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劇場版 SPY×FAMILY CODE: White

ネタバレだらけです。






すごい映画だったな。SPY×FAMILYの映画として完璧すぎて一切の隙がない。自分はこの映画をとても楽しんで見られたが、もしかするとそうでない人もいたかもしれない。しかしこの映画を楽しめなかった人でも、この映画の完成度の高さには大いに同意してくれると思う。それくらいに完璧な映画だった。

まず思ったのは緊迫したシーンが来るまでの時間が長いことだ。この映画の終盤では敵に捉えられ飛行戦に乗せられてしまったアーニャをロイドとヨルさんが助けに行く展開が見られ、これがこの映画で言う山場だと思う。

そんな大きな山場を、アクションシーンもシリアスシーンもいくらでも挟めそうなメインディッシュをすぐに提供してくるような映画でなかったからこそ、この映画のSPY×FAMILYの劇場版としての完成度は非常に高くなっていたと思う。映画の盛り上がりを考えるのであれば映画序盤でアーニャが攫われ、それをロイドとヨルさんが互いの正体を悟られないようギクシャクしながらなんとか救い出す、みたいな展開をしていればそれで良いはずなのだが、この映画の序盤から中盤にかけてはなんてことのない家族旅行の様子をしっかりと描いて、それを描き切ってから山場のシーンに向かっていく構成になっていたのがすごかった。せっかくの劇場版なのだからアニメシリーズや原作本編で描かれることのないシリアスシーンやアクションシーンを入れたい気持ちをグッと抑えて、正体を隠した3人が、ぎこちなくそれでも温かい家族を演じている、そんなSPY×FAMILYの根本的な面白さを忘れずにしっかり見せてくれたのがとても良かった。

この日常パートもまた良かった。やっぱり自分がSPY×FAMILYに求めていた、三者三様の様々な想いが交差したままそれでも進んでいく日常パートの面白さが存分に見られたのが本当に嬉しかったな。

日常パートの説得力がすごく好きだった。
次々と起こる一幕に必ず意味が与えられているのが本当に丁寧で良い。
ミッションから外されることを危惧したロイドがステラ獲得に普段以上の意欲を見せることで、かなりの遠方まで旅に出る理由だったり、食材集めという一見どうでも良さそうなミッションを中心に話が展開される意味だったりがよく説明されていると思うし、浮気を疑うヨルさんの曖昧な心持ちを描写することで普段以上に挙動が不審なヨルさんのコミカルな様子を説得力を持って楽しめるし、アーニャが事件に巻き込まれるまでの流れもとても自然でとにかく無理矢理感がない。どんな展開にも必ず納得のいく理由が用意されていてかつこちらにわかりやすく伝えてくれるのが本当に嬉しかった。

またしっかりと家族のすれ違いが描かれていたのもとても良かったと思う。ミッションに躍起になりすぎるあまり本来の目的であったはずの家族旅行を疎かにしてしまっていたロイドに、まっすぐ自分の寂しさを伝え、それが届かず落ち込んでしまうアーニャ、そんなアーニャの様子を見て優しくロイドを諭すヨルさん。
そもそもロイドがこれだけ食材探しに躍起になっているのは、元をたどればオペレーション梟の成功のためであるはずなのだが、躍起になりすぎるあまりそんな本来の目的であったはずのミッションに、偽物の一家として過ごしていく日々に目を向けられなくなっているあたりが、ロイドと言うキャラの不完全性を思わせて、完璧であるはずの彼が見せるそんなギャップが、アーニャとヨルさんと言う二人の家族を通して見られるのがとても良かった。

ここで描かれていることは、本当の家族においてもよく見られる光景なのだ。家族のために仕事をしてお金を稼いでいる親が、本来手段であったはずの仕事にばかり目を向けてしまって、本来の目的である家族を見失ってしまう。そんな何回聞いたか分からない家族のすれ違いが、始まりこそ、バックグラウンドこそ偽物であったはずのフォージャー一家で発生しているのがまた良い。
そしてヨルさんがロイドに一緒に行きませんかと提案してくれたのがまたとても嬉しかった。以前のヨルさんであれば他人のご家庭に口を挟むのは申し訳ない、なんて言っていたと思うのだが、彼女は彼女にしかできないやり方でアーニャの目線を理解して、彼女にしかできないやり方でロイドを説得したのだ。彼女がちゃんとフォージャー一家としての自分を自覚しつつあるのが本当に嬉しかった。

そして話は進み、シーンは飛行船へと移る。
ここから少しおや?と思ったポイントが増えていくのだが、まあそれは後後語るとして。
飛行船パートで一番印象に残っているのは、やはりトイレの神様だろう。

まさかあれだけ素晴らしい出来の日常パートを用意して、SPY×FAMILYの本来の良さを見せてくれた上で、しっかりと子供に向けた要素やシーンをこれまたとても納得のいく形で見せてくれるとは。本当にすごいと思う。
排便、ただそれだけの行為にいったいどれだけの意味があの映画では込められていただろうか。

コミカルさからストーリーの根幹に至るまで、排便たった一つでギャグにもシリアスにも違和感なく繋げていたのは本当にすごい。この映画の脚本、始まりに排便が中心にあったのではないかと思うほど、排便の扱い方が完璧だった。

敵との戦闘パートでも、先ほどしっかりと描かれていた日常パートで散りばめられていた要素が所々顔を覗かせるのがまた良かったし、そこからラストの大アクションに繋げる流れはもはやコナン映画の様式美だ。
流れがとにかく美しい。

褒めてばかりでもしょうがないので気になったところも書いてみようか。

まずはやっぱり、ヨルさんと戦っていたサイボーグマンみたいなやつの登場があまりに突然すぎることだろう。
何の脈絡もなく出てきたな、何だったんだあいつ。強いし。もう少しほんのちょっとでも存在を匂わすことはできたんじゃないかなーとは思った。

あともっと根本的なことを言うのであれば、捕らえられたアーニャを助けに行く際、ロイドはヨルさんにアーニャは軍に保護されたと嘘をついていたのだが、それをただの精神科医(ヨルさんから見たロイド)がなぜプロペラ機で迎えに行くのか。また、ただの市役所勤め(ヨルさんから見たロイド)であるはずのヨルさんが、離陸するプロペラ機に捕ってついてきちゃった、とロイドに言うのはいささか無理がないか。
そう、家族3人での共闘を描くための言い訳が少し足りていなかった気がするのだ。でも難しいんだよな、違和感なくこの3人を同時に、同じ場所で活躍させるの。想像しただけで素人の自分でもその大変さがわかる。
そこはまあ、嘘をついている者同士あまり相手を追及できなかったんだろうな、と考えることにした。

あとは飛行船を着陸、と言うか着水か、させる時に出てきた湖、あれもかなり突然だった気がする。日常パートで湖に関する言及や描写はなかったと思うのだが、あれも少しくらい匂わせておくことはできたんじゃないかなと思った。ただ自分の記憶はかなり曖昧なので、もしかすると湖のことはちゃんと劇中で言及されていたかもしれないが。そうだったらごめんなさい。

あとこれは気になったというよりもしかしたらそうかも?と思ったことなのだが、フランキーが口説こうとしていた女性と、ラストシーンでロイドの代わりにオペレーション梟を任されようとしていた男性のスキャンダルの相手として写真に写っていた女性が同一人物に見えた。
のだが多分全然違う人だろうな。フランキーがその人のことを知らないとは考えにくいし。

気になったことも多々ありつつしかし全体を振り返ってみればそんなのは気にならないくらいにとにかく完璧だった。本当に面白かった。

そういえば映画ラストで次は○○に行こう!みたいなことを言っていたのは、劇場版2作目の合図なのだろうか。1作目がこれだとなかなかハードルが上がってしまったような気もするが、どうなることやら。

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