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バンオウは最高のシチュエーションコメディだった

ジャンプ+で好評を博していた吸血鬼将棋漫画『バンオウ-盤王-』が今日完結した。私は10話前後が連載していた頃に「ジャンプラにおもろい将棋漫画がある」と聞き,以降連載を継続して追ってきた。

有終の美を飾ったバンオウは,将棋×吸血鬼という異色の組み合わせの面白さを見事に表現し切った最高のシチュエーションコメディであったと思う


将棋漫画であること

バンオウは悠久の時を生きる将棋大好き吸血鬼「月山元」が日本将棋界のトッププロたちに戦いを挑む個性派将棋漫画である。
ここでとにかく強調したいのが月山元がひたすらにいいやつであるということだ。長い吸血鬼生に飽き飽きしていた月山は将棋に出会うことで日々に彩りを見出し,以降将棋にも将棋を打つ棋士たちにも最大の敬意と称賛を払いながら将棋吸血鬼として生きてきた。
この月山の”スーパー将棋聖吸血鬼感”が見ていてとにかく気持ちがいい。自分と向き合い,将棋と向き合い,対面する棋士と向き合い,全てに感謝しながら将棋道をひた走っていく月山を心から応援したくなる。

相対する棋士たちも様々な背景を抱えつつ,将棋に打ち込む姿勢は誰しもが美しい。最高のスポーツマンシップを持つ吸血鬼と最高のスポーツマンシップを持つ棋士たちが最高に爽やかな勝負を見せてくれる

吸血鬼であること

また月山元は将棋の才が無い凡吸血鬼であることも特筆すべきだろう。吸血鬼という人間より遥かに長い時間を生きる存在でありながら,輝かしい才能と栄光を手にしたプロ棋士たちに戦いを挑むチャレンジャーとしての主人公の姿がある。
「言うても吸血鬼だから将棋やる時間めちゃくちゃあるでしょ?ズルじゃない?」と思う人もいると思う(自分がそうだった)が,これは是非本編を読んでほしい。トッププロの努力と才能はマジですごい。初回全話無料です。

将棋吸血鬼漫画であること

これまでバンオウという作品の魅力を語ってきたが,やはりこれらは「爽快将棋漫画に吸血鬼をブチ込む」という特異性から成っているものだと思う。
それでありながら「なぜ吸血鬼がいるのか」「吸血鬼は何なのか」という疑問には一切触れようとしないところが,バンオウという作品が最高のシチュエーションコメディであると感じる理由である
吸血鬼はその名の通り血を飲んで生活していること,人間ではなく動物などの血を摂取することで社会生活に適応していること,吸血鬼を狩るヴァンパイアハンターがいることなどは作中でも触れられるのだが,ただそれだけである。あとはもう将棋。将棋将棋将棋将棋将棋。

最終盤クライマックスの作者インタビューに記載されていたのだが,バンオウは「将棋と吸血鬼かけ合わせたらオモロくね?」という純粋な発想から生まれた作品なのだという。これは全くその通りであったと思うし,最終回まで熱中して読み続けることができた事実が証明していると感じる。
だからこそ,「吸血鬼って何なのか」という点には触れずにいたのだと思う。描きたいのはそこじゃなく,将棋漫画に吸血鬼という材料を混ぜ合わせた時に起きる化学反応なのだろう。実際にヴァンパイアハンターと吸血鬼の戦いが勃発したときは「これ吸血鬼としての存在も掘り下げていくのか!?」と期待したがそうではなかったし,そうでなかったことにも納得している。
人間と比べ物にならない年月を生きながら誠実に将棋に向き合い将棋界に挑戦していく月山元と,類稀なる才と血の滲む努力をしながら人の短い生の中で燦然と輝く棋士たちとのやり取りには,このシチュエーション,この漫画でなければ描けない面白さ・美しさがあったと確信している。


ジャンプ+でリアルタイムに連載を追ってきた作品はあまり無いが,バンオウという名作を共に駆け抜けることができてよかったと思う。
めちゃくちゃおもしろかったです。ありがとうございました。


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