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【ショートメモ】ゼンショーがハンバーガーチェーン業界でマクドナルドに対抗できる規模になるための戦略

2023年に牛丼チェーン「すき家」で有名なゼンショーホールディングス(以下「ゼンショー」)が、ハンバーガーチェーンの業界4位であるロッテリアをロッテグループから買収しました。
同社のIRでは、食材調達、物流、店舗運営機能の分野でシナジー効果が期待できるとしています。
ゼンショーは、すき家以外にも、「なか卯」、「ココス」、「ビッグボーイ」、「ジョリーパスタ」、「はま寿司」、「華屋与兵衛」、「牛庵」などの多業態のレストランチェーンを運営しており、店舗の効率運営やスケール化するノウハウは国内随一といっても過言ではないでしょう。

ハンバーガーチェーンの店舗数ランキング

直近のハンバーガーチェーンの店舗数ランキングは以下の通りとなります。ゼンショーが買収したロッテリアは業界4位となっています。

ゼンショーの2023年度の売上高は約7,800億円となり、ハンバーガー業界日本1位のマクドナルドの売上高3,500億円の2倍近い規模となっています。しかし、ハンバーガー業界の店舗数では、ロッテリアは約9倍近い大きな差をつけられています。
日本のハンバーガー業界というカテゴリーを作り上げたマクドナルドの牙城は、自前での成長だけではそう簡単に崩せそうにありません。マクドナルドが作った日本のハンバーガー業界は、なかなか他の会社が競争できないほど強固です。

1位 マクドナルド 2,966店
2位 モスバーガー 1,300店
3位 ケンタッキーフライドチキン 1,197店舗 
4位 ロッテリア 306店舗 ← ゼンショーが2023年に買収
5位 バーガーキング 204店舗
6位* サブウェイ 172店舗
7位* フレッシュネスバーガー 163店舗
8位* ファーストキッチン57店舗
9位* ウェンディーズファーストキッチン 53店舗
10位* クアアイナ 35店舗
*は2023年3月時点。それ以外は2023年12月時点

マクドナルド、モスバーガー、ケンタッキーフライドチキンは、1000店舗以上の店舗を持ち、一方、ロッテリアは300店舗程度で、業界で4番目に位置していますが、上位3社との差は大きくあります。

バーガーキングの売却で更なる業界再編か

2022年の初旬にロイター社が、香港のプライベートエクイティファンド、アフィニティ・エクイティ・パートナーズが、日本と韓国のバーガーキング事業の売却手続きを開始するかもしれないと報じました。バーガーキングに限らず、前述したハンバーガーチェーンの株主を調査していくと、ハンバーガーチェーン業界では大きな変化が起こる可能性があるようです。
改めて先ほどのランキングを株主に注目して改めてみてみましょう。(括弧内が株主名)

1位 マクドナルド
2位 モスバーガー
3位 ケンタッキーフライドチキン
4位 ロッテリア(ゼンショー)
5位 バーガーキング(プライベートエクイティが保有)
6位 サブウェイ(プライベートエクイティが保有)

7位 フレッシュネスバーガー
8位 ファーストキッチン(プライベートエクイティが保有)
9位 ウェンディーズファーストキッチン(プライベートエクイティが保有)
10位 クアアイナ 35店舗

注目すべきは、業界5位のバーガーキング、6位のサブウェイ、8位のファーストキッチン、9位のウェンディーズファーストキッチンです。これらの企業はいずれもプライベートエクイティファンドが保有しており、将来的に保有している株式を売却する可能性が高くなっています。上位10社中、4社がプライベートエクイティに保有されているのです。
仮に、ゼンショーがこれらのハンバーガーチェーンをボルトオン買収(既存事業の補完的買収)することができれば、店舗数は800店舗弱まで拡大し、ケンタッキーフライドチキンに肉薄することができます。
しかし、800店舗ではマクドナルドはおろか、モスバーガーの背中も遠い状況です。ゼンショーが、M&Aを通じてマクドナルドに対抗できるハンバーガーチェーンを構築するという方法はないのでしょうか?
どうやら一つだけ可能性がありそうです。

ケンタッキーフライドチキンを買収するという戦略の実現可能性

東京証券取引所は、2023年12月下旬に「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実」という題名で、親子関係にある上場会社や持分法適用の関係会社に対し、上場させている理由などについて開示を要請ています。
2024年には、親子上場について、株主や投資家からさらに厳しい視線が向けられることでしょう。
先ほどのランキングの中で、業界3位のケンタッキーフライドチキンの筆頭株主が三菱商事であることに着目します。三菱商事は、ケンタッキーフライドチキンの株式の約35%を保有(2023年3月末時点)しています。
三菱商事とケンタッキーフライドチキンは、鶏肉の仕入れなどの原材料に関して提携関係にあると思われますが、東京証券取引所からの親子上場解消の要請を考慮すると、将来的には資本関係を再考する余地がありそうです。
ケンタッキーフライドチキンは上場会社であるため、経済産業省が2023年に定めた「企業買収における行動指針」に沿って、同意なきTOBを仕掛け、ゼンショーと三菱商事のどちらがケンタッキーフライドチキンのベストオーナーであるか、株主に問うこともできそうです。

1位 マクドナルド
2位 モスバーガー
3位 ケンタッキーフライドチキン(三菱商事)
4位 ロッテリア(ゼンショー)
5位 バーガーキング(プライベートエクイティが保有)
6位 サブウェイ(プライベートエクイティが保有)
7位 フレッシュネスバーガー
8位 ファーストキッチン(プライベートエクイティが保有)
9位 ウェンディーズファーストキッチン(プライベートエクイティが保有)
10位 クアアイナ 35店舗

仮に、プライベートエクイティが保有するハンバーガーチェーンに加え、ケンタッキーフライドチキンを買収することができた場合、店舗数は一気に2,000店舗となり、モスバーガーを凌駕する2位のポジションを確固たるものとすることができます。

ゼンショーにとっての脅威はコロワイドか

仮にゼンショーが、M&Aを通じてのハンバーガーチェーン業界の再編に動かない場合、業界7位のフレッシュネスバーガーを買収したコロワイドが同様の戦略をとってくる可能性があります。
コロワイドは、居酒屋・焼肉・洋食・寿司・和食チェーンを展開する外食チェーン大手です。「宮」、「かっぱ寿司」、「海鮮アトム」、「寧々家」、「土間土間」、「牛角」、「カルビ大将」、「FRESHNESS BURGER」、「大戸屋」などのブランドで多業態展開しています。売上規模は2,200億円(2023年3月末時点)と、ゼンショーよりは小ぶりながら、M&A巧者として定評があります。牛角を運営するレインズインターナショナルや大戸屋をM&Aで傘下に収めています。コロワイドは、2016年にフレッシュネスバーガーを買収して、ハンバーガーチェーン業界に参入しています。
フレッシュネスバーガーの店舗数は160店舗強で、ゼンショーが買収したロッテリアの約半分の規模です。
今後、プライベートエクイティファンドのエグジット案件が予見される中で、コロワイドもゼンショーと同様の戦略を考えている可能性は十分にありそうです。



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