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好きでも嫌いなあまのじゃく

見た。以下の文章にはネタバレしかない。





自分はロードムービーがかなり好きだ。旅行が好きなので、アニメーションとして切り取られた他人の旅行を覗き見られるのは素晴らしい。特にここ最近のアニメ映画の画面の綺麗さというのは、これがデフォルトになってしまうのは大変だろうなと同情すら湧くほどに高いレベルが求められがちだ。そんな視聴者の目線を意識してとても綺麗に切り取られた旅先の風景を見られることに、自分がロードムービーを好む理由は詰まっている。

この映画も主人公と鬼の女の子が山形県内を歩き回る様子が描かわれていたわけだが、この作品の風景の切り取り方はかなり独特だったように感じた。
山形という制約があったからなのかはわからないが、切り取られる風景が限りなく地味なのだ。
名の付いた観光名所や特徴的な建造物が多く出てくるわけではなく、街の中の公園、高架下、神社等々、田舎にある、日常の中のとても些細な非日常の風景を切り取っているのが本当に良かった。

この作品に登場した場所を巡ろうとしたら、その道程はかなり地味なものになるだろう。アニメ映画のフィルターを通さなければあまり目を向けられることのない場所や風景が様々登場する前半のロードムービーパートはとても自分好みだった。
住人にとっては当たり前すぎる、旅人にとっては殺風景すぎる、けれど確かにそこにある風景を大切にして見せてくれた点ではかなり高く評価できる作品だ。
後半の隠(←これで”なばり”と読むらしい。すごい)の里パートも建物はかなり素晴らしかったと思う。雪山の奥の奥、人里離れた、けれど文明がしっかり築き上げられているあの独特で魅力的な世界観は素晴らしかった。確か中国の方にあんな感じの歴史的な集落があったような気がするが、それがとても魅力的に描かれていたのもとっても良かった。
全体的に映像は素晴らしかったと思う。

思うが、お話の方にイマイチついていけなかったのが残念だ。
なんというか、序盤のロードムービーパートは目的がわかりづらく、敵である雪の神の正体もイマイチよくわからないし、隠の里に着いてからも終盤の展開に関してもわからない部分があまりに多すぎた。
これは自分の理解度の問題でもあるとは思うが、それにしても難しかった。神社に行けばお母さんに会えるかもしれないとヒロインは語っていたわけだがその情報にヒロイン自身がどのくらいの確度を持っているのかがイマイチ掴み辛かった。
自分はダメ元くらいに捉えているんだと思っていたのだけど、いざ神社に到着して母親がいないことを知った彼女が失望を強く露わにしていたのを見て拍子抜けしてしまった。拍子抜けというか、拍子抜けの逆だ。そんな本気で母親探してたんかい、という予想外を食らった。
その後の主人公とヒロインの衝突もなんだか唐突過ぎるように感じたし、主人公の父親やヒロインの父親といったキャラがストーリーに上手く絡んでいるようにまったく思えない。
ヒロインたちの隠の里を助けなければいけない、というのと、主人公たちの親子でしっかり話をしなければいけない、の二軸を見せたいのはわかるが、それら二つのマリアージュが感じられないというか、この二軸が完全に独立して二つ進んでいるように見えてならないのだ。

雪の神もそうだ。どうして主人公やヒロインに襲い掛かってくるのか、そもそもなんなのか、どうすれば退治できるのか、それが全く分からない。
分からないのに襲ってくるし、分からないから気持ちよくやっつけられるわけでもないし、分からないのに最後のなんか雰囲気善さげなシーンで消えていくしで、最後まで分からなさすぎた。

終盤の、ヒロインが鬼ヶ島という場所に行こうとしているシーンもそうだ。

ヒロインの行動理念がわからない、あらゆる展開が唐突過ぎてわからない、主人公たちの旅を踏まえて語られるメッセージも、ヒロインの母親が復活した理由も突然雪崩が起こった理由も主人公がヒロインを見つけられた理由も雪の神が消滅した理由も、分からないことをあげていけばキリがない。
ヒロインが母親と再び出会う、の一連の流れに必然が一切ないのが話についていけなかった大きな要因だと思う。
特にヒロインの母親回りの描写はそれが顕著だった。
ヒロインが母親の過去を知り、母親を許し、見つけ、抱き合い、一度離れ、雪崩に巻き込まれ、主人公に発見され、空から降ってきて、そしてまた母親と再会する。
なぜ?どうして?わからない。ただ展開だけが続いていく。

ラストシーンで主人公やヒロインから語られていたメッセージも、ありきたりとまでは言わないがこれまでの主人公たちの苦難を見届けてきた割りにまったく響いてこないし、感動的なお別れをしたはずの主人公たちはなんだかんだして結局また再開して結局イチャイチャしているしで、結局何がしたかったのかが最後まで分からなかった。

ストーリーがわからないのならせめて映像にもう少し見どころを作ってほしかった。先ほど大絶賛した日常の風景の切り取りは、どうしても映画の加点要素で止まってしまって、映画の面白さの根幹に関わるような見ごたえのある映像くらいあればまだ退屈はしなかっただろうなと思う。

とにかくストーリーに全くついていけなかった。ストーリーについていけないとキャラクターへの愛着もあまり湧かないもので、この映画を見終わった今の気持ちとして一番にあるのは山形に行きたい、ということくらいだろうか。用意した舞台はあれほど魅力的だったのになんだかもったいない映画だったな。

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