【翻訳】ガッサーン・カナファーニー『過ぎ去らぬもの』(パレスチナ)
列車は息を切らしたようにして、テヘランへ向けて美しい道をのぼっていく。アバダーンを出発する前に、車掌は私たちに言った。
「身の回りをよく警戒しなければなりませんよ。道のりは長く、スリたちが夜の訪れる機会を利用しますからね。彼らお得意の生活様式で......」
私は寝まいと決めていた。側には、夜に読むことのできるカラー刷りの本が一冊ある。多くを感じすぎ、多くを知りすぎた人の書いた本だ。私のいる車室はつつましい。向かいの席に座っている美しいイラン人の女性が、私の中に例のスリを