにあっても不思議じゃないから」と諭された。だが、僕はその忠告をちゃんと理解してはいなかった。

新Vo.石野理子を迎え、約1年半の準備期間を経て2020年に復活した赤い公園は、完全に新生していた。タイアップ曲『絶対零度』を聴いて好きになったという新参リスナーも周りにいる。バンドとしてのリスタートを意識して名づけられた5thアルバム「THE PARK」も秀作で、これからずっと彼女らの音楽を聴き続けられる、と僕は思った。すっかり安心してしまったのだ。だから8月末、自粛生活のなかで開催されたオンラインLIVEもスケジュールの都合がつかないからと見送ったりしてしまう。
リーダーであり全ての楽曲の制作者でもあった津野米咲が亡くなった、というニュースはTwitterで知った。青天の霹靂である。タイアップドラマも始まったばかりというのに。ラジオ番組だって聴いていたのに。そして僕は、またしても逃してはいけない機会を逸してしまったのだと気づいた。
あれから半年弱、2021年3月1日、終始前向きだった残された3人もついに解散の決断をした。春の別れの曲が得意だった彼女たちらしい告別。もう金輪際、赤い公園の新しい曲を聴くことはできない。
今日も彼女たちの最後の曲『pray』を聴き、目を潤ませる。5月28日の中野サンプラザ最終公演を今度こそ見逃さないようにと誓いながら。

pray 赤い公園

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