令和6年新卒が本当にコスパ定時退社戦略を実践した時、何が起きるのか

字数が勿体ないので早速始めていきます。さぁ、上司や先輩にブチかましましょう。

そんなコスパ悪いことやってられません!定時なので帰ります!飲み会?残業代出るんですか?資格は時間外出ないのでやりません!!!

さて、どんな詰められがあり怒号が、あるいは物が飛ぶでしょうか

多分ですが、何も起こりません。

「そっか〜今風だね!お疲れ!」

何ならちょっと優しくされます。凄い。これでコスパ悪い仕事は避けつつ職場で楽までできますね。

 何故こうなるか。仮に令和の世で「叱る」という行為をサービスとして切り出してきて社外に提供することを前提に値札をつけるなら1時間5万くらいでしょうか、担当者の職位によってはそれ以上です。正社員として持続的に働く為のエッセンスを短時間に詰め込んで強力に移転する行為で、それによって長期的な収入が稼得可能になるのですし、まして社内で今それをやる場合、「パワハラ」のリスクが常につきまとう訳で、それも織り込むのであればもう一段高くなります。解像度の低い相手にやれば下手するとおまけに恨みまで付いてきます。

 逆に聞きます。なんで役にも立たないその内異動でどっか行くかすぐ辞めてしまう奴にタダでリスクとってそんなもん提供しないといけないんですか?どちらかと言えばこんな物を無償でやっていた昭和や平成の方がどうかしてたのです。そもそも、多くのJTCでの業績評価は自分の数字他成果であって、人材育成はあんま点数になりません。要はやる側にとっても物凄くコスパ悪いのです。じゃあ自分の仕事するよ。

 さて、上記の様な事情でコスパ戦略を採った場合、基本的にはあんま指導が入らなくなります。より具体的に言えばOJTとして回される仕事でロクな物が来なくなります。特に手間がかかったりリスクある類の物はまず回してもらえません。この辺でもし同期がいたりして、かつ彼(彼女)が覚えが良い奴であった場合、横で次々と新しい仕事をやってるのが可視化されるので余程メンタルが強くない限りは恐らく不安に襲われます。それではその事について不満を述べてみたとしましょう。

こんな雑用ばかりではなくてもっとクリエイティブでスキルが身に付く仕事をしたいのですが!

 ここでは先程と違ってまず優しくしてもらえる事はありません。だって必ず定時に帰ってなんかあったら人のせいにしてくるのが目に見えてる奴にそんなもんやらせるより自分一人で終わらせた方が時間にして倍以上早く、タスクの総量でいけば1/5とかです。そんなコスパ悪いことする訳がないでしょう。よって基本的にはボケッとしてるか雑用みたいなことを延々やらされることになります。

 雑用でも多分ミスすることはありますし、場合によってはそれが爆発することもあります。コスパ戦略者の仕事なんて誰も見てないですからね。もし、仕事を日々確実にしてコミュケーションを取り、職場で好かれていた様な奴であれば多くは助けの手が入ります。具体的には上司やお客さまに一緒に謝りに行ったり、1on1をしながら滾々と説いてその後もフォローしてくれるかもしれません。どうしたら同じ事が起きないか。だってシンプルに嫌ですもん。なんでやる気ない奴の尻なんか叩かないといけないんですか。ママじゃねんだからさ。恐らくは「もういいよ。別のことしてて」と言われてその雑用すら召し上げになって終わりでしょう。勿論実際に別の仕事なんか来る訳ないので、益々暇になっていくことでしょう。

 この後、その職場で完全に駄目の烙印を押されると異動の可能性があります。要は最初の所で匙を投げられて、それなら…ということで別の所で試してみるか、ということになります。このあたりで本人が「あれは不味かったな。直そう」とできればまだ助かります。が、別段改めることもないのであれば、どこに行ったって基本的には同じことの繰り返しです。それを何度か繰り返す等してしまった場合、厳しい会社だと

もう分かったでしょ。自分の将来考えた方がよくない?若いからまだ大丈夫だよ

 と肩を叩かれる可能性が出てきます。新卒採用というのは企業目線でいけば投資なのです。最初駄目でもしばらくは好転する可能性が無いか様子を見ますが、半年やって見込みがない奴が1年後に覚醒することはかなり稀です。一口味見すれば全部食べなくても何味のカレーか分かりますよね。じゃあこれから幾ら給与払ったって全部無駄な訳ですから、稼げない投資を続けたら株主への背任になります。新天地を目指してもらうのが一番ハッピーというのは当然の結論かもしれません。

 この状態で職場にしがみ付き続けられるのは、病名が付く様な異様な鈍感力の持ち主でもない限りは相当なメンタルが必要になります。10人中8、9人はこの段階で辞めると思いますが、それでも辞めないということは理論上は可能です。仮にそれを実践した場合、確かに今解雇が厳しいので外資でもない限りロックアップ解雇みたいな強硬手段を採られることは、一歩踏み込んで重篤な問題でも起こしていない限りは稀だと思われます。ではその場合はそこから先は何が起きるでしょうか。

 リアルな所、これまでであれば「そういう人」を収容する様な部署に送られてきました。銀行だと事務処理センターと言われる様な場所ですとか、物凄く僻地にある拠点への異動等です。次々と昇進して肩書が変わっていく同期を尻目に、そこで一生作業をして過ごす…ということができるのであれば、所謂「窓際戦略」は一応は実現できたと思われます。ただこのルートに乗るとそこから昇進の芽は限りなくゼロに近いので、一生新卒に毛が生えた様な賃金での労働を続けることになります。


平成までであれば。

 令和の世にそれで定年まで行くのはちょっと難しいかもしれません。と、いうのも最近はこの「収容所」みたいな部署が次々と閉鎖されているのです。具体的には外注や自動化によって「正社員が単純作業をやる」という場面自体が次々と失われていっています。正社員というのは仮に全然昇進してなかった所で福利厚生やら何かが付きますし、何より上記の通り会社が不味くなったりした所で解雇できません。その事実だけで令和の世に登場した外注や自動化という選択肢と比較して物凄くコストとして重いのです。代替手段が確保できるのであればその様な事はしません。

 ではどうなるか。リアルな所ではその先に待っているのは出向である可能性が高いと思われます。グループ企業や場合によっては他社とのJV(ジョイントベンチャー)に出向させられるでしょう。そこで当初の採用とは全く別の職種をさせられる可能性があります。例えば物流部門で物品管理(倉庫作業)だとか、最近だと日本生命が介護のニチイを買収しましたので、その様な業態に転向になる可能性もあるかもしれません。そして転籍と違って出向は基本的には拒否することができません。全然昇進していない給与でこの辺りまで来ると本当に何をしているのかよくわからない状態になっています。

 この辺りまで来ると恐らくは入社から相当の年数が経っています。かつての同期のトップは既に部下を率いて輝かしい肩書で社のトップラインを走っているでしょうし、あるいは転職して更にステップアップしているかもしれません。それでなくても皆それぞれの適性を活かして違った場所で活躍しているでしょう。もし若い頃の後輩と再開することがあっても、最早タメ口で会話することはできません。何故なら彼(彼女)はもう自分より偉いのです。「さん」を付けろよデコ助野郎。

繰り返しになりますが、病名が付く様な異常な鈍感力でもない限りはもう彼らとまともに会って飲んで…ということは現実的には難しくなります。話が何も合わないですし、向こうも気を使ってしまいます。何より給与が倍半分か、酷ければもっと違う訳で、彼らが行く様な店で飲むこと自体が難しくなっている筈です。もっと言えば、学生時代の同期等に対しても同じことが起こっている筈です。こうなってしまった時点で既に大量の人間関係を失うことになります。

 昔からの仲間だから今の職位なんか関係なく話せる?まぁそういう側面もあるかもしれません。が、ここはちょっと解像度上げていきましょう。相手は海外の出店計画や事業買収の検討、新商品の開発をして、日夜パートナーを相手に飛び回ってる所に「俺は日中は山奥の倉庫で備品の発注をやってるんだ」って言うの、相当キッツイですよ。プライベートにしたって、もう生活水準がかなり違ってしまっている筈です。下手したら湾岸にタワマン買って子供を私立に入れています。相手の立場に立ってリアルに想像してみて下さい。気使っちゃって、出せる話題なんか本当に一部の当たり障りのない物を選ぶしかありません。思い出話で15分くらいは何とか話せるかもしれないですけど、2時間はキツい様な気はします。仮に5人で飲みに行って、1人だけそんなだった場合、次の会の時もその1人に声がかかるでしょうか?

 ここから更に筆を進めるのであれば、出向先への転籍勧奨、整理解雇のリストのトップに載る…ですとかの話が始まるかもしれませんが、もうここまでにしておきましょう。と、いうのも、そんな状態になりつつも会社にしがみ付くというコスト(猛烈なストレス、本来昇進していれば得られたであろう賃金、失われる人間関係)は既に定時退社、飲み会出席云々どころの騒ぎではないので、こんな状態になった時点で既にコスパの議論は遥か昔に終わっています。そこにはコスパなんかもう無いのです。

 「窓際戦略でコスパライフ!」みたいな眉唾な話、そんなもんが成立するならとっくに皆やってないとおかしいんですよね。流れてきたのに感化されて飛びついちゃう前に、ちょっと冷静になってみるとコスパいいかもですよ。


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