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名探偵コナン 100万ドルの五稜星

五稜星と書いてみちしるべと読ませるのはすごい。

ネタバレしかないです。

まず、面白かった。ここ最近のコナン映画はとても規模の大きいトリックが多く見られるのが嬉しい。
緋色の弾丸ではリニアモーターカーの特徴を生かした超遠距離からの狙撃、ハロウィンの花嫁では渋谷の高低差を生かした爆弾と、地形を最大限活用することで、強大な組織や陰謀を敵に据えなくとも、コナンたちに襲いくる山場の存在感を高められるので、毎年春の風物詩にもなったコナン映画でも、飽きさせることなく劇場版の緊張感を演出できるのはすごい発見だ。
現実にある地形を使うものだったり、リニアモーターカーのような技術を生かしたものだったりと、手を変え品を変える手法が強い説得力とロマンを同時に持っているのもまた良い。
去年の黒鉄は黒の組織と言う強大な敵がいたためそのような工夫は見られなかったが、今年はそれが見られたのがとても嬉しかった。五稜郭と剣を使った気球のシーンは見ていて本当に楽しい。

コナンの映画にも色々要素はあると思う。謎解き、アクション、キャラクターといくつかある中で、今回押し出されていたな、と感じたのはキャラクターと、そしてトレジャーハントの要素だった。謎解きでもアクションでもないまた新たな要素をここに来て出してくるとは。過去にも紺碧の棺だったりで宝探し要素は推されていたが、ここまで他の要素を抑えてトレジャーハントがメインに据えられているのはこれが初なんじゃないだろうか。

宝探しの過程では北海道や五稜郭の歴史も関わってくるため、歴史好きの人にも向けて作られているのだろうか。自分はその方面にはそこまで明るくなかったが、わかる人にはもっと早くわかるよう作られていたんじゃないかと言う気もして、そういう一部に向けたファンサービスが色々含まれているのは素直にいいな、と思う。ファンサービスで言えば、今回の映画は本当に登場人物が多かった。コナン小五郎蘭に平次和葉は当然、それに加えてキッドに中森警部にそして青子ちゃん、道警の人たちにCV松岡禎丞のイケメンにトレジャーハントを目論む敵が2グループいて、平次の追っかけの紅葉ちゃんとその執事がいたかと思えば平次のライバルの沖田君もいて、終盤の乱闘シーンで謎のスキンヘッドが出てきたかと思えばそれは青山先生の他作品のキャラクターの鬼丸で、果てには少年探偵団with阿笠博士まで出てきた。現地にいなかったものの園子、新一の両親まで出てきて、土方歳三をはじめとする歴史上の人物まで出てくるので、本当に登場人物が多かった。
劇場版に初登場するキャラクターも多くファンサービスとしてはとても良いものだろう。個人的には青子ちゃんの登場が結構嬉しかった。青子ちゃんは一人称が『青子』なのがとても良いと思います。声も可愛い。

もう一つの軸、キャラクターを見せる側面。こちらも本当に良かった。
和葉に告白するため悪戦苦闘する平次の様子が本当に面白く、それを後押しする蘭ちゃんの少し間抜けな様子もとても良かった。
パラシュートで降りてきた平次に涙を流したり、恐ろしく早い手刀で告白の邪魔者を消したりと、なんだかんだ蘭ちゃんも女子高生なんだなと思い出す浮足立ち具合が本当に良かった。
あまりに個人的過ぎる理由から、キッドとビッグベンをやたらと目の敵にしている平次もとても良い。最近の平次の報われなさは本当に面白いので、今後もしばらくは報われないままいて欲しい。

あとはキッドまわりのキャラクター描写だろうか。
キッドが映画に出てくるときは、大抵怪盗キッドとしての姿が多く描写されている。そりゃあそうだ、劇場版の華やかさを出す上で、怪盗キッドというキャラクターは非常にそれと相性がいい。
大胆で、華麗で、飄々としていて、常に探偵たちの一歩先を読むスマートさ。そういう面がこれまでの映画でプッシュされがちだったのに対して、今回の劇場版では怪盗キッドと言うよりも黒羽快斗(キッドの本名)の方に焦点が当てられている気がした。
それは例えば銃弾に倒れた中森警部の姿に動揺を見せる姿だったり、そんな警部を心配そうに見つめる幼馴染の青子ちゃんを陰からそっと見守る姿によく表れていたと思う。
他にも、序盤の平次とのバトルシーンや中盤の謎の剣士に襲われるシーンでは苦戦を強いられている姿が多く見られ、一芸を極めた相手では流石のキッドも分が悪くなる事実がしっかり描写されていたこと。
中森警部に変装して敵のアジトに乗り込むも、一瞬で正体を看破されてしまうシーンや、沖田君に変装するシーンでは不自然な京都弁を話していたりと、キッドの不完全さが強く押し出されているように感じ、そういえば怪盗キッドは一介の高校生に過ぎないんだと、あえてこちらにそう思わせるような描写が多いように感じた。
これまでも劇場版でキッドが苦戦する様子が見られなかったわけではないのだが、それもあくまでキッドとしての苦戦であって、黒羽快斗を思わせるまではなかったと思う。そういう等身大さが劇場版で描かれているのは新鮮で良かった。

と、良き面として感じたのはこれくらいだろうか。細かいところを挙げていけば松岡さんの声良すぎ等々いくらでもあるので後述するとして、今回は明らかに引っ掛かりを覚えるシーンの方が多かった。

なんとは言っても、詰め込み過ぎだ。
先ほども書いたが、本当にキャラクターが多くそれに合わせてシーンの切り替えや話の展開なども次々起こるので、今何が起こってどの人物がどうしてその行動をしているのかがとても掴み辛い。

怪盗キッド、剣道大会、殺人事件、トレジャーハント、平次の告白、それを邪魔する紅葉、謎の巫女、多すぎ多すぎ。
ただでさえ多いこれらの要素があれやこれやと次々展開されていくので、その流れにあたふたしたまま気づけば映画が終わっていたが、正直何が起こっていたのかは7割くらいしか掴めていない。群像劇がやりたいのはわかるが、もう少し引き算をしても良かったと思うし、別々に展開させていた要素の絡ませ方もあんまり上手ではなかった。キッドと平次の要素も殺人事件とトレジャーハントの要素も、もっと上手く関わらせることができたと思うのだが、そこの回収の仕方があまりに薄っすらとし過ぎていたのも、ストーリーについていけない要因の一つだったように思う。

あと少年探偵団の登場は流石にいきなりすぎた。制作側に、阿笠博士のクイズをコナン映画になくてはならない要素であるんだと信じて疑わない阿笠フリークがいるのではないか。
ダジャレクイズなら平次でも出題できそうなもんだが。
突然の少年探偵団の理由は、宝探しのために床面ガラス張りの気球が欲しかった、という答え合わせは一応されているのだが、その役割もどうせなら空を飛べるキッドにやらせればいいのに、と思ってしまう。高度の調整が難しいみたいな細かい問題を加味してもあの役割はキッドで良かった。その時のキッドは戦闘に加勢していたのだが、そこの戦力も十分すぎるほどに足りていたので、あの場にキッドがいなくても別に問題はなさそうだった。

それに気球のシーンも、わざわざ博士を呼んで大掛かりな仕掛けを用意していただけあってギミックはとても良かったのだが、色々曖昧過ぎやしなかっただろうか。大体指4本分とか、剣の長さは大体これくらいとか、気球から函館山を照らすのもライトを持つ高さや角度でかなり変わってきそうだしで、高度の調整などはミリ単位の調整をしていたのに、そこから先が曖昧過ぎて、細かい部分で引っかかりを覚えることが多すぎた。
大体あんな気球勝手に飛ばしていいのかとか、あんな光度の強すぎるライトを勝手に照射していいのかとか、演出面が少し雑だったように感じた。

そんな曖昧なシーンのためにわざわざ少年探偵団を呼びつけるくらいなら、紅葉ちゃんが担っていた北海道観光の役割を少年探偵団に押し付ければ良かったと思う。北海道旅行に勤しむ少年探偵団を、最後のお宝の隠し場所が明かされるシーンで呼ぶ、これが一番おさまりが良い。それくらい紅葉ちゃんの必要性があんまり感じられなかったのが良くない。観光担当以外の役割で言えば、逃走する犯人の目眩しと平次の告白の阻止及びオチ作りくらいしか見られなかったので、紅葉ちゃんを出す理由があんまり感じられなかった。ああ宝探しの謎を解く句集のヒントを出したのは彼女だったか。まあその役割も別に他の誰かで良かった気はするが。
ただ理由なんて一つしかないんだろうな、平次君をわがものにするため、それだけが彼女の行動理念なのだ。恋する乙女に理由を求める方が野暮なのかもしれない。

まだまだあるぞ。ラストシーンで、平次は爆弾を抱えて函館山に突っ込もうとしているプロペラ機の上で犯人と剣を交えていて、コナンは函館山に先回りしてトレジャーハントを目論む悪役を倒し犯人を言い当てていたが、ここの役割も逆でよかったのではないかと思う。
確かに、プロペラ機の上での決闘ができるのは剣道の優れた才能を持つ平次だけだろうし、そこからパラシュートで函館山に現れる平次、と言う映像のためにも映画で見られたもので良かったとは思うのだが、平次はプロペラ機の操作に関しての知識が皆無だった。そんな奴がプロペラ機に乗り込んで犯人を倒したとしても、操作がわからなければ括りつけた爆弾を処理することもできなければ安全に着地することもできないではないか、
平次がとても豪運だったおかげで、適当なボタンを押せば爆弾のホールドを解除できたし、落とした爆弾も運よく海の上に落ちてくれたし、運よくパラシュートで脱出して、プロペラ機の特攻に巻き込まれることもなかった。
ただ運がいいだけじゃないか。函館山で絶対に和葉との決着をつけてやると言っていた割には行き当たりばったり過ぎる。
これが新一、と言うかコナンであれば、過去におやじにハワイで習ったんだの常套句と共に、プロペラ機を操縦できる素振りを見せていたこともあって、行き当たりばったり感は薄れていただろう。犯人だってわざわざ剣を交えなくとも、一本麻酔針を指してやればいいだけなのだ。

一方で、函館山に回ったコナンの役割は平次の方が合っていると思った。ここでは剣に関する知識で犯人を言い当てていたシーンが見られたが、その役割は剣道をやっている平次ととっ変えても何ら問題はないと思うし、犯人を言い当てた後で、辛うじて意識が残っていた悪役が最後の抵抗をしようとしていたのを制圧する役割も他人に奪われていたので、そこも体格と戦闘スキルを持った平次の方がうってつけだったのではないかと思う。
キャラクターを見せるのは上手かったが、キャラクターの行動に必然性があまり感じられなかったのが良くなかった。

トレジャーハントの描写も所々思うところはあった。
まず色々な様子が後出しすぎる。突然暗号が出てきたかと思ったらよくわからない句集の話をされて、良くわからない神社の良くわからないけどかわいい巫女が出てきて、良くわからない地図が出てきて。謎を解くと言うよりは後から出てきた情報を整理しているだけでは?と思ってしまった。

トレジャーハントを目論む悪役も悪役で、あまりに無茶をやり過ぎていた。大昔の兵器、と言う程度の曖昧な情報だけで、あんなに街中で銃をぶっ放したり人質を取ったり町中に爆弾を仕掛けたり狙撃でライバルを消すようなことをするだろうか。よしんばしたとして、それに対して警察は何をしているんだ。仮にも街中で発砲したような集団をみすみす逃して、というか追いかける素振りすら見せずに、人質を取られたと思ったらせっかく犯人から電話がかかってきているのに逆探知をするようなこともなく。道警を無能に見せたいのだろうか。あんな無茶苦茶すぎる集団、コナンにどうこうさせる前に警察が何とかすべきではないだろうか。
たった一件の殺人事件に追われて大学生を疑っている暇があったら、あのトンデモ犯罪集団に対しての捜査本部を立ち上げるべきだ。
ラストシーンで、人生をかけて宝を追いかけてきた犯人が、お宝の正体に肩を落とす、と言うシーンがあったのだがここもよくわからなかった。
その犯人は、過去親しくしていた人物の意志を引き継いで長い時間をかけて宝を探していたはずなのだが、その宝の正体が期待外れのものだったとして、そこにショックを受けるだろうか。
(少しややこしいのだが、ここで言う犯人は殺人事件の犯人で、悪役とはとお宝を渇望するギャングのボスのことを指している)
宝は大昔の強大な兵器であることだけ明かされており、悪役の方はその兵器を手に入れて海外に売りさばくことを目的としていたため、その悪役が肩を落とすならわかるのだが、犯人が価値を感じていたのは兵器のパワーではなく宝を探し出すことそのものだと思っていたので、そのお宝が期待外れだったからと酷く落ち込む犯人、と言うのは少々面食らってしまった。
そう言うのって追いかける過程に魅入られているもんなんじゃないのか。今敏監督の千年女優と言う映画でも「私、あの人を追いかけている私が好きなんだもの」という象徴的な言葉が出てくるが、そういう追い求める過程に発生するロマンみたいなものに惹かれていたのが犯人なのではないかと思っていたところに、終盤の大切なシーンでデカすぎる解釈違いをぶつけられたのは流石に予想外だった。


気になることは他にもまだまだあるが、キリがないのでこの辺でやめる。これだけ違和感にまみれていても、キャラクター描写と実際にある土地を上手く生かした大規模な地理トリックのおかげで、全体の評価としてはとても面白かった、になってしまうのがコナン映画の強さだよなぁと思う。これだけグチグチあれがダメこれがダメとは言っているが、この映画はとても面白かった。それだけは間違いがない。
ただ作画が微妙に安定していなかったのはとても気になったな。
アニメを見過ぎたせいで自分の目が肥えたからかと思ったが、例ねんと比較しても明らかに質が下がっている気がした。
博士とか結構酷かったし、何ならラストシーンの大事なところでもちょくちょくあらあら……となる映像は少なくなかった。
コナン映画なんていくらでも予算を回収できるんだから、そこだけはちゃんとしていただきたい。
とにかく、とても面白かった。ストーリーをちゃんと把握するためにも、また劇場に見に行きたい。

以下、書き漏らした小ネタをば……

・少年探偵団が北海道に到着した際に、コナンが「用があるのは阿笠博士だけなんだけどなw」みたいなことを言っていて、お前去年の劇場版で哀ちゃんとどんなやり取りをしたか忘れたんかと詰めたくなった。コナン、と言うか新一は基本的にデリカシーに欠けていると思う。

・映画序盤、剣道大会が終わって函館の観光をしようとなった時に、どこからかサイレンが聞こえてきた。なにかあったのかなぁと訝しむ蘭。そしてコナンが呟く「行ってみよっか」。
事件現場は観光スポットではない。

・ラストのラストまで、新一の両親をわざわざ出してただくしゃみをさせるだけなのか、贅沢なことするなぁ……と思っていたのが、ラストシーン一発で回収されてしまった。
そんなこと劇場版で明かしていいものなのかね。これを監督が青山先生に無断でやっていたら面白い。親族ifだ。
キッドと新一の顔と声が似すぎている、という設定をこの作品は便利に使いすぎだよなぁと映画を見ながら思っていたが、そう思わせるよう作られていたのなら納得がいく。わざわざその二人に顔が似ている沖田君を出してキッドに変装させたのも、ラストシーンの衝撃を高めるための助走だったのかなと、今になって思う。
最後に黒羽盗一(名前に盗むって入ってるのヤバすぎ)を出してきたところで、キッドの不完全さをやたらと演出していたのは父親との対比の意味もあったのか!と膝を打ってしまった。

・あの巫女さん、役割こそ少なかったがキャラデザめちゃくちゃ良かったな……コナン世界には珍しいタイプの見た目をしていたが、短い出演時間でいかに視聴者の印象に残せるかを考えた末の彼女なのであれば、自分はその術中に完全にはまってしまっている。

・函館、行きたい。

・そういえば大泉さんも松岡さんも北海道の人だったなと思い出す。かなり舞台である函館及び北海道がフィーチャーされているように感じるが、だからこそ五稜郭を爆破することができなかったのかな、と思ったり。まあ無理に爆発を挟む必要はないんですけどね。

・今年はらぁぁぁぁん!じゃなくてかずはぁぁぁぁぁぁぁぁだったな。

・函館山に特攻しようとしていたイケメンがプロペラ機の中で眺めていた写真に写る母親の姿が和葉ちゃんにとても良く似ていて、ゾロリだ……と思った。
母親の影を追い求めてしまう彼と、父親の影を追い求めて函館までやって来て剣を6本も盗みだすことで父親の真意を探っていた怪盗キッド。
彼らはどこか似ているのかもしれない。

・中森警部声変わってたよね?自分の気のせいだろうか。

調べた、そうだ前は石塚運昇さんだった。
紺青の拳から変わっていたらしいが、石塚さんが亡くなったのってもうそんな前のことになるのか。

・殺人事件の方の謎を追っていた際に、容疑者のイケメンが使っていた剣を鞘にしまう時の音がおかしいと気付いた和葉ちゃんの言葉で、イケメンの容疑が晴れたシーンがあった。
和葉ちゃんの耳がいい描写はから紅の恋歌を思わせてとても良かったし、なによりそれだけ優れた耳を持つ彼女が、閃光弾が降って来た時に真っ先に平次の耳をかばったのが本当に良かった。その閃光弾のせいで平次の告白は失敗したわけだが、それでもあの描写は悪いもんじゃなかった。寧ろ耳がいい和葉ちゃんだからこそ本当は聞こえていて……みたいな展開があるんじゃないかと、一人で勝手にワクワクしている。


・来年の主題歌アーティスト予想。
official髭男dism












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