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名探偵コナン 黒鉄の魚影

隅から隅までネタバレしかないです。







言いたいことしかない。良きも悪きも。賛否両論を一人の脳内で巻き起こしてしまっている、なんだこの映画は。
自分はこの映画を見るにあたって少し挑戦をした。映画の前情報を一切頭に入れずに劇場に行くことだ。
一年前のハロウィンの花嫁の1番最後のプチ予告ムービーを見ないところから始まり今日までできる限りコナン映画の情報をシャットアウトし、そして劇場に向かった。
そのためほとんどの要素を映画が進むのに合わせて初めて知ることになるので、その分人よりもこの映画の評価が高まってしまっているかもしれない。悪しからず。


序盤はめちゃめちゃテンポがいいなと思った。体感だと開始五分も経たずにコナン達が八丈島に上陸していた気がする。
ホエールウォッチングを純粋に楽しむ哀ちゃんが可愛いとか警察の船に勝手に忍び込むコナンが凄すぎるとか色々ありつつ舞台はパシフィックブイに映りまず思ったのはやたら声優が豪華だなということだ。
この映画だけの出演であろう3人のエンジニアのキャラに神谷さんと諏訪部さんとあと女性が1人。コナン映画で有名な声優さんの声を聴くのはかなり珍しい気がする。
今後の展開でどうしても彼らの声が当てたくなった時どうするんだとは思ったが、その後のキールの回想シーンで小五郎ではないキャラに小山さんが声を当てていたので、そういう被りは気にしないのかもしれない。

そして1人、フランス出身のエンジニア女性の声優さんがしばらくわからなかった。男性2人は一聴でわかったのだが女性だけは聞き覚えがあることしか分からずこの人だ!と断定するまでにはかなり時間がかかった。ただ確実に聞き覚えがある、沢城さんかなとも思ったがイマイチぴんと来ない。

この豪華な顔ぶれには驚いたが、この驚きは自分が事前情報を入れていないからだろうなと思っていた。神谷さん諏訪部さんが出演されることは予め発表されているんだろうなと思っていたらどうやらその情報は世に出ていないらしい。先ほど述べた女性の声優さんも発表されていなかったのだが、これら声優さんの出演発表しない理由は今ならはっきりとわかる、ネタバレになってしまうからだ。


今回の映画は犯人が割とわかりやすかった。まあ前述のフランス出身の女性エンジニアの人なんですけどね。
コナンが指で2を作るところとか、カップの飲み口を拭う仕草とか、ここが大事ですよ!という場面がやけに印象に残っていたので多分わかりやすいよう作られていたんだと思う。

また黒の組織のメンバーであるピンガについて、やけに性別が強調されているのが気になっていた。ジンがピンガを野郎と呼んだシーンだったり、序盤でピンガの名前を聞いたコナンが、黒の組織で蒸留酒の名前を持つメンバーは皆男性という法則についてわざわざ言及していたりと、ピンガは男である、という意識づけがやたら多かったので、これも犯人を特定するのにかなり役立った。
それだけピンガ=男のミスリードを誘ってくるということは、犯人及びピンガの正体は女性の姿をしている人物なんじゃないかと思ったのだ。
大分分かりやすかったので逆にトラップかとも思ったが、自分の中で犯人を確定させたのはこの女性エンジニアの声優さんの正体に気づいた時だった。

ピンガは男である、そして今は女性エンジニアのふりをしている。同一人物であるが性別が異なるということは声をどうするかが問題になってくるだろう。ピンガの時と女性エンジニアの時でそれぞれ別の声優さんに声を当ててもらうというのが妥当だが、もしそうでない場合一人の人物が男性の状態でも女性の状態でも声を当てていることになる。そんなことができる人物に自分は一人しか心当たりがなく、もしやこの女性エンジニアの声優さんは村瀬歩さんなのではないかと思い至った。

そう思い女性の声を改めて聞くと確かに村瀬さんだ、凄い、これに気づいた時が一番鳥肌が立ったかもしれない。
そして村瀬さんがわざわざ女性役に起用されているのであれば彼女の正体がピンガであることは間違いなく、そうして自分は犯人を確定させた。凄い方向から事件を解決してしまった、声オタ探偵だ。

そして事前に村瀬さんの出演が発表されていなかった理由も分かる、男性声も女性声も出せる村瀬さんの出演は犯人の正体のネタバレに繋がるだろう。


ウォッカについて、というか黒の組織について。
漆黒の追跡者の時の黒の組織はどこに行ったのか、今回の黒の組織は全体的にまったく怖くなかった。
まずさんざん言われているが裏切者が多すぎる。
今回主に出ていたメンバーで言うとジンウォッカバーボンベルモットキールピンガだが、バーボンはコナンに情報を流しキールは攫われた哀ちゃんの脱出のため尽力しベルモットは哀ちゃんの日常を守るためわざわざ変装までして監視カメラに映る。実に半分がコナンサイドに立っているではないか。

残ったジンウォッカピンガだが、ピンガは蘭姉ちゃんにも碌に勝てず小物感が凄くウォッカはあまりに無能で、ジンの心労を思うだけで胸が痛くなってくる。なんでジンはいつまでもウォッカを近くに置いてるんだ。

ウォッカが本当に酷い。哀ちゃんがキールに盗聴器を仕掛けることに気づかず、キールが哀ちゃんを簡単な縛り方で縛っているのにも気づかず、人質も仕留めきれず、キールのわかりやすい演技に騙されて人質に情報をダラダラ流し、脱出目前の哀ちゃんを殺そうとするジンを制止するキールに同調し逃げられ、こいつは2時間でどれだけミスをするんだと開いた口が塞がらない。もしかしてウォッカも組織を裏切っているのかと思うほど、むしろその方が自然に受け入れられるほどには無能だった。
まあ哀ちゃんが生きているのはウォッカが無能だったおかげなので感謝すべきなのだろうが、いい加減ジンもあいつには見切りをつけた方がいいと思う。

黒の組織に哀ちゃんが攫われる→コナンめちゃめちゃ焦る→コナン必死に哀ちゃんを助ける→コナンと哀ちゃんのいい感じのシーンを見せる、の流れをやりたかったのはわかる。わかるのだが、そこの盛り上がりを作るためには哀ちゃんが組織に攫われてから生きて帰還することが必要であり、そのシーンを作るためにウォッカが過剰に無能にさせられていた気がしてならない。
見せたいシーンを作るためにキャラを殺してしまっている、もうウォッカを見て緊迫感を感じられない。

あとピンガがコナンの正体に気づくシーンは必要だったんだろうか。結局ピンガは死んじゃったのでコナンの正体が組織にばれることはなかったのだが、これは別にコナンがどうこうして正体がバレるのを防いだわけでなく、ただただピンガは事故に巻き込まれて死んだだけなのだ。このただコナンの運が良かっただけのシーンは必要だったのだろうか。
というか万が一ピンガが死ななかった場合、コナンが正体を隠し通すのは不可能だったと思う。コナンの正体がバレるのを防ぐ方法はピンガの死しかなくなり、そして案の定ピンガは死んだ。
正直ピンガの死を聞いたコナンには絶対にラッキーの気持ちがあったと思う。犯人を殺す探偵は探偵じゃねぇみたいなことを言っていたが、ではどうやってピンガが正体をバラすのを止めようとしていたのか教えてほしい。無理だろう、口を塞ぐため二度と喋れなくするしかないだろう。
目の上の大たんこぶであったピンガが自分の手を汚すことなく死んでしまいラッキーと思わないわけがないのだ、そしてそんなことをコナンが考えていたのかなと思ってしまうのは本当に良くない。
本当にあのシーンは必要だったのだろうか。

あとベルモットが掴めなさ過ぎる。
哀ちゃんを庇った理由が明かされるラストシーンは普通に鳥肌が立ったし、これまでギャグ調だった映画の締めとはまた違っていいエンディングだったなとは思ったが、そもそも彼女が組織をどうしたいのかがわからないのでどういう目線を向けていいのかがわからない。ミステリアスさが魅力なキャラであることはわかるがミステリアスが過ぎるのもどうなんだ。敵なら敵としてしっかり敵をしてほしい。ロケット団を見習ってくれ。

あと黒の組織の潜水艦にいたスタッフみたいなのは何なんだ。あいつらは自分たちが犯罪者である自覚があるのだろうか、あいつらにはコードネームが与えられているのだろうか、黒の組織の下っ端なんてどこで募集をかけているのか、あのスタッフたちから組織の情報が洩れることを危惧しなくていいのか、当たり前のように出ていたが気になることが多すぎる。潜水艦なんてウォッカにでも操縦させておけばよかったものを。



コナンの劇場版はなるべく本編を進めないよう作られていると思う。新しい要素を出したり新たな関係性を作ったりと映画だけでストーリーを進めるようなことはせず、映画を見ない人でも漫画やアニメを追うだけで問題なくストーリーの流れが把握できるように作られている。そもそも映画で描かれているストーリーが正史なのかどうかも分からない。
その意味で言えば異次元の狙撃手の了解はかなり衝撃的だった。赤井さんの生存を確定させるシーンを映画で出してくるのかという驚き、あのシーンが流れた時、息を飲む音が劇場内に響き渡ったのをよく覚えている。それくらいには衝撃度の強いシーンだった。

そして今回の劇場版でもこのルールは守られるはずなのだが、今回はそのルールが守れていなかったんじゃないかと思った。
あの冷徹で完璧主義の組織が、逃げられた人質が自分たちの思っていたのとは人違いだったからとみすみす逃がしたまま放っておくようなことをするだろうか。ジンなんか一番に哀ちゃんを始末しに行きそうなものだが、期待外れだったことだけが理由で一切手を出そうとしないのは不自然すぎる。
シェリーだとかそうでないとかは関係なく、ウォッカとキールの顔を見た人質をジンの兄貴が放っておくわけがないだろう。
哀ちゃんが攫われた時点で、もう元通りにするにはこの映画の尺で組織を潰すしかないだろと思っていたので、どうやってこの風呂敷の後片付けをするのか期待して見ていたのだが、ただベルモットが頑張ってくれて哀ちゃんとシェリーが同一人物ではないと組織に思わせることができました!では、いやいやそれは通りませんよと言わざるを得ない。
疑わしきは罰するの教えはどうしたんだよジン。思い出せよあの頃の冷徹なお前を。ウォッカに毒されたか。がっかりだよ。

今回のコナン、実は何もしていないんじゃないかと疑念が湧いている。哀ちゃんが脱出できたのは無能なウォッカと有能なキールのおかげ、コナンの正体がバレなかったのは運よくピンガが死んでくれたおかげ、哀ちゃんの日常が戻ってきたのは組織がヌルくなっていたおかげ、撃たれた直美さんのお父さんが生きていたのもお医者さんのおかげ、コナンがやったことと言えば潜水艦を花火で照らして赤井さんのサポートをしたことくらいじゃないだろうか。まあ十分凄いけどさ。黒の組織の不手際がコナンの手柄になっていた感じが否めない。


これまでかなり酷評が続いているが、この映画でも後片付けが上手にされていた箇所はしっかりあった。それが哀ちゃんまわりの描写だ。劇場版で新しく関係性を進めることをしない、というルールを守ろうとしたときに、哀ちゃんに「私たちキスしちゃったのよ」とまで(脳内セリフではあるが)言わせたのは悪手だな、と思っていた。そこまで言わせておいて映画が終われば元通りのコナンと哀ですよは無茶でしょうと、そうは問屋が卸しませんよと思っていたのだが、それをたった一言で、ちゃんと返したわよの一言で、すべてを片付けていった。

凄い。絶対に哀ちゃんの口から出たセリフであり、ほんの一瞬でそれまでのやり取りすべてを無に帰している。カリオストロのあなたの心ですよ同様、このセリフひとつのためにこの映画があるだろと思わされるパワーがあのセリフにはあった。
組織に攫われ死を覚悟したところからコナンに助けられピンチのコナンに人工呼吸をしそれでもこれまでの日常を諦める覚悟していたところにあの優しい笑顔に酸素ボンベを共有しながら手をつないで浮上。この流れから返したわよの言葉を吐ける哀ちゃんが凄すぎて悲しすぎてもうどうにかなりそうだった。
黒の組織周りの後片付けはあんなに下手くそだったのに哀ちゃんまわりだけ嫌に後片付けが上手すぎる。ミステリー要素も組織との対決要素も、哀ちゃん方面に力を入れすぎたせいで他がおろそかになっているんじゃないかと思う。それくらい他を犠牲にしてでも哀ちゃんをメインに据えようという強い意志を感じた。

ただまあ哀ちゃんが好きな人目線で見ればここまでしてもコナンとどうこうなる気配がなさそうな哀ちゃんの様子は辛いだろうし、蘭姉ちゃんが好きな人目線で見れば人工呼吸をキスと捉えた哀ちゃんにわけもわからないままキスされる蘭姉ちゃんの姿はあまり気持ちのいいものではないだろうしで、どちらもそんなに得をしないなとは思った。どちらにも特に肩入れせずそこまで何も考えていない自分みたいな人間が一番楽しめる展開だろう、蘭姉ちゃんと哀ちゃんのキス見れてラッキ~くらいの感想しか抱けなかったが、それでいいのかもしれない。

色々粗は目立ったが哀ちゃんまわりの描写が優秀だったのですべてを許した。また見に行くと思う。あと来年のプチ予告パートも見ていない。来年も初見で映画館に行くんだ。


以下小ネタ。

・蘭姉ちゃんにお姉さんを重ねる哀ちゃん良いよね。
でも自分はおばあさんにブローチを譲った哀ちゃんを褒める園子に少し照れてる哀ちゃんもかなり好きです。

・コナンが佐藤刑事にあの時怒鳴ってごめんねと言ったシーン。緊迫したシーンで急に挟まれたので何か意味があるのかと思ったが、特に何もなくただただコナンが無礼を謝罪しただけだった。
でもそれでいいと思う、それがよかったと思う。
哀ちゃんが攫われたことに焦るコナンが見られたのは良いがそこでかけた迷惑を謝罪するシーンをしっかり入れてくれるのもとても良かった。あの終盤の盛り上がりの中で、哀ちゃんが攫われた時にコナンが佐藤刑事に怒鳴ったことを覚えている人はそこまで多くなかったと思うが、それでもコナンという主人公を描き切ろうとしていたのが感じられとても良い。このシーンを入れようと言った人は信頼できる。

・白鳥刑事、パシフィックブイに目を輝かせすぎていた。刑事にしては無邪気過ぎる。

・種崎さんが凄い、全く気付かなかった。

・博士のクイズの答えがすぐにわかって思いのほか喜んでいる自分に気づいた。昔見ていた時は全く分からなかったのに、自分も成長するんだなぁと感慨深くなってしまった。博士のクイズで成長を実感する日が来るとは。

・赤井さんと安室さんがコードネームで呼び合うところ良かったな。安室さんのコードネームをうっすらとしか覚えていなかったので一瞬ピンとこなかったけど。

・そういえばアポトキシンは飲まなかったな。あれだけ意味ありげに出てきていたのでてっきり飲むもんだと思っていたが。
まあ新一状態で哀ちゃんと絡むわけにもいかないのでそりゃそうかとも思う。それは本当に蘭姉ちゃんサイドからの怒りを買いそうだしあくまで哀ちゃんが感情を向けているのはコナンなわけで、哀ちゃんがメインの映画で新一状態に戻ることがないのも納得だ。

・ディープフェイクそんなに万能か?

・主題歌がスピッツだった。
主題歌の情報も事前に入れなかったので劇場で初めて知ったが、去年のBUMPからそうだが選出が渋めだなと思う。来年はミスチルか?



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