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[#3] Aquaの仕様はまだ固まってねーぞ

初出: MacPower 2000年 9月号

Macworld Conference & Expo / New York 2000に行って来た。とはいっても、仕事の合間に初日だけ見て帰国するという強行スケジュール。うーん、眠い。時差ボケが抜けん。ジョブズの基調講演は新しいハードウェアの発表ラッシュだった。ユーザーとしては「Power Mac G4 Cube」が欲しいが、開発者の立場ではデュアルプロセッサーの「Power Mac G4」が1台あるといろいろと遊べる。基調講演終了後にもらった新型のマウス「Apple Pro Mouse」を早速使っているが、すこぶる調子がいい。

華やかだった新機種の発表については、ほかの記事でたっぷり語られているだろうから、それ以外の話題に目を向けてみよう。オレの一番の注目は、Mac OS Xだ。Mac OS Xが発売される2001年まで、あと半年足らずしかない。それまでの期間は、どんどん盛り上げていかなくてはいけないはずだ。なのに、今回のエキスポにおけるMac OS Xの扱いは驚くほど小さかった。基調講演でも、簡単な説明と過去のエキスポやWWDC(世界開発者会議)と同じお決まりのデモが行われただけだ。時間にしてほんの10分程度。その理由はいったい何なのか?

今回、Mac OS Xに関して発表されたことは、パブリックベータ版の配布を9月に決定、2001年の早いうちに正式版を出荷2つ。パブリックベータ版については、夏の終わりギリギリの9月という日付が正式に決まったわけだから問題はない。だが、WWDCでは2001年1月と明言していた正式版の出荷予定が、今回のエキスポでは2001年の初頭となったことは明らかにスケジュールの遅れだ。これでは、来年1月のサンフランシスコや2月の東京で開催されるエキスポで、ユーザーがMac OS Xの正式版を手にすることは難しい。今回Mac OS Xの扱いが小さくなったのは、発売の延期によるものに違いない。

本連載の第1回目でも書いたが、パブリックベータ版の登場から正式版の出荷までの半年という期間は、ユーザーのフィードバックをきちんと反映するためにはあまりにも短かすぎる。今回の遅れはひょっとすると、アップル社がそのことにちゃんと気がついて、ユーザーに正しい判断をゆだねる時間を作った結果なのかも……。ふっ、まさかな。

Mac OS X正式版の出荷スケジュールが遅れたことに対しては、さまざまな疑問や不安を感じる。だが、遅れの理由を知るための大きなヒントが基調講演のデモに隠されていた。それは、Aquaの仕様変更だ。ジョブズは今回、これまで大きく取り上げていた機能の1つである「シングルウィンドウモード[*1]」をデモしなかった。それどころか、同モードに切り替えるためにウィンドウのタイトルバー右端にあった紫色のボタンそのものがなくなっていたのだ! これは、アップル社のブースで実際にMac OS Xを触ってみたので確かだ。もっとも、担当者はその理由までは教えてくれなかったが…。

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左は米アップル社のWebページにあるMac OS X紹介サイトのウィンドウの図。ウィンドウのタイトルバー右端に、「シングルウィンドウモード」をオン/オフするためのボタンがある。右がMacworld Conference & Expo / New York 2000の基調講演におけるデモで披露されたウィンドウ。同ボタンが姿を消し、Aquaがこれからも仕様変更される可能性があることを示唆している

ということはだ。Aquaの仕様は現在も着実に変更が加えられていて、これからもその可能性がある。9月のパブリックベータ版にはいろいろな新しい要素が加わり、正式発売までにユーザーの反応を見ながら調整していく。こう捉えたほうがいいだろう。

パブリックベータ版の公開前にアップル社が自らAquaに手を加えるという決断をしたとすれば、これはうれしいことだ。ユーザーがパブリックベータ版に文句を言って変わることと、アップル社が自らの決断によって変えること。同じ仕様変更でもこの2つには天と地ほどの違いがある。アップル社に期待することは、ユーザーが思ってもみなかった心地よさの提供なのだ。

いまのところアップル社は、そういうものを出してくれるだろうとユーザーに期待され、信頼も受けている。かといって、独りよがりなユーザーインターフェースなどはもってのほかだ。中途半端なものを世に出せば、信頼を裏切ることになる。アップル社には聞く耳を持っていてほしい。難しいところだ。

ハードウェアに関していえば、現在のアップル社が素晴らしいものを作る会社だということは、今回の新製品を見るまでもなくわかっている。必ずしも最新でも最速でもない、でも最高だ。ハードウェアのヒューマンインターフェースに当たる「デザイン」を、ここまで進化させた信頼すべき会社だ。ソフトウェアもこれに負けないレベルであってほしい。初期のMacは、ハードウェアとソフトウェア、そしてデザインと使い勝手の見事な調和を保っていた。あのレベルのソフトウェアをまた見せてくれ!

バスケ
シエスタウェア代表取締役。Macのデベロッパーで、数少ないNewtonデベロッパーでもある。写真はエキスポの基調講演のために並んでいるオレ。うーん、Cuboが飲しい。Cubeが欲しい。G4も欲しい。Cubeが欲しい。Cubeが欲しい。Cubeをくれー。

[*1] シングルウィンドウモードデスクトップがウィンドウだらけになってしまうことを解決するための方法の1つとして、Mac OS Xの発表当初からアップル社が紹介していた。ウィンドウのタイトルバー右端にある紫色のボタンを押すことで、デスクトップ上に表示されるウィンドウを常に1つだけにしておける。

編集・三村晋一


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