果樹園

晴れた日曜日の朝、彼女が「果樹園に行こう!」と言った。

僕はアイスコーヒーを水筒に入れ、彼女がサンドイッチを作った。

行きの電車の中で「果樹園って何の果物がなってるの?ブドウ?ミカン?」と彼女に質問したが「着いてからのお楽しみ」と言って彼女は楽しそうに笑った。

お店も何もない寂しい駅に着くと、彼女は「こっち、こっち」と先を急いだ。

「前に来たことあるの?」と僕。

「うん。私しばらくの間そこでいたことがあるの」

「え?果樹園で働いてたの?」

「行けばわかるから」

すると先の方に何の変わったところもない平凡な果樹園らしきものが見えてきた。

入り口で「大人二人」と告げて入場料を払い、中に入るととんでもない光景に驚いた。

木にはたくさんの人間の顔がぶら下がっていて、じっと僕らを見ていた。

「この人達の誰かから物語を受け取って。そしたらあなたはその物語を育てることが出来るの。それでその人は安心して次の世界に行けるのよ」

「えと、それで物語を受け取った僕は?」

「もちろんこの果樹園の顔になれるの」

「ということは君もここで…」と僕が言うと、

僕のすぐ後ろにいる目の細い男の顔が「まあまあそんなことは後でゆっくり話すとして、私の物語を聞いて下さい」と言って深い暗闇について話し出した。

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