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スタートアップ企業をDCF法でバリュエーションする時の割引率

スタートアップ企業は、上場企業に比べると事業計画の実現性が低く、上場企業と同様の割引率を用いてバリュエーションを行うと過大評価となってしまいます。
また、多くのスタートアップ企業には、ピタっと当てはまる同業他社や類似会社がなく、割引率を算定することすらできないというケースも多くなっています。
スタートアップのバリュエーションを行う際の割引率をどのように算定しているのか、実務書を調べてみました。

実務書が推奨するスタートアップに適用すべき割引率

新株予約権等・種類株式の発行戦略と評価 資金調達、インセンティブ、M&A、事業承継での活用」によれば、

ベンチャー企業にDCF法を適用する際の割引率は、ベンチャー・キャピタル等の投資家による期待利回りを採用することが適切であると考えられます。
米国公認会計士協会が2019年に公表した、“AccountingandValuationGuide”には,ベンチャー・キャピタル(VC)のIRRについて,成長ステージ別にVCの期待利回りに関する統計データ(Startup:50%~100%、First stage or early development:40%~60%、Second stage or expansion:30%~50%、Bridge/InitialPublicOffering(IPO):20%~35%)が記載されており、DCF法によるベンチャー企業の株式価値評価における割引率の検討には、このデータが参考になるものと考えられます。

出所:株式会社プルータス・コンサルティング 編「新株予約権等・種類株式の発行戦略と評価 資金調達、インセンティブ、M&A、事業承継での活用」(中央経済社、2020年)203~204頁

となっています。

一方で、「税経通信 2023年10月号」によると、

このようなスタートアップ企業のバリュエーションでは,割引率として「ベンチャー・キャピタル・ハードルレート(VCレート)」を採用することが考えられる。この方法は,ベンチャー・キャピタル等の投資が要求する標準的な期待利回りを割引率として利用する方法である。ベンチャー・キャピタル等が要求する標準的な期待利回りとして,実務上は,AICPA(米国公認会計士協会)公表のPractice Aid「Valuation of Privately-Held-Company Equity Series Issued as Compensation」に記載されている下表を参考に割引率を決定していることが多い。

出所:税務経理協会「税経通信 2023年10月号 」(2023年)100頁
出所:税務経理協会「税経通信 2023年10月号 」(2023年)100頁

となり、検証される時代によっても割引率が異なっております。スタートアップの分析や投資管理の高度化、資金調達市場でのスタートアップとベンチャーキャピタルの力関係などが影響している可能性があります。

また、「プライベート・エクイティ投資の実践」によると、

割引率は、米欧流のM&Aだと、40‒100%

出所:幸田博人 編著「プライベート・エクイティ投資の実践 オープン・イノベーションが企業を変える」(中央経済社、2020年)124頁

とのことです。

まとめ

割引率はスタータップのステージに応じて、概ね次のようになると言えるのではないでしょうか。

シードステージ:50%~100%
アーリーステージ:40%~60%
エクスパンションステージ:30%~50%
レイターステージ:20%~35%

上記の数値に関しては、あくまで米国の市場を中心とした分析です。割引率の前提となるCAPMには、リスクフリーレートや市場プレミアムが含まれており、日米でこれらの前提が異なっていることを勘案すれば、日本のスターアップアップ向けの割引率も上記とは異なっている可能性があります。
今後は日本における割引率についてのより詳細な検証が必要になると思われます。

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