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BLUE GIANT

ネタバレ大いにあり。

まず大崎八幡宮と89ersのステッカーに惹かれてしまった。全体を通してだが仙台色が強いのが良い。分かる人にだけ分かる要素が刺さるのがこんなに嬉しいとは、いろいろ言われている仙台弁についても自分はそこまで気にならなかった。

まず序盤、上京する人間の心情が映像からビンビンに伝わってきたのがとても良い。東京の街並みを綺麗に見せている所ももちろん良かったが、とくに良かったのは主人公が早朝の深夜バスで一人ぼーっとしているシーンだ。
あの深夜バス特有の孤独感みたいなものが伝わってくるのが凄く良い。
物語の始まりにあのシーンを入れていたことでこの映画への信頼感がかなり上がった。

ただ早朝の深夜バスでカーテンを開けるのはやめた方が良いと思う。眩しすぎるので。


そしてゆきのり君と出会いがありここから次第に主人公の物語が主人公たちの物語に切り替わっていく。

ゆきのりくんが主人公の演奏を初めて聞くシーンだが、演奏の音はもちろんのこと、息継ぎや床と靴が擦れる音、必死さが伝わる足音と演奏以外の音までしっかり聞かせてくれるのがとてもよかった。
この後の演奏シーンでは靴が擦れる音などはあまり聞けなかったが、それがより一層このシーンの演奏の特別感を引き出していた。

ストーリーはもちろんのことキャラがまたとても良い。
主人公以外の2人がまた良いのが、初見で得たイメージを裏切りつつもキャラ崩壊まではいかない絶妙な描写がされていたことだ。
ゆきのり君はクールキャラかと思えばSo Blueにかける思いは主人公にも引けを取らないアツさを持っており、玉田君はよくいるノリの軽い大学生かと思えば、自分の実力をしっかり受け入れ一歩一歩確実に前に進んで行く様が非常に格好いい。
玉田君は本当にいいキャラだったな。
最初に登場した時は、音楽以外の面で主人公を支える感じのキャラなのかな?と思っていたが、河原で主人公の演奏を手伝ったことをきっかけに彼はどんどんドラムの道に進んで行く。
河原に落ちていた空き缶をこれまたその辺に落ちていた木の枝で一定の間隔で叩く、言ってしまえばそれだけの数分ではあるのだが、彼の刻んでいるリズムが主人公の演奏に重なることでドラムの楽しさがこちらにまで伝わってくる。それまで音楽とは縁遠かった玉田君に一発でドラムの道を決意させなければいけないという、非常に重要で非常に難しいシーンでこれを見せてくれるあたり本当に信頼のおける映画だなと思わされた。

あと良かったのは俺が1番下手くそなのになんで俺にはなんも言わねぇんだの言葉だろうか。
自分を否定され落ち込んでいたゆきのり君を励まそうとする優しさと、他二人の実力を認めた上で出る怒りをはっきり言葉で伝えられる力強さと、彼の良いところがこの短いセリフにすべて詰まっていたと思う。
とあるライブの後に一人の老人が彼に声をかけるシーンがあるのだが、このシーンで玉田君含め彼に感情の比重を置いて映画を見ていた自分のような人間が救われる。
ここで老人がかけた、成長する君のドラムを見に来ているんだよというセリフがあまりにも良い。実力と時間の差を埋めるため必死に頑張っていた玉田君を見てくれている人がいることが自分のことのように嬉しい。

確かラストライブ前だったか、玉田君の部屋のドラムが移され、床に転がるボロボロのドラムスティックが移るシーン。玉田君がドラムにかけてきた時間を数秒で見せているこのシーン、あまりにボロボロのドラムスティックが河原に落ちている木の棒と重なってしまい、もうここでダメだった。ボロボロ泣いてしまった。スティックも涙もボロボロだ。勝手に重ねて勝手に泣いて、こんなに楽しんで映画を見られる自分はなんて幸せ者なんだろうか。


ラストライブ前の衝撃的な展開からの2人だけでのラストライブはそりゃあ泣いてしまうし、2人だけの登壇でしっかりと3人を紹介するところも、片手でピアノを弾くことの意味が序盤とラストではまったく変わっているゆきのりくんも、映画序盤から主人公たちを見守っていたバーの店主さんの涙を堪えきれていない様子も、そしてなによりの力強い演奏も、全部が最高に良かった。


唯一気になったのはやはり演奏中のCGだ。もうちょっと何とかならなかったのかと思ってしまう。
まあストーリーに感情を持っていかれすぎて、質の良くないCGにはあまり意識を向けられなかったのが正直な感想だ。ただ気になる人はかなり気になると思う。CGだけはまあまあひどい。

いやそれでも本当に良い映画だった。原作も読みたい。
欲を言うなら、玉田君にベガルタ関連の服を着せてほしかった。でもやはりいい映画だった。

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