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[#5] 公開ベータ版をお使いになる前に

初出: MacPower 2000年 11月号

日本語版はまだだが、いよいよMac OS Xの公開ベータ版が発売になった。早速入手し、Macに組み込んで使っている。うーん、この秋はこれに付きっきりになりそうだなあ。

いちユーザーの立場でざっと触ってみたところ、全体の整合性がかなりとれているように感じた。いろいろな技術を違和感なくまとめている。詳細は話せないが、5月に開発者向けに配られたDeveloper Preview版に比べると、安定性やユーザーインターフェースの面からも大きな進歩を遂げている。アップル社は素晴らしい仕事をした。

これから、Mac OS Xの公開ベータ版をインストールしてみようというユーザーも多いだろう。ちょっとその前に、お願いしておきたいことがある。テクニカルなことではなく心構えの話だ。このMac OS Xの公開ベータ版を利用するときに、自分がどういう立場なのかをよく考えるべきだと思うのだ。

問題は、文句や要望を言いたくなったときにどうするかだ。Mac OS XはいままでのMac OSとはまったく異なるものである。そんなことは、わかりきっている。だから、ただ単純に「これまでと違う!」と言ってみても意味がない。変更点が何にどう影響するのか。なぜ変わったのか。そういう背景を考慮して、文句や要望をもう一度考えてみてもらいたい。それには、大きく分けて3つの立場があると思う。

1つ目は、まるっきり新しいユーザーとして最新のOSに触れてみようという立場だ。いままでのMac OSのことは忘れ、Mac OS Xは過去のMac OSとは関係なく一から作り直したものだと考える。そうすれば、使いやすいかそうでないかを冷静に判断することができる。ほかのOSとの比較などせずに、純粋な立場で文句を言ってもらいたい。

2つ目は、Mac OSをメインに使って日常の仕事をバリバリこなし、Mac OS Xは当然Mac OSの延長線上にあるものとしてとらえるという立場だ。その場合は、たとえClassic [*1]環境を使ってでも、いままでと同じ仕事をこなせないといけないだろう。ただし本当は、こうしたパワーユーザーには公開ベータ版の状態にあるMac OS Xには触れてほしくない。まともに使うことはまだ無理だし、評価の対象にさえならないと思うからだ。下手にいま使ってみて嫌な印象を持ってしまうよりは、来年の正式版まで待ってもらいたいという気がする。そう思うのはもちろん、正式版がもっとよいものになっていることを確信しているからなのだが……。

さて3つ目として、これらの中間の立場があるだろう。どう考えてもMac OS Xは既存のMac OSの延長線上にある。しかし新しい環境である以上、いままでの作業をそのままMac OS X上で行うことは不可能だ。従って、しばらくは現在のMac OSと並行してMac OS Xの公開ベータ版を使う。公開ベータ版という性格上、この立場が最も正しい姿だと思う。

そこで問題となるのは、この「しばらく」がどのくらいになるかだ。即答することは難しいが、Classic環境の活躍期間が1つの目安になるだろう。正直なところ、Classic環境が組み込まれるとMac OS Xはあまり美しくなくなる。Aquaのユーザーインターフェースが適用されないアプリケーションが共存するわけだし、画面の書き換えもとても汚くなる。既存のMac OSとMac OS Xが混在している状況とは、なるべく早めにおさらばしたい。Classic環境の活躍の場が残されている限り、本当のMac OS Xとしての実力は測れないだろう。

しかし、Carbon [*2]やCocoa[*3] 環境に対応したアプリケーションの数がまだ少ないことを考えると、すぐにClassic環境をなくしてしまうことは無理な気もする。いや、言い切っちゃおう、無理だ。今回リリースされたMac OS Xは名前こそ「公開」となっているが、やはりデベロッパーに向けたクローズドなものだと思う。「ほら、ここまで成していてユーザーの手に渡っちゃっているんだぜ。おまえのアプリケーションは対応しなくていいのかい?」。
こんなふうに、デベロッパーをあおるためのバージョンなのだろう。やはり開発者は、自前のアプリケーションのCarbon化を急がなくてはならない。それはさておき、Mac OS Xの公開ベータ版は公にリリースされているのだから、一般のユーザーでも試せる。そのときは、先ほどの立場を踏まえたうえできちんと考えて使ってみてほしい。

今回のMac OS Xは、もちろん未完成品だ。Macに組み込んで使ってみて、すぐに最終的な判断を下すことはできない。そもそも、評価するべき対象はパブリックベータ版そのものではなく、その先に見える正式版だ。われわれデベロッパーは、Developer Preview版のころからMac OS Xの変化を見続けている。だから、公開ベータ版がこの先どこに向かっていくのかをある程度予測できる立場なわけだ。しかし一般のユーザーにとっては、Mac OS Xは今回が初お目見え。パブリックベータ版に触れただけでは、Mac OS Xの将来を想像することは難しいだろう。

アップル社には正式版の前にアップデートしたベータ版として「公開ベータ版アップデート」を発表してほしい。それと今回の公開ベータ版を比較することによって、Mac OS Xがどの方向に進んでいるかが明らかになるからだ。そうすれば、一般のユーザーでもMac OSの将来を素直に信じることができると思う。

というわけで、アップル社には張ってもらって来年1月にでもアップデートのリリースを望む。でも、正式版の発表は遅らせないでね(笑)。

バスケ
Mac関連ソフトのデベロッパーで、シエスタウェア代表取締役。前回のAppleScriptの続きは来月以降やります。あの原稿を書いているときには、Mac OS Xの話がこんなにポンポン進むとは思っていなかったんだよー。すまんです。

[*1] Classic - Mac OS Xで現行Mac OS用のソフトを動作させるための仕組み。
[*2] Carbon - Mac OS Xと現行Mac OSの両方で動作するソフトを開発するデベロッパーの負担を減らすために用意された、Mac OS X側のプログラム実行環境。
[*3] Cocoa - OPENSTEPのプログラム実行環境をMac用に移植したもの。


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