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594日目 かっぱ

2023年 6月 20日 (火)

A「最近雨が多くて嫌ですね~」

B「そうだね、でも梅雨だからしょうがないのかな」

A「今ってこれだけ技術が進んでメタバースだとかAIだとか言われてる時代なのに、雨を防ぐ方法が移動式のちっちゃい屋根を持ち歩く、なの前時代的すぎません?」

B「そうだね、しかも完璧に防げるわけじゃないし」

A「本当ですよ、どう考えたってズボンの下の方は犠牲になるじゃないですか。なんで傘なんてツールがこの令和の時代にデカい顔してるんだって話ですよ」

B「大分怒りが強いね」

A「もう僕は本当に雨が嫌いなんです、雨も嫌いだし、雨を防ぎきることのできない自分と人類の技術の進歩速度が憎くて憎くて……」

B「じゃあ合羽を着ればいいんじゃない?」

A「いやですよ、僕合羽も嫌いなんです」

B「なんで?動きづらいから?」

A「いや、だって、合羽って解決になってないじゃないですか」

B「どういうことだろう?」

A「いやだから、僕たちは濡れたくないから傘をさすんですよ。でも合羽を着たって雨には濡れるじゃないですか」

B「合羽は濡れるだろうけど、その中の服や君の体は濡れないよね?それじゃあダメなの?」

A「体や服が濡れなくても、合羽は濡れるじゃないですか。僕はそれを良しとしてないんです」

B「でも合羽は濡れるためにあるわけじゃない?そこは必要な犠牲と割り切れないかな?」

A「じゃあ先輩はなんで服が濡れるのは嫌で、合羽が濡れるのはいいんですか。僕からしたらそっちの方が不思議ですよ」

B「だって、服が濡れると気持ち悪いけど、合羽は濡れても水が染みこんでこないよう作られているから気持ち悪くないし、そもそも濡れた合羽は脱げばいいから」

A「いやいや、水が染みこむ染みこまないは素材の違いの話でしかないんで今はどうでもいいんですよ。服が濡れるのが嫌なのは気持ち悪いからじゃなくて、服も自分の体の一部だからです。合羽だって身に着ければ自分の体の一部になるんだから、それが濡れるのは自分の体が濡れるのと同義なわけです。先輩だってかけている眼鏡が濡れるのは嫌でしょう?眼鏡が濡れてもそこまで気持ち悪くはならないのに嫌なんです、それは眼鏡が先輩の体の一部だからなんですよ」

B「うーん、君の言っていることが正しいような気がしてきたよ……」

A「いや、この意見は正しいとは思いません、ただ僕がそう思うと言うだけです。僕は死んでも合羽は着ないですけど、先輩は合羽を着て自分の体をビッショビショに濡らしていてください」

B「なんだか俺も合羽を着る気が失せてきたよ……」

A「まあ強制はしないですからね、着ればいいと思いますよ、合羽。合羽ってw。かっぱ、ですって、かっぱ、僕には着られないなぁ、かっぱ。かっぱ着たら、私はかっぱを着てます、って言うんですよね。いやぁ凄いなぁ、かっぱ着てます……僕は言えるかなぁ……」

B「もう雨が嫌いというより合羽が嫌いなだけにも見えてきたよ。そこまで言われると俺が合羽を擁護してあげたい気持ちが湧いてきたよ」

A「いいですよ、擁護してみてくださいよ、かっぱw」

B「じゃあ、体の一部が濡れるのが嫌なら、傘は良いの?傘は体の一部じゃないの?」

A「傘は傘でしょう。眼鏡やかっぱとは話が違いますよ」

B「そうかな?傘も立派な体の延長線上とみなすことはできると思うけど?」

A「だって、想像してみてくださいよ。今先輩が突然異世界転生するとします。眼鏡をかけていたら、異世界に転生してもそのまま眼鏡をかけたままで転生すると思いません?」

B「ま、まあ眼鏡はそうだね」

A「これは服でも同じです、異世界転生していきなり全裸は想像しづらいですからね。そして合羽もまた異世界に引き継げそうじゃないですか?」

B「ま、まあね。雨降る現実世界から異世界の山の中に突然転移してしまい、着ていた合羽を乾かすため木にひっかけて広げていたら巨大なモンスターと見間違えられ異世界人から迫害を受けるマイナスからのスタート、というシナリオが君の言葉を聞いただけでスッと浮かんできたよ。君の言うことにはいちいち説得力があるから相手取りたくないんだよなぁ」

A「そのシナリオを浮かべられたのはボクの手柄ではない気もしますが、今はそんな話をしてるんじゃないです。とにかく、これが傘なら、異世界には持っていけないでしょう!傘はあくまで手に持っている道具の一つでしかないんです!さあどうですか!」

B「ぐぬぬ……それなら、合羽が体の一部であることは認めるよ。それが濡れてしまうのを君が嫌っているのも分かった。じゃあそもそも、なんで濡れるのが嫌なのかな?」

A「それは……濡れたら不快でしょう。それはさっき先輩も言っていました」

B「だから、そもそもなんで濡れたら不快なんだろう?不快に感じるということは生存本能が働いているということだから、濡れることが何か体に不具合をきたす可能性があるから不快なんだ。例えば体が濡れると体温が下がってしまうよね?それを体が嫌がっているから、濡れるのは不快なんだ」

A「……そうだと思います」

B「君は合羽を体の一部と言ったね?じゃあ合羽が濡れたら君の体温は下がるのかな?確かに多少は影響を及ぼすのかもしれない、でも生命が脅かされるほどのものだとも思えないよ。無視のできる範囲内だと思う。これはどうかな?」

A「それは……人によると思います。気温の変化が作用する程度は人によって違いますから」

B「まあそうだね、じゃあ君はどうかな?君が来ている合羽がびしょびしょに濡れたとして、それが君の健康に被害を及ぼす可能性はどれくらいだろう?」

A「……高くはない、でしょうね。僕はそこまで病弱ではないですし」

B「これでどうかな?まだ合羽を足蹴にする?」

A「……先輩、僕、間違ってました!合羽、着ます!」

B「お?」

A「合羽は素晴らしいです!傘なんかと違って体全体が濡れずに済む!両手もふさがらないし、最高の道具ですよ!」

B「おお……ここまで影響されやすいと色々心配になるなぁ」

A「誰が発明したんでしょうか、合羽!発明した人は天才ですよ、合羽!響きもシュッとしててかっこいいですね!かっぱ!」

B「凄い、数分前と同一人物とは思えないよ。あれほど合羽を憎んでいた男がものの数分でこんなになるとはね……」

A「先輩も一緒に着ましょう、合羽!ちょうど明日は雨予報ですよ!今すぐ買いに行きましょう!」

B「いや、僕はいいかな。さっきの君のプレゼンを聞いて、なんだか合羽が憎く思えてきているくらいだよ」

A「そんな!合羽になんてこと言うんですか!誤ってください!そして着ましょう、合羽!なんなら晴れの日も着ましょう!」

B「嫌だね、絶対に着ない。かっぱってw響きがもう駄目だよ亜雨が降ろうがやりが降ろうが、合羽だけは死んでも着ない!」




●本当につまらない一日でした。

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