先が見えることの嬉しさ 名古屋ボードゲーム楽市 出展備忘録

1.準備と期待

出展予定だったゲームマーケット2022大阪の開催自粛が決まったとき、僕は本当に目の前が真っ暗になった。
視界がぼんやりと暗くなることを身をもって実感した。
それと同時に、本当に創作の手がピタリと止まった。
ここ数年の感染症禍で、お店の閉店やイベントの中止など、自分自身も何度となく味わってきたはずだったが、要は「つらいことは何度だってつらい」と言うことだろう。

そんな折に目に留まった「名古屋ボードゲーム楽市開催」の告知だったので、僕は一も二もなく飛びついた。

東海圏内を中心にボードゲーム会などを開催・主催する「ボードゲームフェスタまいたーん!」、地元JELLY JELLY CAFE名古屋大須店、人気ボードゲームPodcast「今夜もアナログゲームナイト」が運営チームを組む、東海地区としては数年ぶりの大規模ボードゲームイベントだ。

会場配置図(自作)

参加サークルは、地元東海地区を中心に活動されるSolunerG、A .I .lab.遊、鍋野企画、などの実力派サークルをはじめ、OKAZU brand、いかが屋、GOTTA2など関東関西の人気サークル、BGM盤上遊戯製作所、@Dokkoi.jp、Milk&Puzzleなどボードゲームサプライや各種グッズなどを制作されるサークル、今回が初出展となる島Games.Labなど、本当に幅広いラインナップだ。

各時間に区分された入場チケットは予定数があっという間に完売、急遽後半部の入場チケットを増設するもこちらもまたたく間に完売となる人気ぶりであった。

そんな中、僕、番次郎書店は、というと、日々更新する4コマなど連日の創作作業に追われながら、昨年ゲームマーケット2021秋以来半年ぶりとなるイベントへの参加に心を踊らせ、この日が初頒布となる4コマ新刊などの準備を整えていた。
ボードゲームのイベントで、ボードゲームではなく趣味全開の本を売る我がサークルは、この日も同様に、ボードゲームを求めて訪れるであろう来場者にどうたち振る舞うか、をずっと考えていた。


2.当日

当日となる5月7日土曜日は大型連休も終わりを迎えるころだ。
朝4時半に起床した僕は、日課となる「きょうの勝ち(ナナワリ制作)」を引いた。
カードには「ドラゴンを見たら勝ち」とある。

きょうの勝ち「カノープス」は、拡張版です

文字通りの意味としてぼんやり受け止めた僕だったが、あとで「中日のお膝元!」「シャチホコ!」と教えてもらい、偶然とはいえ奇跡的な巡り合わせに驚いた。聞けば今回の開催場所の近くには白龍のモニュメントもあるとの話だ。

始発の新幹線に乗り、一路名古屋へと向かう。大型連休最終日を控えたからか、大きなキャリーケースを抱える家族連れもちらほら見かける。



名古屋駅に到着。
天候はすがすがしい五月晴れ。加えて、当日の気温が25度近くに上がると予報された。


第一アメ横ビルは名古屋の繁華街「大須商店街」に位置する。
会場となる4つの会議室にそれぞれ10ブースが均等に配置され、来場者は廊下を経由し、それぞれ目当ての部屋へと向かう方式だ。
感染症対策として、空調を入れつつ、窓とドアは常時開放、スタッフを含め参加者は全員マスクを着用し検温を行うよう指示された。


会場の見取り図をザッと書き起こしてみた。
来場者はエレベーターで4階へと上がり、スタッフの誘導に従い、図の階段の位置に並ぶよう指示があったと聞いた。


自宅からの輸送物を掌握したのち、午前9時30分、設営を開始。
長テーブルのスペースに、所狭しと本や早押しボタンを陳列した。



小一時間をかけて設営を終える。
バックヤードのポスターはいつものA1サイズだが、それでも周りの大きなサークル布に比べると少しインパクトに欠けるようにも映った。


他の制作サークルも続々入場し、いよいよイベントが本格始動する。

午前11時、第1グループの入場が開始。
各グループ45分の入れ替え制となっており、最後は午後15時〜15時45分の第5グループまで。ボードゲーム的には「5ラウンド制」とも呼べるだろうか。

特に最初の第1グループは、各種人気作品が早期に入手できることもあり、プラチナチケットとなったようである。
入場が開始されるや否や、先のゲームマーケットでも完売の相次いだ作品、制作ブースへと並ぶ。

廊下越しにその流れを眺めていた僕は、お目当ての購入品がゲットできた後の「余った時間に他も眺めてみよう」の流れができた頃からが真の本番と構えていた。

僕個人の話をすると、時間制を採用するイベントを、ゲームマーケット2020秋、北海道ボドゲ博2.0、の2度経験している。
来場者は限られた時間の中で、お目当ての買い物を済ませ、余った時間で面白そうなブースを回る。
時間が制限される中でイベントに臨む来場者であるため、ひとサークルに長く引き留めると察知されては、選別の時点で弾かれる可能性があるのだ。

だから説明はなるべく簡潔に、そして立ち寄った方が楽しめる動画(私の場合だと動画クイズなど)も1分以内で楽しめるものをたくさん用意した。

服装について話をしたい。
この日の私の服装も、いつもと変わらぬスタイルで臨んだ。
マスクは二重につけ、頭に手ぬぐいを巻き、さらにはフェイスシールドを装着。声がマスクで曇るといけないと思い、小型のマイクをその上から装着した。事前のワクチンもちゃんと3回接種済である。
報道では新型コロナウイルスの感染者数が減少傾向にあると耳にはしたが、だからと言って決して油断はできない。
フェイスシールドは汗で曇り、二重に重ねた不織布マスクは息苦しくなるも決して外すことを許されない。
この日のために、ランニングなどのスタミナ増強も怠らなかった私だが、高い気温も相まって、すでに第1ラウンド終了時点から疲労困ぱいだ。

場を監視する運営スタッフは各部屋に一人ずつ待機され、時間ごとに適宜交代、休憩を行なっていた。
JELLY JELLY CAFE名古屋大須店のたかピーオーナーが通路を巡回、監視していた。
運営スタッフのどなたもが、笑顔で優しく対応された姿が印象に残っている。

気がつけばあっという間に第1グループの時間が終了し、出展者、スタッフは次の第2グループまで、束の間の15分休憩に入る。
この時間を利用し、出展者は食事やトイレ休憩、次への準備を行う。周りのサークルへとご挨拶に回ったり買い物を済ませたりといった使い方もできる。

熱中症対策にと用意したOS-1を口にすると、塩っぽいというより薄いグレープフルーツジュースのようでとても美味しく感じた。裏を返せば、熱中症の一歩手前を意味する。
身の危険を案じた自分は、慌てて近くの自販機で麦茶のペットボトルを購入に走った。商店街の中だから、探せばドラッグストアもあるだろうか。

ひと区画の会議室は、人数が制限されているとはいえ、混雑時には大勢の人でごった返した。
幸いにして、僕のブースにも、同じB部屋配置に配置された、ゲームマーケットで毎度高い人気を博す有名サークルや、地元愛知で人気のお店が構え、その恩恵に預かるかたちで当ブースに立ち寄る方が見受けられた。会の終始を通じ、閑散とした時間はなかったように思える。

第2グループの入場開始。
スタッフの誘導に従いながら、列を崩さず入場する来場者。
マスクも含めた規律やマナーも守られ、少なくとも自分の視界では喧騒事案など大きな騒ぎはなかったように思える。

第2グループ以降は来場者の層も変化した。
体感としてではあるが、第1グループより「ボードゲームに触れたばかり」の方も多いように感じた。
小さな子どもを連れた親御さんや、学生さんとおぼしきカップル連れも目に留まる。第1グループに比してチケットの価格も下がるからか、グループを連れての参加、初めての方を連れての参加もあったのだろうと邪推する。
実際に私のブースで展開したボードゲームのクイズも、頭を悩ます難関クイズより、「ボードゲーム未経験者も楽しめる面白いクイズ」が好まれた。

流れるように第3、第4グループと続き、各所で完売の報告が上がり始めるも、人の波は絶えることを知らない。
特に最終第5グループは入場チケットが100円にまで値下げされることもあり、開催時間の最後まで来場者は引きも切らなかった。
私が来場者だったとしても、とても45分では見回りきれないと察知するや否や、価格の安い第5グループのチケットを合わせて購入しただろうと考える。

結局この日は、最後となる第5グループまで終始満員となり、通常のイベントならば諸所片付けに入る時間帯も、私は最後の最後まで本を販売し続けることとなった。

午後4時を回り、ようやくイベントの時間が終了した。
終了の余韻に浸る間もなく、そそくさと撤収を開始した。運営が一人なら無論撤収するのも僕一人だ。疲れた体に最後のムチを入れ、ポスターにiPadにと箱詰めを行う。部屋を最後に出たのは、運営スタッフを除けば僕だけではなかったか。

撤収後
無事にドラゴンを目にできました。



立夏を過ぎたこの日の夕方、辺りはもう日が陰っていた。朝はまばらだった商店街も、この時間となると多くの若者がひしめき合っていた。
結局この日も経口補水液と麦茶しか口にしなかった自分、汗にまみれたシャツのままキャリーケースを抱えて会場をあとにした。
その後に軽い交流会も開かれたが、疲労からか笑顔が作れない。乾杯したのち倒れ込むようにホテルへと帰還した。


3.広がる展望(その後の話)

翌日、僕は帰りの新幹線の時間まで、お世話になった東海圏内のお店を回った。
会う人会う人に「次のイベントはいつ?」「次のイベントもぜひ!」と声をかけられた。
次に向けて動くことの「嬉しさ」だ。
ついでではあるが、回ったお店の皆さんに、次への参加を期待された。ボードゲームのイベントでボードゲームを頒布しない自分のようなサークルが、だ。

無事に自宅へと戻った自分は、布団にくるまりながら、イベント当日のじんわりとした充実感とともに、次の作品に向けた視野がぼんやり映っていることを実感した。
「次はこうしたい、次ならこうできる」
後悔や反省とは一味違う、次へと臨める希望があるからこその空想や妄想、それは開催自粛が続く中で、本当に自分が渇していたものだった。

後日、公式から上がったツイートを引用する

「(前略)
当事務局では、今回の様子とSNSでの高い反響に触れ
「次を楽しみにしています!」という声に応えられるよう動いて参りますので、引き続きご支援の程お願い申し上げます!」

名古屋ボードゲーム楽市公式Twitter(5月8日13:42)

国内外で新型ウイルスが圧巻し、閉店となるお店や創作サークルが相次ぎ、この先がどうなるか、それこそ「先の見えない世の中」へと進んだ昨今。
そんな中、イベント後に現れる言葉が「これで最後」ではなく「次に向けて」といった、「未来に向けての展望」が並ぶことの、なんと輝かしいことだろう。

かつての偉人は「大きな夢を持て」と叫んだ。
でも、あの絶望に苛まれたころの、本当に目の前が見えないままの自分の頭では、持つべき夢のかけらすら想像できなかった。

夢や希望が見える視野には、何かしら「できるかもしれない」の可能性が秘められている。
知識であれ経験であれ、何もできない渦中では、持つべき夢すら見ることができない。
「できるかもしれない」と考えるからこそ、夢が実際に目に映るのだ。

今回のイベントを経験し、「次にやりたいこと」「次ならできそうなこと」が、僕の視野に映ったこと、言うなれば、暗中模索の中、小さな、本当に小さな灯火が視界の中に照り輝いたこと、
それは何事にも変え難い成果だったのではないだろうか。

次のイベントに向け、僕も早速手を動かし始めた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?