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[#50] Spotlight に将来はあるのか? : WWDC 2004 レポートその2

初出: MacPower 2004年 9月号

WWDCでの Tigerの説明は、検索機能のデモで始まった。ファイルの管理が大変になってきた、最近のパーソナルコンピューティング。インターネット上の情報ならGoogleで一瞬に探せるのに、自分のマシンの中の情報はなかなか見つけられない。何たることか。ということで、Tigerでは検索機能の強化が図られることになったわけだ。それが「Spotlight」である。

デモの中では、メニューバーの右端に虫眼鏡アイコンが常に表示されており、そこをクリックすることで検索フィールドがポップアップ。表示されたフィールドにテキストを入力すると、検索結果が表示された。グローバルにどこからでも手軽に使え、かつファイル名やテキストの中身だけでなく、さまざまなメタ情報を検索できることがウリだ。

しかしこのSpotlight、デモを見ていてもアップルのサイトに載っている技術資料を読んでみても、イマイチ全体像がつかめない感じがする。この機能をSpotlightと呼んでいるのか、それともベースとなる技術のことをそう呼んでいるのか?次に行われたシステム環境設定のデモを見ると混乱はさらに増す。検索フィールドに探したい単語を入れていくと、関連する環境設定のアイコンに、まさにスポットライトが当たるというインターフェースだったのだ。これもThe Power of Spotlight と言っていたので、技術的な呼称なんだろうか。そうなると、メインとなるのはPantherで導入されたSearchKit [*1] というAPIとなるだろう。これに今回のメタ情報検索機能が追加されたと考えるべきなのか。

メタ情報とはファイルのデータ本体ではなく、それに付随する情報という意味だ。例えば、ファイルの大きさや修正日などもメタ情報といえる。そもそもファイル名も本来はメタ情報だ。Word書類やPDF, QuickTime ムービーなどにはファイルの所有者、コピーライト情報なんかも含まれている。デジカメで撮られた写真には、Exifと呼ばれる形でいろんな情報(F値やシャッター速度など)を付加することが可能だ。こうしたメタな情報も、ファイルを見つけるためのヒントに使えないだろうか。これが原点となり、それをAPIとしてまとめて、サードパーティーの独自データでもメタ情報をシステムに提供できるようにしたところが今回の技術的なキモと思われる。

正直なところ、このSpotlightには不満が残る。まず、メニューバーにアイコンが常に表示されるというのがいただけない。検索するということは、次の動作として確実にキーボードでのタイピングが待っているのだから、キーボードショートカットでのポップアップというほうが理にかなっている。新機能なので目立たせたいのだというのならば、SafariのGoogle検索みたいに、常に表示されていていきなり入力できるほうが実用的ではないだろうか?このあたりはあくまでTigerの技術プレビューの段階なので、正式版ではどうなるかわからないが、昨今のアップルは意外とそのまま出してしまうことが多い。できれば、早めに見直しをしてもらいたいところだ。

もっと突っ込んだ部分では、そもそも検索を操作の中心に持ってくること自体、あまり感心できることではない。検索は重要だが、あくまで見つからないときの最後の手段なのではないか。ぶら〜っと探してみて、それで見つからないので検索という流れが理想だ。この「ぶら〜っと探す」ことにユーザーインターフェースの重点を置くことが、最も大事だと思う。「ぶら〜っと探すのが面倒だから検索してしまう」のではなく、「ぶら〜っと探してみて見つからないから検索する 」という、いわば押さえとしての最終手段が検索であるべきだ。ユーザーがみんな最初から検索を使うようでは、それはインターフェースの負けを認めたに等しいと思う。Macの世界において、そんなことはあってはならないはずだ。

なので検索が便利になったぶん、別の観点からインターフェースの拡張を行ってもらいたい。実現された1つのいい例は、スマートフォルダの導入だ。iTunesなどで使われていたスマートフォルダは、検索条件を指定すると、それに該当するものが一覧でき、なおかつリアルタイムで更新される。これがFinderで使えるようになるのだから、うれしいかぎりだ。Coplandのデモで見て以来、10年近くの歳月を経てついに実現されると思うと感慨深い。しかし、こんなのは想像のつく範囲の拡張でしかない。

例えばオレは、ワークセットというか複数のファイルを関連づける機能があればなぁといつも思っている。1つの仕事でたくさんの種類のファイルが関連することは多い。フォルダーでの管理が基本なのだが、それはあくまで開始時と終了時、つまり開くときと保存するときしか意味をなさない。むしろ作業中に関連するファイルに簡単に移動できる、そんな機能が欲しい。メタ情報に関連づけを持たせられれば可能なのではないかと思うが、どうだろうか。

メタ情報検索が大事な技術であることは明らかだ。Spotlight の採用は、将来のエージェントによるアシスト機能のための、重要なステップを踏み出したということだと思う。地味だが大切な一歩である。その地味な技術革新を1つのショーにまで仕上げたアップルは、たいしたものだ。WWDCの参加者は技術者だから、それでOKだろう。しかしTigerが成功するにはそれだけではダメだ。PantherにExposéが付いたように、ユーザーに向けて直接アピールできる仕掛けをもっと用意してほしい。Dashboardではちょっと弱いように思う。Tigerは渋い機能が満載のOSだ。開発者にとって喉から手が出るほど使いたい機能が、これでもかというほど導入される。今後 Tigerの新機能を使った魅力的なアプリケーションがたくさん出てくることは間違いないぞ。

バスケ(シエスタウェア代表取締役)http://saryo.org/basuke/
先月予告した Quartz Composer. ごめんなさい、NDAで話せない内容だった(笑)。すごいんだよーとだけ伝えておきます。今年のWWDCは技術者にとっては本当に満足のいく新技術てんこ盛り。こんなに開発者によくしてくれた時期があったか、と思うほど惜しげもなくアップルの培ってきたものを具体的な形で提供してくれた。俺たちはiPodで値けるから、Macはみんなで好きにしろよとでも思っているのでしょうか?(笑)ウソ、感謝してます。アップルさん!

[*1] SearchKit - Mac OS 9時代から備わっていた「本文検索」を、APIとしてまとめたもの。非常に使いやすいインターフェースを備えているので、アプリケーションに検索機能を簡単に追加することができる。

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