見出し画像

[#38] Pantherにお金を払う理由をもんもんと考えてみる

初出: MacPower 2003年 9月号

前回はPatherの基本的な特徴について述べた。そして、その多くが新技術に基づいているのではなく、Jaguarで登場した技術の上に成り立っているものであり、それならば、なぜ$129も出してアップグレードしなくてはならないのだろうか?という疑問を投げかけてみた。実はオレもよくわからない。答えは出ていないので、もんもんと考えていることを書いてみる。

正直なところ、$129のアップグレードは高いのではという印象がある。その理由の1つは、Jaguarへのアップグレードも同じ値段だったからだ。JaguarはMac OS Xの中で、初めて使い物になる機能と安定性を備えたバージョンだ。Public Betaの後の長いテスト期間を経て、ようやく完成したMac OS X バージョン1.0という感じがあった。だからあの値段でも納得したわけだ。だが、逆にそれで一段落ついてしまったという感じがある。みんなそう感じているのではないだろうか。とりあえず使えるようになったよ、サンキュー、アップル!と。

とすると、次に同じお金を払ってアップグレードするからには、同じ程度の満足を得られるだろうという期待もあるはずだ。そんな目で Panther のデモを見ると、うーん、これはJaguarのときの満足には届きそうにないぞ?と思うのは仕方のないことだと思う。確かに便利な機能も楽しい機能も多い。それを必要としている人がいることもわかる。iChat AVが$49なので、$129は値ごろ感があると思わせる戦略[*1]もわからなくはない。それでも全体としては小粒だと言わざるを得ないだろう。

OSのアップグレードでお金を取るのはもう仕方のないことで、年間ライセンス料金みたいなものだと考えればいいんだ、という人もいる。アップルに限らずマイクロソフトも同じようなことをしているし、実際に年間ライセンス式にしているアプリケーションも存在する。しかし使う側・買う側のユーザーとしては、そんな業界の事情なんてものは関係なく、PantherとはMac OS X10.3として売られる1つの商品でしかないわけだ。だから単体として最低限の魅力がないといけないし、既存のユーザーにアップグレードを促す理由がそこにないといけないと思う。いや、思うじゃないな、当然理由が必要なのだ。

ちなみに、高いとは思いつつ、オレ自身はExposéとFast User Switching、それと新しくなったOpen & Saveダイアログの3つで買うことは決定した。買うことは買うけど高いと思っているだけだ。だから本当は文句をつらつら書く必要はないのだが(笑)、開発者としてはそうもいかないのだ。というのも、ソフトを書く場合には対象OSというものが存在するからだ。

開発者側から見ても、Jaguarは初めての安定したOSと認識している。むしろ開発者がいちばんそれを痛感しているだろう。Jaguarになってようやく必要とするAPIが用意されて、既存のAPIもバグがだいぶ取れて、ほぼ使えるレベルになったという安堵感があった。だからユーザーに対して、「このソフトを使うためにはMac OS X 10.2以上が必要です」という制限を設けるのもやむなしと考えた開発者も多かった。Jaguar以前で同じものを作るのはとても大変なことだから、それは仕方のないことだと胸を張って言える状況だった。

しかし、Pantherを対象OSとしたソフトを、この時点で書こうと決断する開発者はいるだろうか?という疑問をどうしても感じてしまう。OSとしての新機能がなければ、ユーザーに対してアップグレードしてくれというのは難しいだろう。検索ボックス[*2]が付けられるようになりました!と言ったところで、アップルのソフトを見ればJaguarの前から付いていたわけだから、それはあくまで開発者の都合だ。レンダリングが速くなったというような、黙っていても受けられる恩恵は、ますます促す理由にはならない。APIを変える必要がないのだからJaguar向けに書いておいて、もしPantherにしたらいいことありますよ程度の付加価値でしかない。

しかし、また開発者としてのオレは悩むところなのだが、できればみんなにすぐにでもPanther にアップグレードしてもらいたいのだ(笑)。理由はなんと言ってもソフトを書くのが楽になるのだ。前述の検索ボックスもそうだし、内部的なSearchKitも使いたい。ドロップシャドウ[*3]も簡単に付けられるようになる。つまり Pantherではワクワクするような新技術はあまりないが、こなれた便利な機能が結構搭載されているのである。困った事ではある。悩みどころなのである。

というわけで、買ってもらうために Pantherへアップグレードするメリットも書いておこう(笑)。たぶん、PowerMac G5を買う人はアップグレードしたほうがいいと思う。まだOS全体の中で、64ビットCPUの性能をフルに使い切っている部分はほとんどない。つまり、従来と同じ32ビットCPUとして使っているにすぎないのだ。現在のAPIが64ビット化されることはしばらくないようだが、OSもしくはアップル製アプリが内部的に64ビットの性能をフルに出すようにこっそり準備することは十分考えられる(というよりやってもらわないと困る)。そして、こなれてきたところで64ビット版のAPIとして登場するのだろう。どう考えてもこの改良が Jaguarに対して行われることは、時期的にも開発リソースから考えてみてもあり得ない。やはりPantherに取り込まれるのだと思う。

まぁ、あとは値段か。やはり少し高いと思う。$99ぐらいが順当ではないか。「.Mac」のアカウントを持っていればディスカウントとか、「.Mac」とバンドルで$149ぐらいが順当だと思うのだが。広まってほしいだけに、惜しい。売れてくれ。

バスケ(http://www.saryo.org/basuke/)
ちっとも梅雨が明けず、もんもんとした7月なので、内容ももんもんとしてしまった感じ(笑)。夏が早く来てくれないかなぁ。そうそう、最近ようやくJavaプログラマーになりました。便利便利。タイガース戦の中継を表示するプログラムを書いてます。

[*1] 値ごろ感があると思わせる戦略 - でもちょっとセコいぞ(笑)。
[*2] 検索ボックス - iTunesなどで使われている丸い枠の検索フィールド。標準GUIバーツとしてPantherに搭載される。
[*3] ドロップシャドウ - 実はMac OS Xで多用されているドロップシャドウは、書くのが面倒だったのだ。

編集・矢口和則

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?