見出し画像

気象・奇勝・トリップ

夏雲と青空の対比に誘われて、農道に足を踏み入れた。すると、野っ原の真ん中で雷が鳴り出した。ここで落ちたら、助からないだろう。頭のてっぺんから背筋が焼けるような焦りを感じ、急ぎ足で突き当たりの林へ。

「こんなところに、来るんじゃなかった……」

そう思いかけて、振り返る。それが幸運だった。雷雲と白雲がせめぎ合い、陽光が漏れた空。ひとりぼっちの焦燥は、ひとり占めの愉悦に変わる。僕は夢中で、その光景を記録した。

……ぴたり、ぴたり。

こちらの視線に気付いたかのように、大粒の雨が降り出した。僕は野っ原に背を向けて、薄暗い林道を突っ切った。頭上に覆い被さる木々に守られながらも、着衣にはいくつもの黒い染みができていた。

砂利道に出た僕は、店休日の蕎麦屋の軒下に駆け込んだ。目の前の街道を、行き交う車。自分を迎えに来るものは、いないだろうか。軒下からの視線の間を、雨粒が埋めていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?