バスで田舎

『バスで田舎へ行く』(泉麻人、ちくま文庫、2005年)読了。

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 文庫刊行は2005年だけど、もとの雑誌連載は1999年、本は2001年。なので実際のバス旅は1999年、2000年のものが多い。(もっと前のもある。)
 ・・・ざっと20年前。だからここに載っているバス路線で廃線になっているルートも多い。もともと絶滅危惧種だった田舎のバス路線なので、なおさら、その激減率は高い・・・そりゃそうだ。
 とはいえ、では廃線になって、田舎は困っているか?といえば、田舎こそ自動車社会なので、環境激変というわけでなく、そのままの暮らしが続いているのではないか?・・・知らんけど。
 本の感想に戻る。泉麻人さんは、この後にも東京都内のバスルートを巡る本を何冊も出されている。バス旅案内のスペシャリストである。もっと若い頃の『東京23区物語』では、地域を小馬鹿にしたシニカルな表現も目立ったが、この『バスで田舎へ行く』の頃には、意地悪さはほどんど消え去っている。そして泉さんの文章の特徴は、対象との「距離」をほどほどに常に保った”クール”さだと自分は思う。
この”クール”さこと、都会っ子=シティボーイの感知力、表現力の真髄だろう。
 言い換えると、田舎を馬鹿にするのではない。田舎は田舎、自分は自分の住んでいる世界がしっかり別にある、という姿勢というか。この感覚が泉さんの文章を泉さんたらしめている、カギではないか?と思う。
 そして、もう一つ泉さんの強みは、その抜群な「記憶力」で昔の経験談・体験談を引っ張り出してきて、現在との対比で文章中に”ぶっ込める”ことだ。

■目次
第1章 母里(もり)と広瀬 山陰ののどかな城下町
第2章 大阪能勢(のせ) 僕のオオクワガタの故郷へ
第3章 越後「人面(ひとづら)」と「油揚げ」の町を訪ねる
第4章 津軽紀行 イカと太宰と温泉と
第5章 京のどんづまり 茅葺き宿の地鶏の味
第6章 阿武隈百目鬼(あぶくまどうめき) 妖気地帯探訪
第7章 飛騨合掌の里 どぶろく祭りでデデレコデン
第8章 高知馬路(うまじ)村 ユズの桃源郷に残る森林鉄道
第9章 奈良天川(てんかわ)村 癒しの山里を往く
第10章 登米(とよま)「宮城の明治村」へ時間旅行
第11章 播磨灘 遊女伝説を追って
第12章 長崎平戸 隠れキリシタンと巨漢力士の伝説
第13章 オホーツク 小雪舞う流水海岸を北上す
第14章 種子島 珍地名「阿多惜経(あったらきょう)」を探る
第15章 奥多摩 幻の湯の町日帰り旅行
第16章 南紀龍神 B29が墜ちた里
第17章 みちのく 一戸〜九戸のバス停ラリー
第18章 山口長門 ホタルと楊貴妃を訪ねて
第19章 伊那・奥三河「虫づくし」の旅
あとがき・文庫版あとがき
解説
コラム① 田舎町の平凡な食堂
コラム②田舎町のあけすけな若者
コラム③田舎町のバス待ち小屋
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