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劇場版 ポールプリンセス

ネタバレしかないです。

見に行った。新宿バルト9に見に行った。
申し訳ないことにアニメシリーズには目を通せておらず、見に行く予定もなかったのだが、Twitterでこの作品の話をしている人たちの熱量がやけに高いのが気になり、とうとう劇場に足を運ぶまでに至ってしまった。

全体的な感想としては、密度がすごかった。
まずアニメシリーズに目を通していない自分でもそこまで問題なく楽しめたので、描写不足はそこまで感じなかった。登場する主なキャラは8人と多めではあったが、割とどのキャラもしっかり印象に残っている。
また凄いのが、上映時間の短さだ。60分と映画で考えると大分短めの尺の中で主人公たち4人の人となりや成長に加えて豊富なポールダンスのシーンまで描き切っているのが凄い。60分の上映時間を1秒たりとも無駄にしないぞという強い意志が感じられた。

そのためドラマパートのスピード感はすごかった。
アニメを踏まえての劇場版ということで、主人公と同じチームに所属している3人や先生は最初から登場するし、関係性もある程度は出来上がっていたので、0からすべてを劇場版の中で描ききる必要はなかったにせよ、しかしダブルスとしてコンビを組む二人の衝突に主人公のほの暗い過去に主人公たち4人が大会を目指していく様子をあの尺の中に詰め込むのは非常に大変だろうなぁと思った。
1クールアニメであれば数話かけて描かれているであろう衝突から成長までが5,6分で次々通り過ぎていく。山場が出てきたと思ったらあっという間に解決して、また出てきたと思ったら解決して、このスピード感は他ではなかなか見られないだろう。
なんなら大会の予選パートは1秒も出てこなかった。あれだけ予選首位突破目指して頑張るぞ!を掲げて練習パートが描かれてきて、さあ予選だ!と意気込んでいたら次に画面に映ったのはカンパーイ!!と5つのグラスが突き合わされるシーンだったので、少し拍子抜けしてしまった。
そんなスピード感に最初は少し戸惑っていたのだが、しかし映画後半に差し掛かって描かれる大会のシーン、ここでこれまでの駆け足の理由が分かった気がする。
ここから描かれるポールダンスのシーン、これが本当に良かったし本当にバリエーションが豊かだった。

大会では各チームごとにダブルスの演技が一つ、シングルスの演技が二つの合わせて三つのポールダンスが披露される。
主に描かれていたチームとしては、主人公チームとそのライバルであり相当な実力者として描かれる優勝候補のチームの二種類だったため、作中で描かれていたダンスは六つ、そのすべてがフル尺で描かれており、ああこれをすべて見せるためにドラマパートのあの速度があったのかと納得してしまった。

この六つがどれも違った方向性で、またストーリーの中で持つ意味みたいなものがはっきり示されていたのがとても良かったと思う。

最初に描かれたのはライバルチームのダブルスの演技だった。
視聴者としてはこれが初めてのポールダンスシーンとなるため、とても重要なシーンになるわけだが、最初に見せるものとして実力者の、それも二人の人間が一本のポールを使って複雑にダンスの掛け合いをしていく様は、とても分かりやすく見応えがあって、これを劇中最初のポールダンスとして見せてくるのは非常に上手いなと思った。
と言うかポールダンス、すごすぎない?あれはアニメ的表現故のすごさなのか現実のそれもあんなにすごいのか、そこの判断はつかないのだが、腕と足の力だけであんなに重力を無視した動きを見せられるものなのかと圧倒されてしまった。
加えてダブルスの演技というのがまたすごい。二人の人間が文字通り絡み合っていてすごい。演技面でも安全面でも一つのミスも許されないあの繊細さがあって、複雑に絡み合う二人の体全てを使った派手で見ごたえのあるパフォーマンスは一発でこちらをポールダンスの魅力を分からせるパワーを持っていたと思う。

その後に実力者チームのシングルス演技が二つ描かれるのだが、この二つもまた迫力がすごかった。炎の剣を振り回したり、なんかブンブン回っていたり、実力に説得力を持たせるための見応えが詰まっていて本当に良い。

そして描かれる主人公たちの演技。
これまでが優勝候補チームの圧倒的な実力を見せるような演技だったのに対して、ここでは主人公たち四人がそのダンスをすることで生まれる意味、みたいなものが詰まっている演技だったように感じた。
衝突を乗り越えて、過去のトラウマも二人の手を掴み合うことで振り切っていく、そんなドラマの詰まったダブルスの演技に、大好きな衣装制作を大きな強みとして、ダンスの世界観を作り上げためにいかんなく発揮していたシングルス演技に、そしてそんな仲間たちの力で捉われていた暗い過去から脱却していく主人公のシングルス演技。
込められていた意味もすごかったが、加えて見応えもまた十分にあったので満足感が非常に高かった。
ポールダンスの魅力として無重力性があるな、とここまでの演技を見ていて思ったのだが、この劇場版の前日譚として描かれていたらしい、プラネタリウムを会場として披露された演技がおそらく宇宙をモチーフにすることで無重力性を演出していた一方で、ここでのシングルス演技では水中と大空をモチーフにすることで、それを演出していたのかなと思った。
特にコスプレが好きなキャラの子の人魚姫モチーフの演技は凄く良かったな。本当に水中を優雅に泳いでいるかのような柔らかさが詰まった、派手さの中に優しさを感じるすごく良い演技だったと思う。

というかこの子が本当に良かったな。コスプレが好きで、ダンス衣装の制作も担っているらしい彼女が、自分の好きを最大限に活かして圧倒的な世界観を作り上げているのが本当に良かった。
この子がステージに上がったシーンで、会場にいた女の子が、うわ~、人魚姫だ~、可愛い~みたいなことを言っているシーンがあったのだが、ここが本当に良かった。すごく素朴な良さが彼女にはあったと思う。


全体的に駆け足だったなとは思うが、しかしポールダンスのシーンが本当に良かったので、これを見せるためならしょうがないかと許せる、そんな映画だった。

アニメ版も一話7分と結構短めらしいので見たい。

あと、途中までは普通に都内のどこかが舞台になっているのかなと思っていたら、予選当たりのシーンで九州大会の文字が出てきて非常に驚いた。言われてみれば、ライバルチームのライブを配信で見ていたりと要素は散りばめられていたのかもしれないが、やはり何も言われない限りは自然と首都圏での話だと錯覚してしまうなと思った。クレジットで見る限り舞台は熊本の八代らしいが、あのポールがたくさん生えた公演も実在するのだろうか。
あるのなら確かめに行きたいな。

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