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『カスタマーレビュー 2002~2012』                『レビュー大全 2012-2022』小谷野敦     <その2>

すべてAmazonのカスタマーレビューに投稿されたもので、数は『小谷野敦のカスタマーレビュー』735本、『レビュー大全』約3000本である。
20年にもわたる、インプット、アウトプットの記録である。


 『レビュー大全』は、3㎝以上の厚みがあって、ずっしり重い。
帯に「読みたい作品、観たい映画が必ず見つかる」との謳い文句があるが、確かにそれ目当てで読んでも決して損はしない。

 しかしそんなことより、これらのレビューは、Amazonの商品でもって切り取った著者の20年間そのもだ。最終的に残るのは、膨大な作品のレビューよりも、そこから浮かび上がってくる著者自身の強烈な個性だ。

 ここで見られる小谷野敦は、フィクションでない分、『一私小説書きの日乗』の西村賢太よりも、純度が高い。

 レビューの形を借りた、「これが小谷野敦」、というノンフィクションだ。
 好き嫌いが激しい。ハッキリ言う。忖度しない。
 正直。博識(学者をつかまえてこんなことを言うのは失礼なのだが)。

 アンチTRAで反LGBT法で、反似非フェミニズムで、反似非リベラル、反ポリコレで、禁煙ファシズム大嫌い、かといっていわゆる保守かと思えば、ひとくくりにはできない。
 身分制度や人権という観点から皇室にも反対だし、大江健三郎が大好きだ。
 同性愛は全く嫌っておらず、ゲイの悲恋を描いた映画『ブロークバック・マウンテン』も、ゲイが書いた『LGBTの不都合な真実(松浦大悟、2022)』も星4つの高評価だ。

 西村賢太のことも大好きである。
 2002年から2022年といえば、この間に西村はデビューし、売れ、死んでいったのだが、デビュー作『どうで死ぬ身の一踊り(2007)』から遺作『雨滴は続く(2022)』に至るうち4作についてレビューがあり、『苦役列車(2011)』以外は、皆「★★★★★」である。
 『苦役列車』は星4つだが、芥川賞受賞作を星5つにしてしまわないところが、小谷野の個性で、良心だ。

 Amazonは、まさかにこれらの本を売るためではなかろうが、小谷野のレビューを全削除した。
 こういうのを「言論の弾圧」っていうんじゃなかろうか。
 理由が知りたい。





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