見出し画像

私のジェンダー指標(ジェンダー座標テスト)の妥当性について調べた。

 こういうツイートを見たことがあるでしょうか?自分の男性的、女性的度合いを測ってくれるというウェブ上のサービスです。

 IDRlabsという診断サイトが提供する診断の一種で、それ以外にも大量のジェンダー関連の診断や、IQテスト、スターウォーズキャラ診断などがあります。その一個であるジェンダー座標テスト(結果は「ジェンダー指標」と題される)というのが日本のツイッターで流行っています。

  こういう安易な診断みたいなのは良くないんじゃないのと思ったんですがが、もしかすると万が一学術的に正当性のあるテストかもしれないので色々調べてみた。

結論

調べたら長くなったので先に結論と要点を言います。

・この診断の元になった心理学のテストがあり、それ自体は学術的なもの。

・それを勝手にまねたものであるが、それなりに似てはいる。

・しかし元になったテストは社会心理学のためのもので、個人の性格診断やジェンダーアイデンティティの特定に使えるものではない。

・さらにそのテスト自体が1974年に考案されたもので、今は有効でない可能性が指摘されている。

・言葉についてのテストなのに機械翻訳なので信頼性は低い。

 ということで、結論としては「性格診断としてはだいぶガバガバで、信頼性もないうえに、正しかったところで個人が読み取れることはなさそう」ということです。

学術的正当性

 ジェンダー指標と訳されたこのテスト、IDR-GCTと名付けられたオリジナルのテストだそうだが、下の方を見るといろいろな研究に基づいていると書かれている。機械翻訳なので英語版(おそらく原語)で読むと、たしかに心理学の学術論文をもとにしているようで、検索するとそれらの論文は実在した。

 だがよく読むと「IDRlabs and the present IDRlabs Gender Coordinates Test are independent of the above researchers, organizations, or their affiliated institutions.」と書いている。それらの研究や組織とは関係ないことが書かれている。つまり勝手にインスパイアされただけってことです。

BSRIとは

 しかし完全なオリジナルというわけではなく、これはベム性役割調査目録(BSRI)というセックスロールに関する心理学の調査をもとにしているらしい(挙げられた論文はだいたいBSRIについてのもの)。
 ブリタニカオンラインによると、1974年に心理学者サンドラ・ベムによって作られたテストとそれを分析するための指標だそうで、その分野でまじめに使われるものだそうです。日本ではあまり使われないようですが、欧米では今も使われているみたい。

 webを検索してもBSRIの実際の問題を見ることはできなかったが、問題の方式や例題、問題数、分析結果を「男性、女性、両性、未分化」にわけるところなど、たしかにIDR-GCTはBSRIにそっくりで、BSRIのクローンとしてはまったく無根拠ではなさそうと思いました。いや、信じられるような根拠もないんだけど……と言うことでテストとしての正当性の話は終わり。

そもそもBSRIは何に使えるの?

 しかし根源的な話として、そもそもBSRIは社会心理学等に使われる指標であって、個人が自分の性格診断につかうために作られたものではありません。これを性格診断的につかっていいのか?という点について。

 「ジェンダー指標」という名前からすると内的な心理を示しているように感じますがそれは(おそらく)勝手な言い換えで、BSRIによって測定されるsex roleとは社会における己の意識的な立ち位置を判定するものです。説明欄にジェンダーアイデンティティがどうこうと書かれていますが、このテストで出る結果はジェンダーアイデンティティとは関係ありません

 だから統計をとって、身体的な性とその人のふるまいの差を研究することや、遺伝的な形質とその人のふるまいの因果関係を調べる上では役に立つものではあるものの、一人一人が結果を見て自分の何かを知ることにはほとんどつながらないでしょう。

BSRI自体の妥当性

 そもそも社会における性的役割は時代や地域、世代によって大きくことなります。1974年にアメリカで作られた指標が今も有効なのか、疑問視されています。

 ちなみに1999年に日本で行われたテストではベム自身が行ったテストと大きくことなり、男性でいちばん少ない結果が男性型、女性でいちばん少ない結果が女性型という結果だったし、2015年に行われた中学生対象の調査でもベムの結果と異なって、アンドロジニー(両性具有)が多いという結果だった(だがこれは学生が行ったもので106人分しか結果が無いのでなんとも…)。

IDR日本語版の翻訳

 また、IDR版については翻訳の妥当性も気になる。原版のBSRIではあてはまるかどうかを答える質問は形容詞で統一されているそうですが、このIDR日本語版だと「進んで人を手伝う」など、だいぶニュアンスが異なります。
そして1999年の調査のときには、日本語ではうまく働かないものを除外して調整したうえで行ったそうです。それが妥当だったかはわからないですが、ローカライズに工夫がいるものなのは間違いない。IDR版はそれを機械翻訳的なテストでやっているわけですから結果の信頼性はだいぶ怪しい。

 そもそも結果が「中性」ってなってるのは本当は「両性具有」です。ベム博士はアンドロジニー理論という、未分化とは別に両性具有的な心理原型があるという立場に基づいてBSRIを作ったので中性って訳しているのはこの場合だいぶまずい。中性だと未分化との違いがわからないじゃないか!

 そして、twitterで検索すると男性型が明らかに少ない。もちろん結果が均質になるように作られたものではないものですが、ちょっと偏りすぎてないか?
 ということで自分が社会的にどうふるまっているかを知るうえでも使い物にはならないと思います。ということで最初に書いた結論の通りになります。

おわりに

 最初ジェンダー指標の結果ツイートを見て、調べる前に憶測で女性脳男性脳診断的なものだと思って批判的なツイートした(削除済み)んですが、調べるともっとこんがらがった成立事情が見えました。が、結果的に性格診断的には無意味無根拠なものだったものでしたから、これをシェアするのはやはり良くないと思います。
 占い的な遊びを否定はしないですが、性的役割とかジェンダーとかって問題はそれなりに慎重に扱うべきものだと思う。

 そもそもジェンダーと言うものが、簡単に分類したり、ちょっとした問診で分かるようなものではないと、みんなに知ってほしいなあと思います。

参考文献

・日本の論文

加藤 知可子(1999).  BSRI日本語版による性役割タイプの分類

山田 一那 加曽利 岳美. 中学生における性役割パーソナリティおよび自己の身体イメージと学校不適応傾向との関連

ブリタニカオンラインの記事

※海外での利用などはgoogle scholarで検索した結果から判断した。

にょ