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「夢から醒めて」#5「再会」

ベットで寝たり起きたりを繰り返しているからなのか、ほわほわした気持ち。
まだ覚醒しきっていないからなんだろうけど、脳の中に雲が入っているかのように頭がもやもやする。
相変わらず拘束具はつけられたままだったが。
・・・ま、いっか。
どうせ夢の中なんだし。
あ、そういえば・・・

一つ、思い出した事がある。それは、
【バイクで事故って病院に入院していた夢を見た事があって、夜中に病室を抜け出し、『追いかけてくる何か』を振り切って、駐輪場に置いてあったバイクに跨り、走り出して表門過ぎた時に目が覚めた】事があった。
・・・
・・・ふむ、つまりは、だ。
今回もその時と同じように、この病院から・・・病院の門を出たら自宅の布団で目が覚めるんだろう。そう思った。
でも、今はベットに拘束されている。
「あー・・・」
どしたもんかな〜、コレ。腰のあたりに巻かれている拘束具。
太いGIベルトのようなモノだ。
鍵は・・・近くにないのかな?身動きが自由に取れない中、もわもわとした時間が過ぎて行く中で眠くなってきた・・・

・・・ふと尿意で目が覚める。
カテーテルは抜いてしまったのだから、トイレに行かなければ。
看護師さん達からすれば、尿瓶に出して回収交換の方が楽なんだろうけど、布団の中でするのは絶対に嫌だ。いつだったか、飲みつぶれた翌日に寝小便をしてしまったあの感覚はもう嫌。
意地を張っているかのようにナースコールを押した。
プルルルルルル
プルルルルルル
「どうしました〜?」
「トイレに行きたいてす」
「はーい、お待ちくださーい」

そんな事務的なやり取りの後、割とすぐ看護師さんが来てくれた。車椅子と共に。
「板橋さん、ずっと意識がなくて筋力が落ちちゃってるから、コレに乗って行きましょう」
ずっと意識がなかった?・・・
ああ、そうなんだ。この夢の中ではそういう設定なんだ、俺。
ふむ、この夢の中の設定を一つ理解したぞ。

看護師さんはベッドの足元の方にある、ご飯を食べる時なんかに使う補助テーブルの上から、あのおもちゃみたいな鍵を取ると、腰に巻いてある拘束具を解除。本当におもちゃみたいに簡単に外れた。後は俺が車椅子に移るのみ。よっ・・・
・・・んん。全然上半身を起こせない。腹筋の月すら書けていないぐらいに身体が動いてくれない。
それを見た看護師さんが背中に手を回して、起き上がるのを手伝ってくれた。

手すりに掴まりながら体勢を整えつつ、うんしょどっこいしょってな感じで車椅子に着座。看護師さんに押してもらい病室を出た。

視界の中にたくさんの明るさが入ってくる。視界の9割は相変わらずぼやけてはいたが、それでも明るさは感じられる。
100cmぐらいからの視界は新鮮で面白いもんだなぁ〜と思った。廊下の白さ、窓の外の空の青さ、廊下の先・テレビの音が流れてる所があるのか〜とかとか。

トイレは車椅子が入れる障害者用の広い方に。便座の近くにつけてもらうと、手すりに掴まるのを手伝ってもらいながら移った。
「脱ぐのお手伝いしましょうか?」
「いや、流石にコレはできます・・・」
「じゃ、終わったらナースコール押してくださいね」
看護師さんは出て行き、トイレに一人になった。

パジャマとトランクスをずりずりと下ろし、下腹部に少し力を入れて放尿開始。尿道から伝わる感覚がなんともいえず心地いい・・・カテーテルを抜かれる時は内臓も一緒に持っていかれる感じだったからな〜
水分の排泄を終え、うんしょどっこいしょと衣服を戻すとナースコールを押した。だが・・・
・・・あれ?もしかして、ほっとかれてる? もしくはずっとこのままなのか?
そんな不安が湧き始めた頃、看護師さんが来てくれた。

看護師さんは車椅子へ移るのを手伝ってくれて、板橋が流し忘れていた尿の色を確認してからボタンを押した。
車椅子が動き始め病室へ向かう時、なんだか王様のような気持ちがしてきた。本当にこりゃ楽ちんだわ。

病室に着くと先ほどと同じような手順でベットに戻り布団をかけてもらうと・・・拘束具をまかれた。まぁ、コレはコレで新しい経験か?と、思う事にした。
そして、天井を眺めながらぼけーっとしていると、カーテン向こうから聞きなれた声が飛んできた。「起きてる?」
あー、コレはあれだ。
耳に馴染んでいる声の音。
母からの問いかけの声。
「起きてるよー」
そう返すと、カーテンを開けて見慣れた2人、母と父が入ってきた。
にしても・・・なんで2人ともそんな顔してるんだろ。

母はいつなく嬉しさが滲み出ているような笑顔、父は人が言葉をうまく出せない時のような、妙に硬いというか素直になりきれないというか、そんな微妙な面持ちで・・・
・・・はて、なんでそんな顔してるんだろう。

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