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下宿人・忍者ニャンコ神 ~先生と編集者~

先生「お前いまどっから出て来た?」

編集者「ベッドの下ですけど?」

先生「なんでお前、私んちのベッドの下にいんの」

編集者「……変質者?」

先生「知ってっけど。まぁいいわ」

編集者「あざまっす!」

先生「それより気になることがあって」

編集者「恋ですか」

先生「なんでそう思うんだよ」

編集者「ふわふわしてるんで」

先生「どこがよ」

編集者「アホ面」

先生「今に始まったことじゃないヨッ!」

編集者「……」

先生「黙るんじゃねー否定しろ」

編集者「大丈夫ですよ」

先生「何が」

編集者「アホ面でも」

先生「アホ面を否定しろっつってんの」

編集者「言いましたっけ?」

先生「何を」

編集者「“アホ面を否定しろ”って」

先生「言ったことになってんだよ」

編集者「いつからですか」

先生「いま」

編集者「証拠は?」

先生「小学生か」

編集者「元小学生です」

先生「進歩しろ」

編集者「待ってます!」

先生「何を」

編集者「先生の進歩を」

先生「してるわ……ってかなんだよ進歩って」

編集者「原稿ですよ原稿」

先生「2回も言うな原稿って」

編集者「嫌なんですか」

先生「お前の口から聞く“原稿”ほどおぞましいものはない」

編集者「影響力あるんですね、僕」

先生「まぁな。神だから」

編集者「神!編集者は!っかっみっ!(嬉しそうに)」

先生「神がアホだと私の原稿も台無しになるからな」

編集者「良かったですね先生!」

先生「何が」

編集者「僕が担当で」

先生「良かったよ、神はともかくお前がアホで」

編集者「なんで僕がアホで良かったんですか」

先生「アホを否定しろよアホを」

編集者「アホって2回も言った!」

先生「なんで嬉しそうなんだよ」

編集者「小学生なんで!」

先生「“元”だろが」

編集者「まだ小学生なんで」

先生「じゃぁ学校行けよ」

編集者「そこは“元”なんで……」

先生「どっちかにしろ」

編集者「えー…じゃぁ大人がいいですぅ」

先生「大人の発言に思えん」

編集者「中学生なんで」

先生「進学してんじゃねーよ」

編集者「公立なんで」

先生「知らんわ」

編集者「え、知らないんですか!?公立」

先生「知ってるわ公立くらい」

編集者「そうですよね、先生ですもんね」

先生「“学校の先生”みたいに言うんじゃねぇよ」

編集者「……言ってませんよ?」

先生「お前のそういうとこ嫌いだわ」

編集者「ちょっと待ってください」

先生「なんだよ」

編集者「ふたつ、気になることがあります」

先生「ひとつにしろ」

編集者「えー……ふたつあるからふたつなんですっ!」

先生「子供か」

編集者「中2ですっ!」

先生「進級してんじゃねーよ」

編集者「僕の“そういうとこ”ってなんですか?」

先生「急に屁理屈のシモベみたいな顔するところだ」

編集者「もうひとつ、気になってます」

先生「なんだよ」

編集者「“嫌い”って、ヒドくないですかーっ!」

先生「好きなとこもあるぞ」

編集者「えーっ?!(嬉しそうに)言ってください!」

先生「何をだよ」

編集者「僕の、好きな!と・こ・ろ!」

先生「アホだな」

編集者「ヒドい」

先生「アホなとこが好きだって言ってんだよ」

編集者「……先生の言う“アホ”はホメ言葉なんですね」

先生「違うときもある」

編集者「むずかしーなー」

先生「分かれよ担当なんだし」

編集者「えー!要求高いー!(嬉しそうに)」

先生「仕事しろ」

編集者「先生、お仕えします」

先生「無駄な“お仕え”宣言」

編集者「愛の告白ですっ」

先生「意外性ゼロだわ」

編集者「ヒドいーっ」

先生「お前の“ヒドいーっ”はペラッペラだな」

編集者「シングルロールのトイレットペーパーみたいに言わないでください」

先生「シングルロール好きな人もいんだろ。巻き添えにすんな」

編集者「“巻き”で行きましょう!なんですか、気になることって」

先生「ぐいっと戻って来たなおい」

編集者「急ブレーキ急ハンドルなんで」

先生「検定落ちるわ」

編集者「なんですか、気になることって」

先生「途中、完全に忘れてたろ、私の気になること」

編集者「to doリマインダーの私ですよ?」

先生「……書きたいものと、求められるもののバランスって難しいよな」

編集者「先生、真面目ですか?」

先生「私はいつも真面目よ」

編集者「好きです、先生」

先生「お前に好かれても、読者に好かれると限らないだろ」

編集者「好きにさせます!」

先生「ポジティヴ片想いかよ。それくらい気概があるのは嬉しいけどさ」

「売れなかったらあなたの作品はもう売りませんってなるだろ。会社なんだから」

編集者「独立します?」

先生「話をすっ飛ばすな」

編集者「(……とん。)」

先生「着地すんな」

編集者「ここにいますっっ!!」

先生「声がデカい」

編集者「めっちゃ寝てるんで!」

先生「仕事しろよ」

編集者「して、寝てます!!」

先生「めっちゃ優秀じゃねぇか」

編集者「だから先生の担当なんですよ?」

先生「……。……そぉかー。そうだったかー!!(嬉しそうに)」

編集者「会社も、先生のこと買ってます」

先生「……だよなー!!そうだよなー……!!」

編集者「……と、いうとこで現状はそうなんですけどね、来年も再来年もうちから先生の作品を出すためにですね……」

先生「……やっぱりかー……やっぱり駄目かーー!!」

編集者「先生、落ち着いてください」

先生「……大丈夫、大丈夫。落ちぶれてもいいように資格とか取るね」

編集者「落ちぶれないで落ち着いてください。大丈夫です先生、作家に資格はいりません」

先生「大丈夫?ホントに大丈夫なの?」

編集者「ええ、大丈夫です。資格要るなら世の作家は大量アウト。大量絶版です」

先生「絶っ版っっ!!」

編集者「先生、落ち着いてください。たとえです。今の先生の話じゃないです」

先生「今は違うっ!!っけっ!っどっ!!」

編集者「先生は先生の書きたいもの書けば良いんです」

「先生の書きたいものには、僕の読みたいものがちゃんと入ってるんです」

「僕が読みたいものは、他にもきっと読みたい人がいるんです」

「世界は先生みたいに出来る人ばかりじゃない」

「僕みたいな元小学生のアホもいっぱいいるんです」

「現役小学生もいっぱいいるんです」

先生「……そこは分かるわ」

編集者「先生はアホ面だけど、ちゃんと、人が欲しいものと自分の書きたいものとの折り合いをつけていらっしゃるんです」

「だから僕はこれまで先生の原稿を本にしてきた」

「これからもしていきたいと、思ってるんです」

先生「……そうなの?」

編集者「そうなんです!」

先生「そうなのかー!!」

編集者「そうです!先生!……ですから!!」

先生「おう!なんだ!」

編集者「原稿をいただきに来ました!」

先生「これから書く!今日は帰れ!」

編集者「嫌っ!」

先生「帰れ!」

編集者「I'm home!」

先生「No! Don't!」

編集者「んコにfんむっ!!」

先生「は?なんて?」

編集者「……原稿出来るまで、ココに住んむっっ!!」

先生「……もう住んでたろお前」

編集者「……バレニャンコ?」

先生「ニャンコじゃねーだろ変質者が」

編集者「それでは変質者はこれでニンニン……ゴソゴソ。」

先生「ニャンニャンじゃねぇのかよ。私のベッドの下に帰るんじゃないよ」

編集者「いいじゃないですか~先生、気付いてなかったんだからぁ」

先生「お前それ心底ヤバい人の価値観だから」

編集者「それとも気づいてないフリしててくれたんですか?……先生、僕に恋しちゃった?」

先生「お前それ心底ヤバい人の価値観だから」

編集者「2回も言ったナ~」

先生「お前それ心底ヤバい人の価値観だから」

編集者「電車では必要としている人に席を譲ります!」

先生「お前それ心底ヤバい人の価値観だから」

編集者「……先生?1たす1は?」

先生「お前それ心底ヤバい人の価値観だから」

編集者「サイン・コサイン?」

先生「お前それ心底ヤバい人の価値観だから」

編集者「先生、私は先生の作品が世界一好きです!」

先生「お前それ心底ヤバい人の価値観だから」

編集者「自分で言っちゃったよ……」

先生「お前それ心底ヤバい人の価値観だから」

編集者「……飲みに行って帰ろっと」

先生「お前それ心底ヤバい人の価値観だから……」

先生「……うっし、行ったな。レコーダーは、と……録れてる録れてる。このくっだらねぇやりとりを原稿のネタに……したらアイツなんて言うかな。“先生、最高でっシュッ!”ってなっかな……。なんねーか……。どっちにしてもキモイか……。いいや、普通に書くか。神、つかえねー……。作品の内容は普通に作家の責任だわ。危ね、あぶね」
帰ったふりした編集者「(……うっし。先生、やる気出してくれたっぽい。僕、やっぱ神)」

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