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生物学を斬る#7 【セントラルドグマ】

生物学にはセントラルドグマ、日本語に訳すと中心教義と呼ばれる法則が存在する。
中心教義というとでたらめなことのように感じられるが、現代生物学の根幹をなす基本概念で、「遺伝情報はDNA→RNA→タンパク質の順に発現する」という分子生物学における法則である。
(DNAは遺伝情報の安定した保持や継承を、タンパク質は生物の構造や機能を、RNAはDNAとタンパク質の役割の媒介を担う。)

遺伝情報であるDNAを細胞分裂の際に2倍に増やし娘細胞に分配する過程はDNAポリメラーゼにより担われており、複製と呼ばれる。
核に存在するDNAの情報を、必要な分だけ核外のタンパク質生産工場へと運ぶためにDNAをRNAへと写し取る工程はRNAポリメラーゼにより担われ、転写と呼ばれる。
RNAの情報から実際に機能を担う実体であるタンパク質を生産する工場がリボソームで、その過程は翻訳と呼ばれる。

この考えが発表されたのは今から60年以上前だが、この法則はほぼすべての生物に当てはまり、生命の遺伝情報の継承と遺伝情報の機能としての発現を結び付ける考え方として広く根付いている。
また、この遺伝子発現方法とそれを担う分子が生物で広く保存されているという事実は、生物が単一の起源をもち、そこから進化してきたものであるということを示す証拠であると考えられている。

近年の重要な研究の進展もセントラルドグマと関連していることが多い。DNA配列が遺伝情報として、タンパク質が生物の機能を担うという生命の普遍性は知られていたものの、DNA配列からどのような構造のタンパク質が生じるかは自明ではなかった。
Alphafoldが話題になったのは、この長年存在したギャップを多くの割合のDNA-タンパク質のペアについて埋めることができたためである。

しかし、生物と無生物の間のような存在であるウイルスにはこの法則が当てはまらない場合がある。
例えば、RNAをゲノム(生物の遺伝情報の総体)として持ち逆転写酵素と呼ばれる酵素を持つウイルス(エイズを引き起こすHIVなど)は、RNAからDNAを作って宿主(感染先の生物)のゲノムに組み込んでしまう。

また、現在はポストゲノム時代といわれ、セントラルドグマの単純な情報の流れ以外の様々な生体機能が調べられている。
ヒトのゲノムでタンパク質として発現されるのは2%程度で、昔は他の部分はジャンクDNA(がらくた)と呼ばれていた。
しかし、現在は他の部分も半分以上は転写され、ノンコーディングRNAとして転写調節などの機能を担うことが知られている。

ゲノム編集技術として生命科学の研究に広く使われているCRISPR Cas9システムにおいても、ノンコーディングRNAの一種であるtracrRNAとcrRNAが含まれる。
tracrRNAは反応を支える足場として、crRNAは標的配列へ特異的に結合する道しるべとして働く。
(研究の場面ではこれらのRNAを結合したgRNAが用いられる。)
CRISPR Cas9システムが幅広いターゲット配列を特異的に切断することができるのも、このgRNAの機能に依存している。

参考文献

生物学にはセントラルドグマ、日本語に訳すと中心教義と呼ばれる法則が存在する。現代生物学の根幹をなす基本概念で、遺伝情報はDNA→RNA→タンパク質の順に発現する。遺伝子発現方法とそれを担う分子が生物で広く保存されているという。

ELYZA DIGESTを用いて要約
サムネイル画像はとりんさまAI(@trinsama)により生成