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反復と快楽、陶酔

 人間って常に新しいことをもとめているように思っていたんですけど、実は人間にとって快楽は、反復にあるんじゃないかと気づいたんです。

 どういうことかというと、新しいものを求める好奇心はたしかに何かを得ようとするときの動機になるのですが、楽しいとか、気持ちいいとかの状態に属する感情っていうのは反復されることによって起きるのではないか。

 俳句や和歌では季節を読むことが伝統的に基本となっていますが、それは「今年の夏ってヤベーー!!!!」みたいな感激ではなく、「今年も夏が来て、ひぐらしが鳴く……」みたいな、要するに反復する様相のなかに微妙な差異や特徴を見出すという感動じゃないですか。
 押井守監督の「うる星やつら2ビューティフルドリーマー」で喝破したように、オタクの欲望は成長を欠いたループしつづける都合のいい日常であるゾってこともそうですが、そもそもサザエさん時空の元ネタであるサザエさんが老若男女に受けいられているように、微妙な差異のもとで永続する反復に安心感をえることは誰にでもある感覚なのです。

 スターウォーズを筆頭に最近やたらと過去作のリブートやらリメイクやらがはやっているのも(マーケティング的な事情も大きいですが)、それが人間の反復欲求に応えているからでしょう。

 「反復」という視点から見れば、和歌俳句の季節鑑賞もサザエさんもうる星ビューティフルドリーマーもスターウォーズも同じで、「反復する対象」、「反復の周期」、「反復する形式」の違いにすぎないだということになります。雑な表にするとこんな感じ。

音楽

周期ということでいえば、そもそも作品というのは「周期的な波」であるという言い方もできると思います。

 周期的な波の代表例がもちろん音楽でしょう。音楽にはいろいろなジャンルがあり、全然知らないことも多いのですが、反復されるリズムを基本として作られるものがほとんどでしょうし、メロディーだって一回きりのフレーズだけで構成されることは少ないとおもいます。そもそも音自体が波ですからね。まあそんなこと言えば光や素粒子じたいが波(の性質をもつ)で、セカイ全部波って言えちゃいますが、それはちょっと暴力的なのでやめときます。

 さて、とくに音楽のなかでも反復が激しいのが、トランスやミニマルとかのジャンルですよね。それらは反復されることで人間に文字通りのトランスというか陶酔観を与えますよね。そのように極限まで短い反復は明確に陶酔を呼びますが、長い反復も例外ではなく、同じような陶酔を与えているんじゃないかと思います。つまり反復の快楽の元凶は陶酔にあると見た。

 まず反復される音楽の陶酔感は繰り返されることによって時間間隔が尋常と変わって、調子がくるっていくことにあるように思います。酔という漢字の通り、酒酔いや船酔いと近いものである。

 時間間隔の狂いというのはおそらく同じ展開が連続することで短期記憶がダブっていって思考と感受性が通常の域から外れていく、ということなんじゃないと僕の感覚的には思います。違う見方もあるしれませんがとりあえずそういうことにしておいてください。関係ないですが、眠い時は頭の中で同じ映像を何度も反復しているとすぐ眠れますよ。

 さて、そう考えてみると季節とかの反復とかもかつての季節という長期の記憶がダブついていく感じですよね。このクソ暑いなか外出てかげろうなんぞ見ると、小学生の頃の夏の記憶とかがダブったりしてよいのですが、そういううことの積層によってどんどん感受性が拡張されるのだろうとおもいます。

死への欲動

 かつてフロイトが「死への欲動」という言葉をつかって、人間の不思議な行動を説明しようとしました。

幼少期に大人に性的暴行をされた人が同じように被暴力的な性的関係を求めるようになったり、母親が知らない男に奪われた人間がねとられフェチになったり、災害をまのあたりにした子供が地震ごっこをするようになったり……根深い傷を反復するような行動をとって安心するということをなぜか人間はしてしまいます。

 ちなみにこのにゃるらさんの母を寝取られた話は死への欲動の例としても、エディプスコンプレックスの例としても、面白記事としても最高です。

 なぜあえてそんなことを人間がするのか?という点はいまもって明確にはわからないですが、それが記憶を反復することの快楽と結びついている、あるいは実質的には同じことだろうと僕は考えます。

 面白いことも悲しいことも辛いことも全部反復する波のなかで消化していくことで人間は生きていけるんでしょうね。

 それと最初に言ったとおり、新しいものへの期待や好奇心というのももちろん人間にはあって、それが反復欲とまっこうからぶつかることが結構多いですね。同じものが見たい感情と見たことないものが見たい感情。

この矛盾しやすい二つの情動のバランスによって感受性は成立しているのでしょう。なんとなく交感神経と副交感神経のバランスに似ているような気がします。

日記

ここからふつうに日記。今日もプログラミングした。夜に音楽制作者のHAIZAI AUDIOさんとLil涙さんのネットラジオ「虹色焼却炉」の生配信があったのですが、最後にいきなりぼくの作品が褒められてびっくりした。棚から肯定感が落ちてきてうれしさのあまりわたわたした。以下おふたりの作品リンク。



 

 

 

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