ゼロスキル転職銀行員イタバシのわらしべ業務簿 ~転職始動編~

 こちらは銀行員が特段のスペシャリティを持たずに転職した場合の顛末について、私小説の形式で作成してみたものです。もし当該テーマにご興味をお持ちの方がいらしたら、ご覧いただければ幸いです。

限界独身男性イタバシ(30)は黒井銀行を退職し、大手機械メーカー、株式会社ウエダの傍流部署に中途採用されました。当該部署は、少なくとも本流ではない部署で、ともすれば働かないおじさんも一人二人いて、頑張ってる社員が必死で回してる様な感じで、所謂本業部分からは遠く離れていました。

そもそも、イタバシは「何ができそうで実は何もできない銀行員」を体現する様な男。ストファイやデリバの様な銀行員としてのスペシャリティはゼロ。やってきた仕事といえば町工場を回って金を貸し歩く半沢直樹1期前半の世界です。株式会社ウエダにそんな仕事はありませんし、しかも最初に雇われた仕事はプロジェクトワークで時限、これは予定通り無事終わってしまい、イタバシは社員としてのスキルも世間に売れるスキルもゼロの状態で未経験中年として社内に放り出されることになりました。

そこから数年を経て、イタバシは役員会の資料を編集する程度には本流に近い本部門に来て、丸の内の夜景を見ながら働いています。

ここに至る道程は、まぁ色々とあるのですが、若干のわらしべ長者感のある話ではあり、転職を検討されてる銀行員の方がその後をイメージする一助になれば思ったのでここに限界中年ゼロスキル転職銀行員ファンタジーの筆を取ろうと思います。

以下本文

今から遡ることN年前、黒井銀行を転職した限界独身男性イタバシ(30)は株式会社ウエダで事業会社として初めてのキャリアを踏み出しました。最初の仕事は募集要項にあったプロジェクトワーク、なのですが、これは重要案件でしたので社内でも指折りの有能社員の方が就けられており、ぶっちゃけイタバシはこの方をさっさと異動させる為の繋ぎとしての採用されたのでした。当該PJはこの有能社員の方の指揮でガンガン進むのでイタバシはアポ調整や書紀、その内に部分的にタスクを投げられる様になり、やがて予定通りこの方は異動したので次のご担当との繋ぎをやり、程なくして当該PJは無事に終わってしまいます。(この話は本論では無いのでここまで)

時を遡りタスクを投げられ始める前、採用当初のイタバシはぶっちゃけ小間使いの状態だったので端的に言えばやることが無いと暇です。ある日暇そうにしてると「イタバシ、ちょっと」と声が掛かりました。「イタバシさ、銀行から来たじゃん?経理できるよね?」


あ、これはアレだ。銀行員は経理できると思われてる奴だ。しかし銀行員の方はご存知でしょうが銀行員は経理と話すけど経理はできない。イタバシが滝の様な脂汗を書いていることも気づかれず、山の様な新設建物の固定資産明細の束がブン投げられました。この時点でイタバシの手元アイテムは簿記3級のみ。仕訳も切ったことのない限界中年の前に意味不明のガラパゴス経理システムと山の様な書類だけが残されました。

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