見出し画像

[#16] AppleScriptがSOAPに対応するとMacの未来は……

初出: MacPower 2001年 10月号

今月はまずお知らせから。先月まで3回にわたり、JISキーボードの弊害について述べさせてもらった。読者の方からの反応はいつもよりも多く、書いてよかったと思っている。しかし相変わらず、PowerBook G4用のUSキーボードの購入は不可能に近い。

そこで次の段階として、有志一同が集まってアップルに対する働きかけを署名というかたちで行おう、ということになった。どのくらいの人が実際に困っているのか、とにかくかたちにして見せないことには始まらない。署名で、ユーザーの気持ちを伝えたいのだ。

主張はただ1つ。「ユーザーにキーボード選択の自由を」。JISキーボードが欲しければJISキーボードを、USキーボードが欲しい人にはUSキーボードを。自社で販売サイトのApple Storeを持ち、マシンをカスタマイズして販売しているのだから、このくらい問題なくできるだろう。そういう主張だ。

URLは以下のとおり。ひとつよろしく。
http://www.siesta.co.jp/uskbd/

話は変わってMac OS X。Mac OS X 10.1のニュースで、「お、これは?」と思ったことがある。「AppleScript」 が「SOAP」 対応になったということだ。情報が少ないためちゃんと確認できていないが、恐らくこれはAppleScriptの基盤技術である 「AppleEvent」 と 「SOAP」のブリッジ機能を開発したということだと思われる。面白いことになってきたぞ。間違ってるかもしれないが、この点から想像できることを書いてみる。

ちなみにSOAPとは、Simple Object Access Protocolの略。簡単に言えば、XML[*1] で記述されたオブジェクトをネットワーク上でやり取りする通信プロトコルのことだ。XMLがデータを記述する仕様で、それを無事に配信するための仕様がSOAP [*2]と考えればいいだろう。

ネットワーク上でのやり取りといってもさまざまだが、典型的な例としてはネット上のデータベースに検索条件を送りその結果を得るというものがあるだろう。もしくは計算式をサーバーに送り、その結果を受け取るといったことも考えられる。まあ、やっていることはこれまでのWebとあまり変わりがないと思われるだろうが、実はその先がある。

XMLやSOAPで一番重要なのは、それを利用するのが人間ではなくマシンだという点だ。SOAPを使えば、プログラム同士がある決まった規則に従って情報を交換することが簡単にできるのだ。現在のWebページで使われているHTMLは人に優しい設計なので、曖昧な記述も多い。そのせいで、コンピューターがそこから情報を取り出すのはなかなか骨が折れる作業なのだ。しかしXMLは、マシンのためのものなので決まり事が厳密だ。よって、そこから意味があるデータを取り出すのは簡単なのだ。

例えば単純な例として、列車の切符を買う場合を考えてみる。時刻表検索のWebページがあって、人間はその時刻表で列車の発車時刻を検索する。その結果からいろんな安売りサイトの値段を調べて回り、一番安いところでオンライン購入。しかし、すべて人間が判断して人間が操作しなくてはならない。

もしすべてのサービスがSOAPに対応していれば、適当なコンピューターエージェントに指示を与えるだけで検索から購入までが完了するだろう。勝手に時刻表をチェックして、いろいろな格安チケットサービスで一番安い切符を調べて購入する。この一連の作業を、すべてプログラムがこなすことができるのだ。

最近では、そうした事業を 「Webサービス [*3]」 として業界全体で標準化しようという動きも盛んだ。もっとも、情報がXMLになりSOAPで運ばれればすべてが解決、というわけにはいかない。だが、少なくともそのための基本技術がようやくそろいつつあるという状況なのだ。eビジネスとか浮かれた話ではなく、われわれの将来の日常生活に大きくかかわってくる技術だと思う。そうしなきゃいかんぞ。

前置きがずいぶん長くなったが、こうした話をAppleEventに照らし合わせてみると、その生い立ちが実によく似ていることがわかる。以前にも書いたが、GUIがユーザーのためのインターフェースであるのに対して、AppleEventはプログラムのための標準インターフェースを定める目的から生まれたものだ。つまり、人間のためのHTML、機械のためのXMLという対比と同じような関係にあるのだ。

幸いにして、Mac用のアプリケーションは基本的にAppleEventをサポートしている。AppleEventの柔軟なデータ構造により、画像やテキストであれ、データベースに収められたものであれ、何でも扱えるようになっている。また実際に、AppleEventに対応したアプリケーションを駆使した実用的なシステムがたくさん稼働している。AppleEventには、AppleScriptで培ってきた資産があるのだ。

もしアップルがApple Event とSOAPの懸け橋を本当に作ったとすれば、既存のアプリケーションをSOAPに対応させられる。「ファイルメーカー」のデータベースにSOAPでアクセスできるのだ。逆に、SOAPで公開されている画像サーバーに「InDesign」からアクセスして、ページをレイアウトして完成させる、といったことも可能になる。

はっきり言ってApple EventとSOAPのブリッジ機能は、そんなに難しいことではないだろう。アップルの開発者なら簡単に開発できるはずだ。でもアップルは、こんな簡単なことをいままでしてこなかった。サードパーティーに任せたまま、OSの機能としてこうした標準を取り込むことはしなかったのだ。だから、今回のこの素早い対応はうれしい。簡単な苦労でみんなが幸せになる好例だと思う。「KnowledgeNavigator」のような技術を実現するためにも、データ流通の標準化は大切だ。AppleEventとSOAPのブリッジ機能は、いいインフラになるかもしれない。

バスケ(http://www.saryo.org/basuke/)シエスタウェア代表取締役

[*1] XML XMLとHTMLは、もともと同じSGMLという言語から派生した従兄弟のような関係。しかし使用目的は、それぞれ大きく異なる。
[*2] 無事に配信するための仕様がSOAP SOAPとXMLの関係は、HTTPとHTMLの関係に似ている。
[*3] Webサービス 米IBM社や米マイクロソフト社、米サン・マイクロシステムズ社などが進めている。ビジネスのための一連の仕様を使ったサービスのこと。もうちょっと名前に凝れよなぁ。

編集・三村晋一

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?