見出し画像

リターンゴルファー練習場エレジー

ゴルフを始めてゴルファーを名乗る。イメージするのは広々した緑のフェアウェイを颯爽と歩く自分の姿。

しかし、実際はゴルファーにとってゴルフと関わる時間がもっとも長いのは練習場だ。大抵郊外の少し寂れた感じの街道沿いにあって、高い支柱とナイロンのネットで囲われた通称”鳥かご”。昼間からなんだか呑気な空気が流れていて、暇そうなおじさんたちがカチーン、パコーンとボールを打っている。

慣れた私でも冷静に考えれば初心者にはちょっと馴染みにくい雰囲気ではある。私の note では、ゴルフ初心者の方やあまりゴルフに馴染みのない人が少しでもゴルフの世界を理解してもらえるような内容にしていきたいと考えているので、今回はゴルフ練習場にまつわるあれこれと、上手な付き合い方を書いてみたい。

ゴルフ練習場のお仕事

学生時代、と言ってももう30年ほど前のことだけれども、ゴルフ練習場で1年半ほどアルバイトをしていた。今では当たり前のことだけど、各打席へのボール供給も、ティーアップもすべて自動の当時としては新しいシステムを取り入れた練習場だった。

私がゴルフに楽しいイメージを持って出会うことができたのも、その練習場のアルバイト先としてのやりがいと、楽しいバイト仲間とのやりとりがあったからこそだ。

その練習場はオープンからまだ約10ヶ月ほどで、私は2期目のバイト生だった。普段は打席の案内や使用後の片付け、駐車場の管理、たまに受付の接客などが主な仕事だったが、業界の中でも新しいと言えるシステムを使っていたおかげで当初はトラブルも多く、何かと手探りで改善を試している時期でもあった。

バブル景気真っ盛りだった当時、大手企業はこぞって経営の多角化を計っていた時代だった。その練習場を計画から立ち上げたのも日本でトップにある製粉会社だ。

なぜ製粉会社が?と思われる向きも多いだろう。聞いたところではなんでもゴルフボールを大量にタンクのようなストッカーからコンベアに送り出し、設備全体に満遍なく行き渡らせようとするとき、群れをなして流れるゴルフボールの挙動がプラント内を移動する粉末の動きとよく似ているらしい。そのため機械を設計するときの力学の計算式みたいなものもベースになる部分はほぼ共通していて、ゴルフ練習場の機材もその応用式で対応できるそうだ。だから当初は親会社から社長、支配人と、いかにも職人的な年配の機械担当者が出向されていた。

ここの仕事で一番大変だったのが池の清掃だった。当時は打席から100ヤードの位置にあるグリーンの周りに池があり、打席からその池の手前までは天然芝だった。ボールがその芝生にバウンドして池に入る時に僅かに土を拾ってしまう。そういうと大したことはなさそうに聞こえるかもしれないが、1日1000人近くの来場者が数万発のボールを打つ訳で、定期的に掃除をしなければ池の底に溜まった泥で設置されたボールを引き上げるための金属製のコンベアが動かなくなってしまう。

そこで池の掃除を行う当日は終業時刻の2時間ぐらい前になるとネットの脇にあるポンプのバルブを開けに行き、池の排水を始める。すべてのお客さんが練習を終えて諸々の片付けを終えるのが深夜0:30ごろ。それから我々バイト生は漁港の市場で着るような胸まであるウェーダーを着込み、100ヤード先の池へと向かう。

↓こんなやつ、ウェーダー。

画像1

作業は社員さんの一人が高圧の水流で池の底の汚れを洗い流しつつ、バイト総がかりでデッキブラシを使って水の抜けた池全体を擦っていくというもの。たまった泥が多い時にはスコップを持ち出してバケツで掻き出したりもする。この作業はもちろん真冬でも必須なのだが、冷え込んだ真夜中の作業が終わる頃には池の周りに散った水しぶきが凍って霜のようになっていく。体は容赦なく冷えていくのでバイトはサボっている方がむしろ辛い。息が切れるぐらい必死でデッキブラシを動かしていると、やがて体が温まるし、仕事もそれだけ早く終わるのだ。

そんなきつい仕事の夜でも私たちバイト生が幸福だったのは、その練習場の支配人の心の広さと暖かさだった。池の掃除をする日、支配人は必ず遅番で勤務をし、もう帰っていいはずの深夜に事務所で雑用をするのはそのフリだけで、1時半過ぎごろ作業が終わってゾロゾロとバイトが事務所に戻る頃には机の上にビールと乾き物のつまみを並べて「お疲れさーん」といつもニコニコ顔で待っていてくれたのだ。

普段何かと生意気ばかりの私たちアルバイトと支配人が、池を掃除するその夜はあれやこれやと正直に尽きない話で夜更かししたのがいい思い出になっている。

練習場は進化する

ゴルフ練習場という業態は不思議な側面を持っていると思う。お客の利用目的が極めてシンプルで『打席に立ってボールを打つ』ことだけというのがその理由でもある。

結果、河川敷の原っぱにマットを並べた打席のみという昭和的な練習場もいまだに営業している。一方でティーアップもボールの供給も自動化は当たり前。料金の精算はプリペイドカード。各打席にしっかりした椅子とテーブルを備え、物販コーナーには中古クラブのショップが店を構えてカフェとレストランまである。ゴルフにまつわる情報とサービスを提供してお客の満足させようという練習場も珍しくはなくなった。

一方でアメリカから来たTOP GOLF という練習場(?)というかゴルフをテーマにしたエンターテインメント施設も、やがて日本に進出するらしい。こうなるともうちょっと世界観が違うかなとも思う。

https://youtu.be/Fm5zNT3y-1k

私が住んでいる東京北部エリアでも、最近は屋外の「鳥かご式」練習場はだんだん数を減らしてきている。私が子供の頃に企業の工場や倉庫だったものがバブル期にゴルフ練習場になり、近年はマンションに建て替わる。そういうパターンが多いと思う。とても残念なことだ。

ここからは私が普段利用する練習場をいくつか紹介してみたい。

ザ・ゴルフガーデン高島平

私が学生時代にアルバイトをしてゴルフに出会った練習場がここ。オープンから30年が過ぎ、今何度目かのゴルフブームの中にある。

今年の夏にリニューアルして、チャージ式の会員カードを使う形になった。残念なのは、そのリニューアルにともなって、打席料のチャージが掛かるようになったことだ。

打席料というのは罪な仕組みだと思う。例えば1球あたりの料金が多少高いとしても仕事を終えてちょっとだけスイングの確認をしたいな、なんていう時に打席料がかからない料金体系というのはとてもありがたかった。

忙しいサラリーマンが少しでもリーズナブルにゴルフを練習したいという時、平日であればそれほど時間も取れないだろうから、週に1回100球だけ練習したい、なんていうニーズは多いと思う。私以外にも。ああ残念。

トーキョージャンボゴルフセンター

ここは東京の城北エリアでは筆頭といえる規模と設備の充実度を誇る練習場。練習場も今ではビジネスとして練習用のスペースとボール貸しだけでなく、ゴルフにまつわる様々な情報と体験を提供するサービス業なのだと思う。実際カウンターの外にも常にスタッフを配置してシステムを丁寧に説明してくれて初めてでも高齢者でも安心して練習できる。打席の後ろの通路の幅も広く、明るくて清潔な雰囲気。例えばパートナーの女性がゴルフを始めたくなったとしたら、ここなら連れて行っても間違いはない。

特筆すべきは深夜、早朝の時間を開放しているところ。つまり、打席料フリーで練習できるから、ここならチョイ練したいニーズにも応えてくれる。夜中にふとスイングのイメージが浮かんでしまった時などに猛烈に球を打ちたくなる。そんな人にはうってつけだ。

コロナウィルス感染防止のために以前とは深夜早朝の営業時間が変更されているけれど、アーリーバードのゴルファーは試す価値あり。

ただ残念なのは私の自宅からは車で30分ほどかかること…。

中台ゴルフセンター

現在の私のメインの練習場がここ。規模は小さく設備も古いけどどこかアットホームでゆるい感じ。地元ってこうだな、そんなことを思う。

この練習場の素晴らしいところはジュニアレッスンに力を入れているところ。子供たちにとってゴルフというスポーツはなかなか真剣に取り組むにはハードルの高いスポーツで、周囲の環境が大切だ。

私は仕事が平日休みの日に早朝の時間に通っている。平日の早朝にゴルフの練習といっても、経験のない人には今一つピンとこないと思う。中台ゴルフセンターでは、日の出から平日は9:00 まで、土日祝日は8:00 までの時間を打席料無料で開放してくれているのだ。

一応日の出からという文言はあるが、実際には夜明け前の真っ暗な時間からビシバシボールを打つ人たちが集まっている。

最近は24時間営業のスポーツジムもあって、会社に出勤する前にエクササイズを楽しむ人も増えている。その選択肢の一つに早朝のゴルフ練習場というのもありだと私は思う。

私は土日ならそれこそ夜明け前の朝5時ごろから、平日なら6時ごろから50球を目安に練習する。私が帰る頃、混んでいる日は打席待ちの人がちらほら現れ始める。練習場のスタッフはいないのでなんとなく先着順にそれぞれ打席に入るようだけど、あれで大丈夫なのか若干心配でもある。平日はそれほど混雑することはなく、大抵7時前ぐらいの時間に人が減っていくことが多くて、たまに自分一人で貸し切り状態になったりする。

一回の練習の球数は少なく、それでもまめに練習したいという人は早朝の時間帯などを活用して、打席料なしの練習場を探すのが良いと思う。

ドラマチックドライビングレンジ

思い思いにただ黙々と無心でボールを打つ。もちろんそれがゴルフ練習場の目的でもあり、良さであり、真髄とも言える。

「ゴルフの上達」というところを目標に置けば、確かに効率の良い道筋とは言えないのかもしれない。それでも私は人がゴルフボール を打つためにゴルフ練習場に集うとき、その目的は単純な「ゴルフの上達」だけに一括りにはできないのだろうと思う。ある人は自分自身実現するとは思えていない夢を追いかける時間を過ごすのかもしれないし、またある人は日常を忘れ自分の身体と向き合うことで本当の自分を取り返そうとしているのかもしれない。そしてもっともっと多くのゴルファーたちが、私の想像のおよばない何かを理由に、ボールを打っている。そして多分そこから何か新しいドラマが芽生えたりすることだってある。

多くのプロゴルファーがゴルフを始めたきっかけとして、練習場での親との会話や良いお手本としての大人との関わりをあげることがある。それはおそらく、レッスンありきの小さなゴルフスタジオでは成立しない場面なのだろうと思う。

最近はゴルフの弾道解析の技術も進歩して、良い機械が安価で出回るようになった。そのせいである人に言わせると軽くて滑りやすいレンジボールをたくさん打つよりも、コースのボールを使ってスタジオで練習する方が上達が早いという意見もある。

残念だが練習場でゴルフに出会った私には、そういう意見は響かない。私が思うゴルフの楽しさと気持ち良さは、なんといっても目の前に広がる大きな芝生のフェアウェイと、そこに自分が打ったボールが尾を引くように飛んでいくその爽快さそのものだと思うからだ。

これからゴルフを始めることに迷っているという人なら、明日練習場へ行って欲しい。そこでごく単純なナイスショットの気持ち良さを一度経験してみることだ。私ごときではあるけど敢えて断言するならば、ゴルフの正解はまさにそれなのだ。そこから明日が変わることもあるかもしれないし、多分多くのベテランゴルファーもまた次のショットに求めているのはその感触であることはいつも真実であるはずなのだから。


より良い楽しい記事作成に活用させていただきます。ぜひサポートをご検討ください。