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ASOBIJOSの珍道中

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文筆家で尺八見習いの万里一空と、日本舞踊を習っている妻・MARCOによる、ドタバタ自給型ハネムーンの紀行文です。素っ頓狂で向こう見ずなアホ二人がカナダワーホリへ。果たして、無事に…
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#新婚旅行

ASOBIJOSの珍道中㉒:バンクーバーアイランドへ

 ”ねぇ、バスまだかなぁ”  ”乗り場8番って書いとったけん、大丈夫やろ、眠い…”  と、両手をスーツケースに置いて突っ伏して眠る私…。  ”もう時間なのに…”  ”遅れとんやろ…。”  と、ウトウトとしていると、”Airport! Airport!"と叫び声が後ろから…。  ”フランス語わかんねぇと、すぐコレだ。”  ”だからいったやん”  と、大慌てで、スーツケース2つと、バスキング(路上演奏)で車輪を壊して全く動かなくなった3つ目のスーツケースを必死にずりずりと押して進

ASOBIJOSの珍道中⑪:ようやくモントリオールにも春が

  コンクリートのビル群が並んだモントリオールの中心街の北側に、あまりに唐突に、近代フランスの香りがむんむんと立ち込める石造りの巨大な門が立ち現れまして、その門をくぐると、急に別世界のように、伸び伸びと育った樹木と芝が生い茂った一面の緑が広がります。その門からは広い舗装道がまっすぐと伸びていて、その左右のベンチに座った大学生たちのうたたねまじりの読書や、健気で不毛な色恋を、ふくふくとした花々の咲き乱れた花壇が縁取りを与えています。  カナダで最も長い歴史を持つ名門、マギル大学

ASOBIJOSの珍道中⑨:NY、路上で尺八吹くのは肝試し

 ゴトリ、ゴトリ、と揺れる車窓には、早朝の柔らかな陽にとろけたモントリオールのカラフルなビル群が流れ、ジープとキャンピングカーとロッジが並んだ田舎町も二つ、三つ、と流れてゆき、白樺の樹々の間から覗いた巨大な湖の上で、西陽が燃え、いつしかまた、あのニューヨークへ、無作法に、ぶっきらぼうに立ち並んだ高層ビルの窓が輝きひしめき、三日月もせま苦しそうにかかった、夜の大都会に、列車は突き刺さりました。  前回からひと月が経って、4月の下旬のことです。今度は私ひとりで来たため、節約しよう

ASOBIJOSの珍道中⑧:NY、7年ぶりに。

 ”もう二度と飛行機なんて…”とMARCOさんは相変わらず。  今度はニューヨークに下り立ちました。3月下旬のことです。2泊だけの予定で、今回の目的は、尺八でジャズの作曲や演奏をしているザック・ジンガー氏に会いにいくことでした。空港から地下鉄に乗り、予約していたソーホーエリアのホテルへ向かいます。  ”切符ってこれでいいんだっけ。”  ”なんか、うまくカード決済ができんのやけど〜”  などと、田舎モノのわたしたち。モタモタとやっていますと、  ”Sorry, we are i

ASOBIJOSの珍道中⑦(MARCO執筆):モントリオールで拾った月額7,000円の絆たち

 モントリオールにきてから2ヶ月経つというのに、私はニートだった。近所のカフェは全部落ちたし、送ったメールは返信が来ないし、そもそも求人は全部フランス語必須と書いてある。ずっと避けていた、e-Mapleという在カナダ日本人向けの掲示板サイトを開くと、キラキラした文面で、日本食レストランの求人が並んでいた。私はそこで、やっとの思いでウェイトレスの仕事を見つける。  変なレストランだった。念仏と神棚と浴衣と茶道とJ-popとサムライを雑炊にしたような場所。食事が始まるときは、ま

ASOBIJOSの珍道中⑥:ディッシュウォッシャー

 ”一空、同じ皿はまとめるんだよ。洗い終わった皿もイチイチ運ばなくていいから。ダメダメ、そんなんじゃ遅い。あのね、もっと先を見て仕事するんだよ。どうやってやれば効率よくできるか、考えながら動くの、わかる?どんな仕事だってそうだからね。”  と、マグロの料理長は早口で急かします。私が働くことになったフレンチレストラン『La petite plantation』には、大きなバーカウンターといくつものテーブルがずらりと並んだダイニングホールがあり、その端にキッチンが一つ、そこからさ

ASOBIJOSの珍道中⑤:スカンクに追われ

 3月初旬、凍りついた街の闇夜を歩いていると、背後からガサゴソと、氷を引っ掻くような音がしました。嫌な予感。ダッと、全力でダッシュをしてみましたが、すぐに追いつかれました。獣。黒い毛にフサフサの白い毛、猫のような鼻。そうです。スカンクです。  両手に食べ物がパンパンに入った買い物袋を持ってゼーハーゼーハーと息を切らす私から、いつでも飛びかかれるほど近い、1メートルくらいのところから、じっと私を睨みつけています。ひとまず、りんごを一つ取り出して、そっと相手の方に転がしてみました