コンバートは打撃成績に影響を与えるのか。

「守備の負担が軽い守備位置にコンバートされたことによって打撃成績が良くなった」といった言説を聞くことが時々あります。一見もっともらしく聞こえる理屈ですが実際のところどうなのでしょうか。

 守備の負担と打撃成績についての先行研究としてはDELTA社が遊撃手と捕手を対象に守備位置別の打撃成績を比較してその差を見るといったものがあります。この研究では遊撃手に関しては「守備の負担が軽減しても打撃成績が上昇するとは限らない」、捕手に関しては「参考程度ではあるが、明確に捕手以外の成績がよい傾向はない」という結論が出ています。

データで検証 「負担の大きいポジションを守ると打撃成績が低下する」は本当か?
https://full-count.jp/2020/03/03/post708324/

 またsamiさんが行った同一シーズンに複数ポジションで先発した打者についての検証では全体的な傾向で言えば、「先発出場ポジションが変わっても打撃成績はあまり変わらない」という結論が出ています。

PFを考慮した2019年パリーグwOBAとRSAA(シーズン終了時点)
https://ranzankeikoku.blog.fc2.com/blog-entry-2680.html

 ここまでの研究を見ると守備の負担が打撃成績に与える影響は全体的な傾向で見るとあまりないと言えそうです。年を跨いだコンバートについてもあまり打撃成績に影響を与えないのではないかという仮説が立てられそうです。

 今回はシーズン単位でコンバートされたケースについてざっくり検証してみようと思います。方法としては2010~2019年のNPBで連続するシーズンで200打席以上立ち最多出場の守備位置(守備試合数)が変わった選手についての打撃成績(wRC+)の変動を見るというものです。

散布図訂正

 上記の散布図では、右に行くほど守備負担の重い守備位置でシーズンを通して出場した時のwRC+が高いことを、上に行くほど守備負担の軽い守備位置でシーズンを通して出場した時のwRC+が高いことを表します。守備負担の重さについては守備のスペクトラムを参考に決めました。(ただし外野手間のコンバートに関しては外野3ポジションでのそれぞれの出場試合数のデータが手に入らなかったので除外しています。その他、三塁手と外野手のコンバートについても中堅手か両翼かで順序が異なってくるため外野3ポジションのそれぞれの出場試合数が手に入らない今回は除外しました。)

 図中の直線より上にプロットが多く集まれば守備負担の軽い守備位置を守ったシーズンでは打撃成績が良くなる、ということが言えるのですがプロットは全体的に散らばっておりはっきりとした傾向は見えていません。
 また96個あるデータのうち守備負担の軽い守備位置を守ったシーズンで打撃成績が上昇した例は48個であり半分でした。やはりはっきりとした傾向はありません。

 結論としては全体的な傾向で言えば異なる守備位置にコンバートされたといっても1年程度では打撃成績にはっきりとした変化は起きないということが言えると思います。

私見ですが「守備の負担が軽い守備位置にコンバートされたことによって打撃成績が良くなった」「守備の負担が重い守備位置にコンバートすると打撃にまで影響が出る」といった言説があるのは言説通りになった例ばかり認識してそれ以外の例は見逃すという確証バイアスが起きているからではないでしょうか。
 
 もちろんこれは全体的な傾向の話ですので場合によってはコンバートが打撃成績に影響を与える可能性も否定できません。しかし全体的な傾向としてはっきりしていないコンバートの影響を考慮して打撃成績が上昇・下降するだろうと見積もるのはあまり意味がない行為のように思えます。


データ出典元:日本プロ野球記録
http://2689web.com/

以下、元データ。

コンバート訂正


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