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チョコレートに寄せる想い

バレンタイン・デイにチョコレートをもらった。もらったからには、おかえしを考えねばならない。いや、放っておいても良いのだけれど、そういう俗っぽいならわしを無視する人間だとは思われたくないのである。

俗っぽいならわしには、面倒臭さに、なんだかんだいってうれしさがともなう。だから、ひとは(わたしは)俗っぽいならわしをやめられないのだ。

だれかが、だれかに、バレンタイン・デイに、チョコレートを贈る。2月14日がバレンタイン・デイだなんて、それこそ僕の家族でも友人でも恋人でも直接の知り合いでもないだれかが、勝手に決めたことである。そう、このことに、わたしは合意だとか否認だとかの1票を投じた憶えはない。

民主的に決めなくとも良いようなものは、放っておいても良いはずだ。それなのに、どうしてか、民主的な段取りに則って決めなくともよいようなものが勝手に定められ、そのことが広く世間にウケる(これをわたしは、“俗っぽい”と呼ぶ)と、わたしたちはこれに縛られるようになる。だれかさんが勝手に決めたことが、わたしを縛るようになるのだ。なんて理不尽なんだろうと思う。

こんなわずらわしいことは、さっさと済ませてしまいたい。そう、僕は、バレンタイン・デイのお返しをすみやかに用意せねばならないのである。

今すぐ用意すると、お渡しの日までにはまだひと月近く(これは2月18日に書いている)あることになる。生ものはダメだ。

早めに用意して、すぐに渡したらダメだろうか。せっかちすぎるだろうか。特にこの国の西方の地域では、そういう人もあると聞く(出どころのあやしい情報である)。

バレンタイン・デイにだれかに贈り物をした人たちは、およそひと月さきに控える、お返しがいただけるかもしれない日を楽しみに待つことの価値を重視するだろうか。わくわくして、待つ……そのことを楽しむ行為を含めて、この俗っぽいならわしに従事して(業務みたいであるが、業務ではない)いるのだろうか? だとしたら、わくわくする期間を奪ってしまうことになるので、早く用意したものを早すぎるタイミングで渡してしまうのは、NGである。オトナじゃない。

オトナになんてなりたくないのに、オトナぶりたい。そんなところが、コドモっぽい僕である。コドモは、とにもかくにも何にもまして、オトナぶりたい生き物なのだ。みなさんにも、心当たりはないだろうか?

僕がコドモ〜中学生くらいのときにおこなわれていたバレンタイン・デイというならわしと、今おこなわれているバレンタイン・デイというならわしが持つ意味は、僕(32歳)にとっていくぶん違うものになっている。時間がたつと変質するのは、チョコレートだけじゃない(何を下手なこと言って……)。

僕が中学生だったのは、17年くらい前までだ。

17年間チョコレートをほったらかしたら、一体どうなるのだろう。カビとか指とか、生えるのだろうか? 手とか足とか……カビも代替わりしまくった果てに、滅びてしまうだろうか。

水分は、早い段階で蒸発しきるだろう。いや、もともとチョコレートはカワキモノだし、たいして水分は含まれていないだろう。もともと含まれていなかった水分たちが、17年間のあいだに、なんべんも出たり入ったりするだろうか。その出たり入ったりがおこなわれる器たるチョコレートの水分以外の物質たちは、それほどの期間、かたちを保ち続けられるのだろうか。

やっぱり、チョコレートには糖質が多いのだろうか。あるチョコレートの成分を調べてみることにする。

♪チョコレートは、メ・イ・ジっ(この曲、短調ですね)

というわけで(理由の説明になっていないが)『明治ミルクチョコレート(50グラム)』の成分は、以下の通り。

砂糖、カカオマス、全粉乳、ココアバター/レシチン、香料、(一部に乳成分・大豆を含む)

あ、失礼しました。これは成分ではなく「原材料名」でした。

栄養成分がこちらです。

エネルギー 279kcal
たんぱく質 3.9g
脂質 17.4g
炭水化物 27.7g
-糖質 25.9g
-食物繊維 1.8g
食塩相当量 0.076g
カカオポリフェノール 354mg/1枚

(繰り返すが50グラムあたり、である)

うん、やっぱり糖質(炭水化物)が多い。次いで、脂質。食物繊維って、炭水化物に入るのね。その次が、たんぱく質。

炭水化物27.7g、脂質17.4g、たんぱく質3.9g。これだけで、合計49.0g。50g中だから、もうほとんど水分の入る隙間はない。仮に質量の2%未満が水分だとして、それが割合として多いというべきか少ないというべきかでいったら、僕は“少ない認定”をしてさしあげたい。チョコレートよ、おまえは“カワキモノ”で間違いないだろう。

チョコレートの賞味期限は、短いものでは1ヶ月未満、長いものでは2年くらいだとネットでの短絡的かつ安易な検索で出てくる。ちなみに、16年以上前に賞味期限が切れたお土産もののチョコレートにチャレンジしたというネット記事も出てきたが、写真を見たところ、溶けてふたたび固まったような形跡が見られるように思うが、チョコレートとしての見た目を失っているようには思えない。https://otk-challenge.com/20years-old-chocolate
(KOU「旅男ライフ」より)

味はどうか、食べられるかどうかは別として、僕が中学生から32歳に至るまで程度の時間では、チョコレートが飛散して物質としてまるで消えて無くなってしまうようなことはないのである。(当然、保存状態にもよる。風雨にさらしたら、飛散・流出して当然だ。それを保存と呼ぶかといったら、もちろん呼ばない)

20年間未満という時間は、人間の尺度では長めかもしれないけれど、自然界の時間としては、ひとりでいるときにする鼻ほじりや放屁行為に匹敵するほど些末な短さなのかもしれない。

だいぶ脱線したように思うが、チョコレートに含まれる水分量だとか全体に対するその割合だとか、チョコレートが長い年月そのかたちを保てるかどうかといったことは、バレンタイン・デイの贈り物に対するお返しを迅速に済ませることに付随する問題の解決にはさほど利しないことがわかった。ちょっとは勉強になったと思うが、どうか。

何かと、先回りしてできることは、やっておきたい。あとになって期日が迫ると、行動の自由がなくなるからだ。

いったい僕は、行動の自由がなくなることがどれだけ嫌なのだろう。

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