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エヌビディアは市場のけん引役でなくなるのかNvidia Was Wall Street’s Darling. Is the Era Ending?NYダウに投資妙味か

S&P500指数を押し上げてきたAI関連株の動きに変化の兆し

年初来のS&P500指数の上昇をもたらした主役は人工知能(AI)関連株だ。AI半導体で一人勝ちの半導体最大手のエヌビディア<NVDA>や、オープンAIとの関係や自社製品へのチャットGPTの組み込みで恩恵を受けているマイクロソフト<MSFT>などだ。アップル<AAPL>の株価も、AI対応iPhone(アイフォーン)への需要が高まるという期待もあって、年明けの厳しいスタートの後、持ち直した。

AI関連株が上昇すれば、株式市場全体も上昇することは分かった。

しかし、AI関連株のリスクリワードがこれまでのようにはいかない兆しもある。AIソフトウエアのシースリーエーアイ(C3.ai)<AI>のように、市場予想より赤字額を抑えた決算を発表して株価が19%急騰した企業もあれば、ロボティクスやプロセス・オートメーションのプラットフォーム開発を行うユーアイパス<PATH>のように、コンセンサス予想を下回る売り上げガイダンスと最高経営責任者(CEO)の突然の辞任を発表して株価が34%急落した企業もある。また、PCとプリンター製造大手HP<HPQ>のように、利益が事前予想を上回り、「AIとハイブリッド時代に向けた革新的なソリューション・ポートフォリオ」を発表して17%急騰した企業がある一方で、PCおよび企業向けハードウエアメーカーのデル・テクノロジーズ<DELL>のように、利益は市場予想を(わずかではあるが)上回ったものの、発表後の5月31日に株価が22%急落した企業もあった。デルの場合、株価は過去3カ月で80%も上昇しており、決算内容は明らかに期待外れだったようだ。

個々のAI関連株に賭けることは、これまでもハイリターンかもしれないがハイリスクだった。22Vリサーチのデニス・デバスチャー氏は、2022年にチャットGPT4がリリースされて以来、自身が「AI活用」と呼ぶ企業の86%(それ以外の企業では78%)が市場予想を上回る決算を発表したと指摘する。また、「AI活用」の銘柄は、それ以外の銘柄よりも市場予想を上回った時の株価上昇率が高く、直近四半期のケースでは株価が平均で0.3%上昇した。他の銘柄の場合は、市場予想を上回っても平均すると0.3%の下落だった。しかし市場予想を下回った場合、「AI活用」銘柄は決算発表後に平均5.3%下落したが、それ以外の銘柄の下落率は2.5%だった。デバスチャー氏は「要するに、これらの銘柄は業績サプライズに対するベータ値が高い」と説明する。

市場全体から見れば、本当に重要なAI関連銘柄は一つだけで、やはりそれはエヌビディア株だ。エバーコアISIのデータによると、5月22日の決算に向けて、エヌビディアの株価はS&P500指数と0.95の相関係数があった。これは、過去1年間において両者がほぼ完全に同じ動きをしていたことを意味する。相関関係は必ずしも因果関係を意味するものではないが、この場合はほぼ同じであると言える。


I-HWA CHENG/BLOOMBERG

エヌビディア株に連動しない相場

しかし、ここ数日で何かが変わった。エヌビディアの株価は決算発表の翌日に9.3%上昇したが、これは時価総額が2兆ドル以上の企業としては驚異的なことだ。デバスチャー氏によれば、エヌビディア株の高騰は、一部の企業の株価を押し上げた。半導体関連株では、オランダの半導体製造装置メーカーのASMLホールディング<ASML>、半導体大手のブロードコム<AVGO>とマーベル・テクノロジー<MRVL>、半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>。資本財株では、産業機械のイートン<ETN>、航空宇宙部品の開発・製造のトランスダイム・グループ<TDG>、空調関連のジョンソン・コントロールズ<JCI>。そして、エネルギー大手コンステレーション・エナジー<CEG>やテキサス州の電力会社のビストラ<VST>などの公益事業株だ。

しかし、S&P500指数はエヌビディアの決算発表の翌日には下落している。デバスチャー氏は「AI関連株のモメンタムは非常に強いが、エヌビディアの決算を受けたAI関連株は、市場全体を押し上げることはなかった」と話す。

これは気になる動きだ。エバーコアISIのストラテジスト、ジュリアン・エマニュエル氏は、エヌビディアの株価が決算発表後の3日間で20%上昇したのに対し、S&P500指数はわずかに(1ポイント未満ではあるが)下落したと指摘する。エマニュエル氏は、S&P500指数における第3位の銘柄の株価がこれほど上昇したのにもかかわらず、同指数の動きがこれほど小さいという事実に驚き、同指数の上位5銘柄の一つが少なくともこれほど上昇した時に指数が下げて終わった他の例を探した。しかし、一つも見つけることはできなかった。

エマニュエル氏は「エヌビディアが市場そのものである株式ではなくなることで、過去2週間の市場の低ボラティリティーの『静けさ』が終わる可能性が高い」とコメントしている。

NYダウに投資妙味か

確かに、静けさはわずかだが破られつつあるようだ。シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX指数)は、5月27日の11.93から同31日には14.51まで上昇し、非常に平穏な市場に少しノイズが入り込んだ。株価上昇の勢いがなくなっている今、これまでうまくいっていたものからそうでなかったもの、つまりダウ工業株30種平均(NYダウ)への乗り換えを検討する時かもしれない。

NYダウは、AI主導の市場に対するアンチテーゼだ。エヌビディアは入っておらず、株価の加重平均で算出される指数であるため、医療保険最大手のユナイテッドヘルス・グループ<UNH>と金融大手のゴールドマン・サックス<GS>が最大の銘柄だ。マイクロソフトは3位だが、アップルは金融大手のJPモルガン・チェース<JPM>と航空機大手ボーイング<BA>に挟まれ、中間付近に位置している。2024年に入ってNYダウの上昇率は1.2%にとどまっており、S&P500指数の9.3%、ナスダック総合指数の10.3%をはるかに下回っている。さらに、ユナイテッドヘルスの悲観的な見通しや顧客関係管理ソフトウエア大手セールスフォース<CRM>の期待外れの決算により、NYダウはこのところ下落している。
ベア・トラップ・レポートのラリー・マクドナルド氏によると、NYダウは5月17日に4万ドルを超えて以来4.7%下落しており、5月30日の取引終了時点で、2022年9月以来で最大の売り越しの状態にあるという。
AI関連株への投資熱が一段落したのであれば、NYダウに投資するのも悪くはないだろう。

原文 By Ben Levisohn
(Source: Dow Jones)
翻訳 エグゼトラスト株式会社

この記事は「バロンズ・ダイジェスト」で公開されている無料記事を転載したものです。