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目を見て、声を聞いて、伝えたい感じたい

初日は出来なさすぎて落ち込んで、缶酎ハイを飲みながらぼろぼろ泣いていた帰り道。
2日目は、橋口監督に言っていただいた言葉を思い出してはあたたかい気持ちに包まれて、報われたようで、やっぱりぼろぼろと泣きながらの帰り道。




ずっとずっと好きだった、映画“恋人たち”の橋口亮輔監督のワークショップに参加をしてきました。長くなりますが、一生忘れられない、とても色濃い2日間になったので読んでいただけたら嬉しいです。



“自然体、自然体”と念じながら乗る朝の総武線。
気づいたら、緊張をしたり気負ったり全然フラットな状態でなくて、ワークショップの最初にあった自己紹介は、それはもうガチガチに、
緊張をしていました。

そして始まったワークショップ。
“ぐるりのこと”の幾つかのシーンをやることになりました。


そのペア分けで、
最初に心がポキッと折れました。

ねるとん方式で男性から女性陣は選んでもらって、ねるとんと同じ成立したら握手で、無理ならお断りをする。
普通に、序盤に、
来てくれるだろうと思っていました。
なんなら2人くらい。飲み屋で時々ちやほやされることもある私は(阿呆ですね)、大きな勘違いをしていました。

最後まで残った男女になりました。2対2。

そのひとりの男性は、私に手を差し出しました。その方は、実年齢は50代後半だけれど、マスクをすると70代くらい、されていなくても、、御本人も実年齢より上に見られる仰っていたのですが、、“おじさん”というよりは“おじいちゃん“という言葉がしっくりくる猫背の方でした。
もうひとりの男性は40代の背の高い、いい声の、多分二枚目タイプ?のひとでした。


「ぐるりのこと」は夫婦の話で、使う台本は、夫婦で決めた「♡の日」などが出てくるシーン。

夫婦役も想像が出来なくて、それなのにさらにセックスを匂わす台詞まで出てくる。
自分の事を棚に上げて思ったことは、
「これはチャレンジだ。」
「何か面白いものが生まれるかもしれない。」

一か八かの賭けのような覚悟で、私も手を差し出していました。(ワークショップの打ち上げで橋口さんに、“絶望みたいな顔をしていた”と言われました。)

そして始まった本読み、エチュード。
昔は闇雲になんでもかんでもオーディションを受けていたけれど、7年ぶりに役者を再開した私が強く心に決めたことは、“ちゃんと相手役と心を交わして、本当の気持ちで台詞を伝える”ということでした。


そして最初の本読みは、「もっとちゃんと演技をしてもらっていいですよ。」と橋口さんに言われるほどで、感情が全然掴めなかった私はぼそぼそと台詞を言って、何も言葉も気持ちも交わせない私たちペアのエチュードは、“不毛”に近いような感想をいただき、翌日の台本ベースのエチュードは、「台本にある情報だけで何も生まれていない。」という橋口さんの言葉でした。


初日の後半は、“明日は参加をしたくない”と本気で思うほど落ち込みました。
泣きながら歩いていた帰り道、“もう(一生)役者をやめよう”とも思いました。

相手役の方と、夫婦役も、そんな台詞も私は交わせる気が全くしなくて、その感情の作り方が分からなくて、ぼろぼろ泣きながら、通ってる立ち飲み屋の常連仲間で長年役者をされているKさんにメールをしていました。

Kさんの居る酒場に合流して、Kさんは丁寧に、丁寧に、配られた台本を読んでくださって、
アドバイスとヒントを、くれました。翌日のワークショップに行けるための、お守りのような気持ちを、くれました。


2日目の朝と会場に向かう電車で、公開時に映画館で観た以来の「ぐるりのこと」を観ました。
当時の私と全く見え方が違って、それは勿論、橋口さんから撮影話を沢山聞かせていただいたこともありますが、とにかくあちこちが痛くて優しくて、ひりひりとじんじんと、心に響いてきました。


そして私は“覚悟”という気持ちを思い出させてもらいました。演じている役者の方々の“覚悟”を、ぐるりのことの中に見ました。


初日と2日目のお昼ご飯の時に、相手役の方と色々喋りました。仕事のこと、恋愛経験のこと、何に怒りを覚えるか何をされることが嫌か、ごめんなさいと言いながら、それはもう、通常の初対面の人間なら聞けないようなプライベートなことをたくさん聞きました。私は不器用だから、下手くそだから、その人の人間そのものが分からないと少しでも本当に距離が近づけないと、夫婦役なんて出来ないから、とにかく、話すしかないと思いました。友人ですら敬語で話すという相手役の方は、話すときもほとんど目が合わないような、とてもシャイでおとなしい方でした。


そして、ワークショップで最後の発表の順番が回ってきました。
演るのは、「ぐるりのこと」の中でも多分クライマックスの、台風の日の夫婦ふたりのシーン。


“やりたくない”と何度も頭によぎる怖さと不安とと戦いながら、ぎりぎりまで、“どう演ろう?”“どつやったら本気で向き合えるのだろう?”と考え、最終的に、台本上にあるト書きは一切無視をして私は皆の前に立っていました。相手役の方への打ち合わせ無し、本当に即興芝居でした。

そして始まった私たち夫婦の話。
最後まできちんと感情を掴めないまま、きっかけとなる台詞を口にする。そこからは、とにかく目を見て、向こうはやっぱりまともに目を合わせてくれないから、「ちゃんと目を見て!」と台詞でも何度も言っていました。
ちゃんと聞いて欲しかった分かって欲しかった怒ってほしかった感情を見せて欲しかったわかり合いたかった、それだけを思って話していたら、気づいたら涙が溢れて溢れて仕方がなくて、袖口で何度も涙を拭いながら、私はただただ、その人の目を見つめ、気持ちを伝える言葉を口にしていました。ふとした瞬間、その人の頬にもひとすじの涙が流れていました。その時、初めて相手役の方と、やっと本当に、気持ちが交わせたと感じました。

「カット!」と橋口監督の声がかかり、皆が座っている所に戻って座ろうとしたら「良かったですよ。」と監督の言葉。
その後、私が最後に言っていた言葉が、今回のワークショップで1番胸に響いた言葉(台詞)だっと皆の前で仰ってくださいました。本当に、本気の気持ちが伝わったと。(私の記憶でのニュアンスで書いたので、実際は微妙に言葉は違うと思います。)「イレギュラーだったけどね
(笑)」とも仰っておりました。それと、後でお聞きしたのですが、「(私たちのペアは)無理かもしれない。」と思っていらしたそうです。

打ち上げの時も、ワークショップ中の時も(だったかな)「〇〇さん(←私のこと)は諦めなかった。」と何度も仰ってくださって、2日間ずっと昼休みも二人でいたことを話してくださいました。必死に向き合おうとしていたことを、監督は見てくださっていました。
そして私は気づきました。何とか本気の気持ちで言葉を交わしたいという思いだけを目標にやってきたことは、“諦めない”という事だったんだ、って。

何度も逃げ出したくて泣きそうになるくらいの怖さと戦っていた2日間。橋口監督が最後に言ってくださった言葉は、役者として、一生忘れられない宝物になりました。そしてそれは、今やっている装具の修理という仕事によって、重ねた経験や体験も大きく影響しているような気もしました。

怖いけど好きだ。難しいけど好きだ。

私はやっぱり、役者が好きです。


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