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370日目 雨を告げる漂流団地

2022年 11月 8日 (火)

●先日、今年見たアニメ映画のランキングをつけながらニヤニヤしていた時のこと。
そういえば最近はアニメ映画を見ていないなと、ふと思った。
実際の所最後に見たアニメ映画は四畳半タイムマシンブルースと、そこまで昔の話ではなかったのだが、完全にオリジナルの作品に対象を絞ってみると、犬王が最後になるらしい。

そういえばいくつか見たいなと思っていたアニメ映画があったものの、帰省やら旅行やらバイトやらで忙しくてあまり時間が取れていなかった。
調べていくと、9月の最初の方に公開されていたアニメ映画で見ようと思っていたものを発見したが、ほとんどの映画館ではすでに上映が終了しているようだった。

しかしそれでも諦めず調べ続け、出町座という京都の小さい映画館で、その映画が今週末まで公開されているらしい情報をゲットしたのが昨夜のことだった。そして眠りについて、


●起きた。
時刻は8時半。
火曜日は授業が午後からなので、こんな早起きをする必要は全くない。

が、今日の目的は授業ではない。
急いで支度を済ませ、駅まで歩いてそのまま京都へ。
駅前からバスに乗ってしばらく北上し、上映時間2分遅れで出町座に到着した。慌てて金を払い座席を選ぶ。自分以外には先客が一人だけと、非常に理想的な込み具合だ。
座席は選び放題だったので、一番後ろの中心あたりを選択。
今日見たのはこれ、

シアターの扉を開けると、すでに上映が始まっているようだった。
極力音を立てないよう気を払い着席。




●映画も終わり、時刻は昼の12時。
急げば授業にも間に合う時間だが、この後どうせバイトでまた京都に来るので授業に出る気は起きなかった。ごめんなさい。

何か昼ご飯を食べたかったのだが、生憎出町座で使い切ってしまったおかげで現金の持ち合わせがなく、カードが使える店を探しながら街をぶらぶら歩いているだけでかなり時間を消費してしまった。

出町座を離れてしばらく鴨川沿いに南下する。
平日の真昼間でも、鴨川沿いでは多くの人が色々なことをしている。
本を読んでいる人がいたり、スーツのまま川べりに座っている人がいたり、画材を構えて絵を書いている人がいたり、並んで座って会話を交わしている大学生がいたり。
なかなか楽しい散歩道だった。
冬も近づく11月、少し肌寒かったが日差しのおかげで気持ちの良いお散歩日和になったのは幸運だった。たまに川沿いのベンチに座ってダラダラしたりしつつ、のんびりだらりと歩いていた。

河原町三条のあたりまでやってきたのが、14時半のことだ。
流石にのんびりしすぎたかとも思ったが、ちょうどいい具合に腹が空いていたので、カードの使えるラーメン屋を見つけ、少し遅めの昼ごはんとした。
その後も色々京都市内をウロウロしまくって、気づけばバイトに行かなければいけない時間を迎えてしまう。

バイト。今日は新バイト。

今日は忙しすぎず暇すぎず、平均的な一日だった。
海外のお客さんがやはり多く、簡単な英単語での接客などもしたが、自分の言葉の半分も伝わっている自信がない。
良くて三分の一くらいだろうか、壊れるほど接客しても1/3も伝わらない。

帰りの電車でよく使うワードの英訳を調べたので、次回は大丈夫なはずだ。
少々お待ちくださいは、just a moment please。

帰宅し適当に晩御飯。適当すぎて刺身を切るのを忘れていた。ダメにならないといいが。


●さあ感想。
雨を告げる漂流団地、面白かった。
諸行無常の言葉が最初から最後まで頭をよぎっていた気がする。
とにかくこの世はすべてが諸行無常、人も建物も関係も。

このアニメ、劇場での公開と全く同じタイミングでネットフリックスでも配信していたらしい。
劇場に客呼ぶ気無いんかと言いたくはなるが、実際ここで感想を書く上で映像を振り返れるのはめちゃめちゃありがたい。
ネットフリックスも悪いところばかりではないのかもな。

以下ネタバレ。









まずこの映画、リアルが凄かった。
主人公たちは小学6年生、みんなが当たり前のようにスマホを持っていて、ラインで会話を交わしていて、スマブラやろうぜなんてセリフが出てきて、小さいコントローラーでなくプロコンが良いなんてセリフもあって、ヒロインの親が在宅勤務をしていて。
なんだか、コロナのない2022年のリアルさが凄いなと思った。
まあコロナが無ければ在宅勤務と言う文化もそんなには定着してなかったんじゃないかとも思うが、それは置いておいて。
最近の小学生に着いてめちゃくちゃ詳しいわけではないが、自分が小学生だった時とは違う、今の2022年の小学生の、当たり前のようにスマホを使いこなしてニンテンドースイッチで遊んで、そんなリアルさが凄いなと思った。


この映画の舞台は団地だ。
主人公とヒロインが過去に住んでいた団地であり、もうすぐ取り壊される予定の団地でもある。お化け団地と呼ばれるその団地は、お化けが出るという噂も流れているとかいないとか。

そしてこのヒロイン、団地への執着心というか懐古心が半端ないのがとにかく印象に残る。
ヒロインは両親が喧嘩別れをした末に、主人公のおじいちゃんに受け入れられて団地での生活を始めた。
主人公とヒロインと、そして主人公のおじいちゃんとの3人での団地での楽しげな様子が何度も映し出されるので、そんな楽しかった思い出の強烈さがこちらにまで伝わってくる。

しかし主人のおじいちゃんは死んでしまっているらしいことも序盤に明かされていて、ここでもまたさりげなく辛い。

おじいちゃんと主人公との楽しかった思い出が詰まった団地に、ヒロインはとにかく縛られていた。

取り壊し予定の団地に勝手に忍び込んで遊んでいたことが主人公にバレてしまい、いつまでも過去の象徴である団地に捉われていることを主人公に責められ、色々が悪い方向に進んでいって、まあなんやかんやあって気づけば団地が海に漂流していた、と言うところから少年少女6人のサバイバルが始まった。

こういうのって、大抵最初は大人にに縛られない子供たちのサバイバルライフを、ずっと真夜中でいいのにの曲でもかけてダイジェストで流すのが良く見られるやり方なのだが、この映画でそんな爽快なシーンが見られると思ってはいけない。
漂流してしまった事実を受け止め、主人公があらゆる方法で状況を打破しようとしても、そのどれもが上手くいかず。
そこから間髪入れずに幽霊騒ぎだ。背の高い人間が団地内で主人公たちを追い回す。
ここは自分でも結構本気で怖かったのだが、その前のシーンを見ていれば、その人間の正体にはすぐに気づけるので大丈夫だ。
彼はのっぽくん。団地に固執していることを主人公に責められたヒロインが、彼が団地にいて心配だったからと、言い訳に使ったのがのっぽくんだ。
背が高く短パンを履き服も地味目で、現代的に随分リアルに描写されていた主人公たちとの対比が激しく、受け入れるのにはなかなか時間がかかった。

食料はカップ麺やらポテチやらお茶やらコーラやらがいくつかあるらしく、最初はそんな食料を少しづつ食いつぶしていくシーンが続く。
最初こそグループ内の勝気な女子が食料の寂しさに文句を言うシーンなども見られたのだが、徐々に徐々にダイジェスト形式で、主人公たちの元気がなくなっていく様子を見せられる。
この間ものっぽくんは当然のようにグループになじんでいるのだが、あまりになじみすぎていて見ているこちらとしては違和感が絶えなかった。
ここまでもこの後も、のっぽくんが静かなキャラと言うこともあって、カレがとにかく印象に残らない。


とにかく早急に何とかしなければいけないのが食糧だ。
漂流中、団地以外の建物が海に漂流していたのを見た主人公は、それら流れてくる建物から食料を貰えるんじゃないかと思いつく。

最初に流れてきたのがプール施設だ。このプールは主人公たちが小学3年生の時に取り壊されたらしい。
3年前に取り壊されたはずのプールがなぜ海に浮いているんだと疑問は浮かびつつも、主人公とヒロインは食料を探す。
プール2階で自販機を発見し、主人公とヒロインは二人で力を合わせて、自販機のガラスを割ろうとあらゆるものをガラスにぶつけまくる。

子供のパワーだけでガラスが壊せるはずもなく、目の前にある食料を諦めなければいけないもどかしさにヒロインは落ち込んでしまう。
そこに声をかけるのが主人公だ、食料はまた何とかなる、大丈夫だ、団地に帰ろう、と。
何を無責任な、とは思ったがまあそれは置いておいて。
たとえこんな状況でも、主人公から優しい声で団地に帰ろうなんて言われたヒロインの心情を考えるだけで辛くなる。
主人公とおじいちゃんとの団地での時間を何よりも大切に思っているヒロインに、団地での思い出を過去にして進んでいく主人公が、団地に帰ろうと優しく言う。
最上の喜びであろうことが想像に難くないのが辛い。
立ち上がるために主人公に差し伸べられた手を取らないヒロイン。
彼女も団地に捉われてしまうことのよくなさを十分に理解してはいるのだろうが、どうしてたって主人公の団地に帰ろう発言に喜んでしまう自分に気づいてまた自分を責めていそうで辛い。
嬉しい気持ちを隠そうと必死のあの表情にはくるものがあった。


自販機を壊すことはできなかったが、その後無事緊急用の防災食セットを発見した二人。一旦は食糧問題が片付き、ここでまたさらに希望の光が指す。
望遠鏡で遠くを眺めていた男子が、彼らの住んでいた町が遠くに見えるのを発見したのだ。
ここでようやくダイジェスト。
海にダイブして体を洗い、久しぶりの豪華な食事に涙を流す少年少女。
日光浴をし、団地の部屋で日差し指し込む中昼寝をし、花火をし、この一瞬だけは楽しい時間が流れる。
思い返せば希望のピークはここだったかもしれない。

その後、のっぽくんの体に異変が起こってひと悶着あったりしつつ、主人公とヒロインは次に流れてきた百貨店で食料を探すことに。

ここのシーン良かったな。おもちゃ売り場の廃墟感が素晴らしかった。
ポップでかわいいおもちゃと、荒廃した売り場の対比は素晴らしい。

突然百貨店が崩壊し始めた、主人公たちのいる団地にもぶつかり、団地の一部が壊れてグループの女子が一人、海に落ちそうになってしまう。
そこをヒロインが助けるのだが、落ち行く人間を無傷で助けられるはずもなく、その女子は頭から血を流したまま目を覚まさなくなってしまう。

グループの内女子は3人。一人がヒロインで、あとの二人は親友どうし。
この二人というのが勝気な子とその親友のおだやかな子で、今回ケガを負ってしまったのは穏やかな方だった。
勝気な子は漂流の原因がヒロインにあるとこれまで何度も責めていたこともあって、ヒロインのせいで親友が怪我をしてしまったんだとヒロインを強く糾弾する。プールで食料を探索した時に負っていた怪我や、今回穏やかな女子を助けるためのアクションで負った怪我、そして自分せいでみんなを漂流に巻き込んでしまったんだという精神面へのダメージも合わさって、ヒロインの状態が本当に心の底から心配になってくる。
その後に少しだけ泣いているヒロインが見られるのだが、主人公と話すことですぐにいつも通りの強気なヒロインに戻ってしまう。
ヒロインがマイナス要素をため込みすぎていて、いつ爆発するのか見ているだけで気が気でなかった。

デパートとの衝突もあって団地はどんどん水に沈んでいく。
団地にいるのは限界と判断した一行は、いかだを作って団地から離れることを決める。
風呂桶を使ったいかだも完成し、さあ脱出と言う時になって、のっぽくんは自分一人を団地に残して他の6人を出航させてしまう。

ヒロインはのっぽくんを一人残していけるわけがないと、いかだから降り、泳いで団地に戻っていってしまい、結局いかだから離れたヒロインはそのままのっぽくんと団地に取り残されてしまう。
この前のシーンで、のっぽくんは団地の人たちをずっと見て来たと、のっぽくんは団地と常に一緒なんだと、そんな話を聞かされていたからだろう。
ヒロインの中でのっぽくんと団地がイコールで結びついてしまったのが決定的だった、大切なおじいちゃんを失い、そんなおじいちゃんとの思い出が詰まった団地を失い、何かを失うことをとにかく恐れていたヒロインの行動は、悲しいかな納得がいってしまう。
溜まりに溜まった負の要素が、ここで爆発した気がした。

ここからがまあ難しかったのだが、ヒロインと別れた5人の下に、観覧車が流れ着いてくる。
これは勝気な女の子の思い出の中の観覧車らしいのだが、主人公たちはこの観覧車に乗って上手いことやって、なんと再びヒロインとのっぽくんの居る団地とまた接触することに成功する。

ここから団地に縛られすぎているヒロインの心を主人公の呼びかけでほぐすターンが入り、また上手いことやってラストシーンだ。
主人公たちと団地が流れ着いたのは、なくなった建物がたくさん流れ着いた場所だった。
ここでのっぽくんと一向はお別れし、その後は謎の光に包まれて団地が空を飛び、気づけば団地は元の場所に戻っていました。という終わり。

なんだか最後が唐突すぎた気がする。
なぜ観覧車に乗っていたらヒロインのもとまで辿り着けたのかがわからないし、結局帰れたのは謎パワーのおかげで、色々広げられた風呂敷が広がったまま館内の照明が明るくなってしまった。
ラストシーンだけは少し納得のいかない部分が多いが、まあ全体的には良かったと思う。


ヒロインは最後、失うことの恐怖に打ち勝ってのっぽくんと笑顔でお別れできていたわけだが、その山を越えられたのが主人公と一緒にいるからなんだなと思うと、彼女が真に山を越えられたのかが怪しくなってくる気がしている。

再びヒロインと会うことができた主人公がヒロインに説得をする時に言ったのが、俺はお前と一緒にいたいんだ!と言う言葉。
ヒロインが分かれゆくのっぽくんへ言ったのが、私は主人公と一緒に頑張るから!という言葉。

2人が一緒であることに固執しすぎている気がして、完全ハッピーエンドと言いきっていいのかどうか、ちょっとセイでしょ。
小学生にしてそんな共依存状態、かなり危なくないか。まあそういうのは嫌いじゃないけども。

ラストシーンでもヒロインとその母親が、主人公の家で一緒に晩御飯を食べていたのだが、これを幸せなシーンとだけ捉えるのは危ない。
この2人はこの先の人生で、なにがどうあっても互いを意識せずいられないんだなと思うとニヤニヤが止まらない。まだ12歳だぞ。

この二人の成長if、見たい。見たーい。

あと声優さんが全員本職の人だったのが結構嬉しかった、と言うのもある。
主演の田村睦心さんの少年ボイスは言わずもがなで素晴らしい。周りを固める少年少女たちもかなりハマっていたように思うし、やっぱり映画はこれがいいよなと思う。

最近建物への興味が強まりつつある今、この映画を見られたのはラッキーだった。単純に海に浮かぶ退廃した建物の映像だけでも素晴らしいものがあるが、どんな建物でもいつかはあの海を漂う建物のように終わりを迎えるときがくるんだなと思うと、今すぐ旅に出たくなる。
今この文章を書いている間にも時間は流れていき、どこかで何かが不可逆な変化をしているんだろう。

諸行無常だ、この世のすべてに終わりがある。
人の命も、栄えた建物も、主人公とヒロインの無二の関係性も、絶えず変化していき、いつかは終わりを迎えるのだ。
6000文字を超えたこの日記もいつかは終わりを迎える。あともう少しだ。


全体として、ストーリーはラストの方がかなり気になったものの、主人公とヒロインの関係性を見られただけでも十分な収穫だ。
早起きして見に行った甲斐はあった。

そしてこの映画を見るなら、少し調子がいい日にした方が良いと思う。
かなーり暗い時間が続くので。


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