イルカ・クジラ学 まとめ

「イルカ・クジラ学 村山司・中原史生・森恭一編著」を読んで気になった点をまとめる。なお、本ノートは「第1部:イルカ・クジラの能力に迫る」のみに範囲を絞る。

Index.

1. 各章まとめ

2. ノート

第1章:イルカは鳴き声で何を伝えているのか

まずイルカの鳴き声には2種類ある。

ホイッスル:"ピューイ"のような長く澄んだ口笛のような鳴き声。吸収減衰率が小さいため主に遠距離通信に使用される。ハンドウイルカ・マイルカなどは個体特有のホイッスルを獲得することから、特にそのホイッスルをシグネチャーホイッスルと呼ぶ。

クリックス:"ギギッ"のような短いパルス状の鳴き声。吸収減衰率が大きく、エコーロケーション(反響定位)に使用される。

イルカによってはホイッスルを有さないイルカ(イシイルカやスナメリなど)も多く、これは比較的小さな群れで個体間距離が近い行動をするため長距離通信が不要なためと思われる。

シャチに関してフォード博士により報告されたコールレパートリー(時に方言とも呼ばれる)によると、沿岸定住性(Resident)タイプのポッドでは独自のコールと呼ばれるパルス音がポッド内で共有されており、母から子へ受け継がれている。つまり、シャチは強い結びつきをもつポッド単位での識別信号を獲得し、一方ハンドウイルカなどは個体単位での識別信号を獲得しているのである。また、ミラー博士の研究によるとシャチの向かっている方向によってコールの周波数機構に違いがあることが報告されている。報告では、録音源に向かってきているシャチ・遠ざかっていくシャチの発するコールには高周波域 (5kHz以上)に違いがみられ、遠ざかっていく個体の高周波成分は向かってくる個体のものよりも弱いため、その個体がどの方向へ向かって泳いでいるか判別できるのではないかと考えられている。

・イルカでは、配偶者を引き付けるための鳴き声があるかどうかはわかっていないが、求愛音声としてハンドウイルカやマダライルカにおいて、バーストパルスが求愛音声として使用されていることが判明している。1995年の本では、イルカが求愛音声をもっているかどうかは不明と記載されていたため新しい発見と思われる!すごいぞ研究者!

・エコーロケーションの能力

訓練されたハンドウイルカでは、直径7.6cmの金属球を100m以上先から探知することができる。また、物体の動きや方向についてもかなり正確に把握することが可能である。さらに、あくまで差異についてであるが、異なる物質の大きさ・厚さ・材質・形の相対的な差異を識別することも可能なことが分かっている。

・イルカのコミュニケーション

イルカのコミュニケーション(ここでは言葉を介してたコミュニケーションとする)について、そもそも言葉とはなんであろうか。我々のイメージする言葉つまりヒト言語にはいくつかの要素がある。音声によって事物を表す象徴性・内容に即して臨機応変に対応できる随意性・学習が可能である可塑性・音声と事物の結びつきが集団に理解されている公共性・文法規則にのっとり無数に近い表現を創作できる生産性・時制や離れた場所での出来事について表現できる転置性などである。

イルカのコミュニケーションにこれらの特徴は見られるのだろうか。

随意性:ハンドウイルカのホイッスルによる鳴き真似

可塑性:ハンドウイルカのホイッスルの成長による増加

象徴性・転置性:訓練されたハンドウイルカは理解した。ここで注意したいのは、訓練されたハンドウイルカが象徴性・転置性を理解したからと言ってイルカのコミュニケーションにそれらの要素があるとはならない。

イルカは、声(シグネチャーホイッスル)・視覚(鏡像認知)で自己認識ができ人工言語も理解することができる。ただし、人工言語を用いてイルカから人へ語り掛けてきたという報告はなく、イルカとのコミュニケーションができるのか、そもそもイルカのコミュニケーションについては不明な点ばかりである。

第2章:イルカは何を見ているか

イルカ・クジラの瞳孔は三日月形状!円形ではない!水族館でよく見てみてね!

桿体:暗いところで機能する視細胞、錐体:色などの近くに機能する視細胞

ネコなどの眼に光を当てると眼が光って見える。これは眼の中にあるタペタムと呼ばれるものによって光が反射されるためである。魚類や哺乳類の一部生物はこのタペタムが網膜の色素上皮層や脈絡脈中に存在する。つまり、眼球に入った光は網膜を通過後にタペタムで反射し再度網膜を通過する。これにより光が二度網膜を通過(光の増幅作用)するため、夜眼が利くなど少ない光を有効に利用できるのである。イルカの眼に光を当てると青色に光って見えるがこれもタペタムの反射であり、イルカのタペタムはコラーゲンが主成分となっている。これは、陸生哺乳類の有蹄類(牛・羊etc)のタペタムと同じであり、進化の痕跡を見ることができる(DNA的にイルカ・クジラは有蹄類に最も近い!)

イルカの視力(視精度、網膜分解能)

人の視力検査のようにイルカ類の視力を測定することは難しい。よって、摘出した眼球の網膜を切開し特殊な染色方法で神経節細胞だけを染め分ける。そして、網膜の各所で一定面積におけるその数を光学顕微鏡などで数え、求められた密度から分解能を推定する。こうして求めた視力の値は下図の通り。(1°=60分、この分で表された数値の逆数がおなじみの視力に相当する!例えば、コククジラの視力は1/10 = 0.1となる。ほんと?思ったより悪いな)

コメント 2019-12-12 191836

ちなみに、色覚については再現性のとれた研究例が少なく結論を得るに至っていないというのが現状である。

シャチは成長するにつれ胸ヒレの割合が大きくなり、オスのシャチは背ビレが非常に高くなる。→視覚により成熟度を見分けている。

第3章:ネズミイルカの潜水の謎に挑む

ぶっちゃけあんまり興味わかなかったが、高速船やシャチなども高速で泳ぐと海面を飛び出して飛ぶように泳ぐのはなぜなんだろう。

酸素は体内では主に肺(気体状態)・血液中・筋肉中に蓄えられる。血液中ではヘモグロビン、筋肉中ではミオグロビン(ヘモグロビンよりも酸素親和性?が高く)と結合し蓄えられている。イルカ・クジラ類はこのミオグロビンが非常に多く、そのためクジラ肉などは赤身というより赤黒い色をしているのである。なお、ハンドウイルカの体内に蓄えられる酸素の分配比率が推定されており、肺34%・血液27%・筋肉39%である。これらの比率からネズミイルカの体内酸素保有量を推定し、別途推定された潜水時に使用された酸素量を比較すると、ほとんどの潜水において体内酸素保有量の半分程度しか使用していないようである。有酸素代謝:糖と酸素からエネルギーを生み出す。無酸素代謝:エネルギー生成によって筋肉に乳酸などが生成され高度の疲労を招く。また、無酸素代謝によるエネルギー生産量は有酸素代謝によって得られる量より少なく効率も悪いのである。つまり、ネズミイルカの潜水は有酸素代謝で非常に効率が良いため、連続潜水が可能なのである。

シャチはどうなんですかね。以前知床のシャチがその他海域のシャチに比べてかなり深く潜水していることが判明したと聞いたが、潜水時間・能力等どの程度分かっているのでしょうか。調べてみましょう。ね。

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