イルカ・クジラ学まとめ2

「イルカ・クジラ学 村山司・中原史生・森恭一編著」を読んで気になった点をまとめる。なお、本ノートは「第2部:イルカ・クジラの生態に挑む」のみに範囲を絞る。

第4章:1枚の写真からイルカやクジラの移動を探る

個体識別は神経衰弱ゲーム、機械学習等でいまはどの程度楽になっているのだろうか。

小笠原諸島のザトウクジラは沖縄諸島海域と遺伝的な交流が盛んな同じ繁殖に属している。が、小笠原諸島のザトウクジラの一部がハワイ海域で確認されており、多少の交流があることも確認されている。個体によってはアラスカのアリューシャン諸島と沖縄・小笠原諸島でも識別されている。

沖縄・小笠原諸島は繁殖域で索餌場は千島列島・ベーリング海海域とみられている。

第5章:クジラ類が海洋生態系で果たす役割の謎に挑む

ヒゲクジラ類の餌と食べ方

呑み込み型採餌(イワシクジラを除くナガスクジラ類):やや粗い毛の短いひげ板を持っており、餌はオキアミやイワシ類などの群集性の強い種類を食べることが多い。喉から腹にかけた畝が大きく膨らむため、餌を海水ごと丸呑みし海水だけひげ板の隙間を通して吐き出す。

その他特殊な採餌方法としてザトウクジラの行うバブルネットフィーディングがあるが、実はニタリクジラでも稀にバブルネットフィーディングを行うことが確認されている。

濾し取り型採餌(セミクジラ類):ひげ板の毛が非常に細く、1枚1枚のひげ板が長く、餌はカイアシ類というオキアミよりもかなり小さいプランクトンである。セミクジラ類は口を開いたまま餌の密度が高い水域を泳ぎ、カイアシ類を口に入れていく。セミクジラ類のひげ板は口の両側では非常に長いが前方にはひげがほとんどない、よって採餌の時は口の前方だけがぽっかりと開き、ネットを広げている格好になる。泳ぎ続けるセミクジラの口からは絶え間なく餌を含んだ海水が口に流れ込み、両側の広いひげを通して海水だけが流出する。

イワシクジラ(ナガスクジラ類)は細かい毛のひげを持ちカイアシ類を好んで食べるが、採餌型は呑み込み型とハイブリッドタイプである。

掘り起こし型(主にコククジラ):粗いひげを持ち、海底に巣を作って住んでいる端脚類(ヨコエビなどの甲殻類)を採餌する。コククジラは口の片側を砂質の海底に押し付け、餌を砂子と口の中に吸い込み、餌は荒いひげで濾し取られ海水や砂は吐き出される。コククジラが採餌した後には独特の穴(ホエールピットと呼ばれる、ベーリング海チリコフ海盆が有名らしい)が海底に残る。

ザトウクジラやホッキョククジラも同様の採餌方法を行うことがあることが確認されている。

ハクジラ類の餌と食べ方

小魚や小さいイカを好むグループ:このグループは上下の顎に小さく尖った歯を多く並べている、が、多くの場合イルカ類は餌を丸呑みしてしまうので、この歯は口の中に餌を閉じ込めるための籠のような役割を果たしているらしい。もちろん、餌に噛みついて捕まえたり歯で餌を殺したりする役割もあるだろうが。

イシイルカなどの小型のイルカは、自らも獰猛な捕食者であるアカイカ科(鋭い牙と強靭な腕をもつ、スルメイカとかケンサキイカも)のイカ類はほとんど食べず比較的小型のものを食べているらしい。エコーロケーションで大きさで判断して狙うイカを区別しているのだろうか、そうだとしたらやはりエコーロケーションの精度には眼を見張るものがある。

イカ類を好むグループ:比較的大型のイルカ類やクジラ(ゴンドウ類やマッコウクジラ)が属する。特徴として歯が少ないことがあげられる。彼らも餌は吸引して食べるので歯が少ないことは採餌に全く影響していないと考えられる。また、彼らの口蓋には固いざらざらした畝があり、これは滑りやすい以下の表面を抑え込んで確実に捕らえるという役割をしていると考えられる。

歯がないことについて、ヒモハクジラでは下顎から上に伸びた牙状の歯がくちばしの外側から上顎にひもをかけるように絡まるので、成長するとあまり口が開かない状態になってしまう。どうしてこうなった。。。。

ヒモハ1

ヒモハ2

ヒモハクジラ

大型魚類や哺乳類を好むグループ:シャチやオキゴンドウ・ユメゴンドウが属する。歯の本数はやや少ないが太く丈夫な歯が上下の顎にずらりと並んでいる。大きな餌を齧り取ったり、かみ殺すことも多くあるだろう。シャチは大型のヒゲクジラ類でも集団で襲い肉を齧り取るし、ミンククジラのような小型のヒゲクジラならむさぼり食べてしまう!(へ~~~)オキゴンドウやユメゴンドウもほかのイルカを襲うところが目撃されている。とても丈夫な歯と顎を持っているグループである。

イシイルカの採餌戦略

レジームシフト:1980年代の終わりごろに起きた黒潮続流域での大規模な水温上昇により、マイワシの稚魚が育たなくなりマイワシが激減してしまった現象。

ドスイカ:深海性のイカで、揚げ物にするとおいしいらしい。

深海を選んだマッコウクジラ

マッコウクジラの胃内容物を調べるとおびただしい数のイカの残骸が出現する。マッコウクジラはどのような採餌方法なのだろうか。いくつかの仮説がでているがどれも想像の域をでていない。

大きな音で餌をしびれさせて食べる、口の周りが発光しイカを誘引する方法など。。。。(まじ?)いずれにせよ、イカを待ち伏せ・動けなくして食べるという点では共通している。これは追い掛け回して食べるにはあまりにも多くの小型のイカが胃内容物から出現することからも支持される。

深海のイカは楽に深海に留まるためアンモニア(圧に強い)のつまった液胞を筋肉中に蓄えている。(なので深海性のサメとかはアンモニア臭いのかしら)なので、マッコウクジラの胃内容物調査の際はもうものすごい臭いがするらしい。

マッコウクジラは1000m程度の潜水は当たり前で3000mを超える潜水もしているらしい。マッコウクジラの特徴的な大きな頭には脳油と呼ばれる油が詰まった袋が入っている。この油はおよそ28℃で固まり、33℃で溶ける。潜水時には出っ張った頭の先端にある鼻口から続く長い鼻道に海水を入れてこの脳油を冷やして固め、比重が重くなった頭を下向きにして一気に潜水すると考えられている。目的の深度に達した後は鼻道から海水を排出し、血液で脳油を温めて溶かし、脳油の比重を軽くすれば中立の浮力が得られる。さらに脳油を溶かせば、比重の軽くなった頭を上にして簡単に海面に浮きあがれる。

また、クジラ類は一般に血液量が多く、それだけ赤血球に酸素をたくさん蓄えておける。その血液もおよそ人間の倍近い密度で酸素を保持できる。筋肉中にはミオグロビン(酸素を蓄える色素タンパク、ヘモグロビンより酸素親和性に優れる)が大量に含まれており、マッコウクジラはクジラ類の中でも量が多く、筋肉量当たりの酸素容量は人間のおよそ10倍である

マッコウクジラは西部北大西洋だけで10万頭いると推定されている。

世界のマッコウクジラの年間餌消費量は9000万t以上と推定されており、これは世界の年間漁業生産高が1億t強であることを考えるとかなりの量である。しかもこれは食われて無くなる量であって、実際にはこの何倍もの量のイカ類がいるはずである。すごい。深海謎すぎる。

クジラ類と海洋生態系

アリューシャン諸島では、かつて毛皮目的でラッコが乱獲され、ラッコの餌であるウニによって海草が食い荒らされそれに伴い魚類も減少した。ラッコの保護が進みラッコの数が回復したが、最近シャチがラッコを食べるようになったらしくまたしてもウニが増えつつあるそうだ。

第6章:ハンドウイルカの行動と社会の謎に挑む

米国では海生哺乳類に餌付けを行うことを海生哺乳類保護法という法律で禁止しており、実際に観光目的で餌付けした観光業者に有罪判決が下ったケースもある。

ハンドウイルカでは精子を作り出す睾丸ひとつが300gに達し、その精液の濃さもチンパンジーの100倍・人の300倍といわれている。これは、複数の雄と交尾する観察事例と併せて、雌の膣内で精子間競争が起こっている可能性を強く示唆する。そのため、妊娠したとしてもオスはその子が自分の子と確信できないため接近係数も小さいのではないか。

イルカはグループ間の互恵性がみられる。つまり、あるときグループAとグループCの紛争にグループBが加わりA側に立ったとする。その後またあるとき今度はBとCの紛争が起き、Aが加わったならばAはB側に立つということ。この互恵性はチンパンジーでも見られず、これまで人間でしか見られていなかった。これは様々な社会的情報を記憶しながら個体間関係を維持して生活している動物だからこそ可能なことなのであろう。

助については上記の面があるが、一方オスによる子殺しの可能性も報告されている。

スコットランド北東のマレー湾近郊では、ハンドウイルカがネズミイルカをつつき殺す様子が目撃されている。外傷はそれほどでもないが内臓や骨格が痛めつけられたネズミイルカの死骸が90例も見つかっている!また同海域においては、つつき殺されたとみられるハンドウイルカの新生児(ネズミイルカとほぼ同じ大きさ)の死骸が5例見つかっている。ライオンの子殺しのように、オスのハンドウイルカも自分の繁殖成功度を高めるためにメスから子を奪い、そのメスと交尾するのか?解明が待たれる。

そもそもハンドウイルカは死を理解できるのであろうか、この亡骸を母イルカが運び続ける現象は本能的に行っているにすぎず、死を理解しているとは思えないと本で読んだがどうなのであろう。

死を理解している・いないに関わらず、ネズミイルカを殺す意味はなんであろう、縄張り争い?はたまたただの遊びで?死を理解したうえで後者なのであれば、なんと残酷な生き物であろうか。また、目撃例と同じくオスのハンドウイルカのみがこの殺しを実施するのであればさらになぜ?が残る。

イルカは文化を持つか?

西アフリカのモーリタニアにクラスイムラゲンと呼ばれる原住民は、1000年以上前からハンドウイルカと共同してボラ漁をして暮らしてきたといわれている。沖でボラの群れを見つけたイルカが跳ね、それを合図に人が岸側で網を張る。イルカはその網めがけてボラを追い込む、網にかかったボラは人の取り分、沖に逃げたボラはイルカの取り分となる。南米ブラジルのサントアントニオ湖でも同様の量が古来より行われてきたという。これらはヒト・イルカ側ともに親から子への垂直伝達により引き継がれている。

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