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[#25] Mac OS X にNewtonを見た!

初出: MacPower 2002年 7月号

毎年5月にはアップルの開発者向けイベント WWDCが開催されるので、今年もサンノゼへ行ってきた。今回は、Mac OS Xの次期バージョンである「Jaguar」のセッション一色だった。夏の終わりごろに出る予定のこのバージョンでは、久しぶりに数々の新機能が搭載される。

Mac OS Xの発表以来、アップルは安定性や互換性、速度など、OSにとっての基本部分を改善することに重点を置いてきた。それに対しサードパーティーは、自社のアプリをMac OS Xに対応させるということが大きな課題となり、それを実現するために日夜努力してきたわけだ。どちらも比較的地味な作業と言える。OSの基本部分の向上は大切なことだし、アプリの移植もとても大事だが、それだけをやっていると作り手側は結構煮詰まってしまう。

なので、今回のWWDCにおける新機能の発表は、とてもタイミングがよかったわけだ。先日の「Adobe Photoshop 7.0」の登場によって、大物アプリのMac OS X対応はひとまず一段落という空気が流れている。「そろそろ次だ。何か新しいことをしたいぞ」と感じていたところだ。そこに、「Rendezvous」をはじめとして、「QuickTime 6」のMPEG-4対応や「Quartz Extreme」など、使いでのありそうな新機能が投入されたのだから、プログラマーとしては食いつかざるを得ない。これが1年前なら、「今そんなことしてる暇はねぇ!」とか「そんなことよりOSのバグ直せ!」とか、盛り上がっちゃうところだった。いいタイミングである。

新機能の中でもオレが特に注目しているのは、目立たないとこだけど「Address Book API」だ。アプリをこのAPIに正しく対応させれば、個人に関するすべての情報を一括して管理できる。例えばメールアドレス。現在のメーラーは、それぞれ独自の方法でメールアドレスを管理している。なので、ほかのメーラーに乗り換えるときには、アドレス帳を無事に移行できるかが1つのポイントになる。移行できないときには、新しいメーラーをあきらめなくてはならない場合も出てくる。

しかし、今後メールソフトがAddress Book APIを積極的に使うようになれば、こうした問題はなくなる。共通のデータをダイレクトに扱えるのだから、これに勝るメリットはない。しかも、名前や住所、電話番号などを必要とするスケジューラーやFAXソフト、年賀状ソフトといったすべてのアプリから、そのデータを使えるのだ。何とも素晴らしいことになる。データをブラウズしたり検索するための汎用インターフェースのAPIも用意されているので、各アプリごとに操作感が違ってしまうこともなさそうだ。気合が入っているように思う。これはいい。

とはいえ、恐らく最初のバージョンでは日本語環境で使うには多少の問題が出るだろう。……いや、Unicode ベースのAPIだから、日本語が扱えないとか検索できないとか、そんなことはないと思う[*1]。デモのときにも、日本語や韓国語を含んだ住所を表示していた。そこらへんは心配していない。
問題はもっと細かいところだ。例えばメールの宛先で使われる名前。オレはメールを出すときに、自分の名前をローマ字表記にしている。結構多くの人がローマ字を使っていると思われる。それがeメールの慣習でもあり、そのほうが便利なケースが多いからだ。それに、海外にメールを送るときにも文字化けせずに済む。で、実際にそう使うためにはアドレス帳に名前をローマ字で入力しておく必要がある。しかし、そんなことをしたら、年賀状ソフトで同じデータが使えなくなる。ローマ字で年賀状の宛名を書いたら常識を疑われるだろう。

実際に使ってみて初めてわかるこうした問題は、国際化 = Internationalizationではなく各国語化 = Localizationの問題だ。国際化とは、特定の言語を前提にプログラムを設計しないということ。この場合は、文字コードをUnicodeにすることなどだ。作り手が国際化さえきっちり行えば、日本語化されていないソフトでも日本語を問題なく使える。しかし、日本語特有の事情、例えば振りがなとか禁則処理などは考慮されない。そのために必要なのが、日本語という言語へのローカライズ作業なのだ。

実際のところAPIが新しいと、なかなかローカライズまでしっかり行えるものではない。問題を把握するのには時間がかかるからだ。いろんな事象に遭遇して、最適な解決策を見つけ出さないといけない。なので、われわれ開発者にできるのは、Address Book APIの可能性を信じて使い続けることだ。そして、アップルにフィードバックして問題点を認識してもらい、次のバージョンアップに期待しよう。って、まだ問題点も明らかになっていないのに、気が早すぎだな(笑)。

それにしてもこのAPIは、かなりしっかりしたデータベース・システムを内部に持っているはずなのだ。検索は速そうだし、データの構造には柔軟性がある。各アプリごとに好きなデータを追加できるのだ。まるで「Newton」の「スープ構造 [*2]」のようだ。このAPIをアドレス帳だけに使うのはもったいない気がする。

最近のアップル製アプリは、実は内部でデータベースがしっかりとした仕事をしているものが多い。「iTunes」 も「iPhoto」も、気持ちのいい検索をしてくれるのはデータベースのおかげだろう。きっと、何か汎用のデータベース構造を使っているのだと思う。もしそういうものがあり、それを公開APIにしてもらえるなら、iTunesのデータを別のツールで読み書きできたりする。iPhotoの画像に検索をかけて引っ張り出すことも可能になる。自分が開発したソフトに、iTunes並みの検索機能を持たせることも簡単だ。面白いツールが増えることだろう。

どうですかね、公開してわれわれ開発者にも自由に使わせてもらえませんかね?

バスケ(http://www.saryo.org/basuke/)シエスタウェア代表取締役
阪神が強くて強くてしょうがない今年のプロ野球。なのに、忙しくて野球を観る暇もない。神宮球場に行きたいなぁ。ビールを飲みながらのんびりしたいぞぉ。

[*1] そんなことはないと思う - 「Address Book API」の開発チームは、スペイン人にインド人、フランス人と国際色豊かだ。だから、国際化には絶対の自信を持っているとのこと。…… アジア人がいないじゃないか!心配だ(笑)。
[*2] スープ構造 「Newton Technology」における、データ保存のための仕組み。

編集・三村晋一

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