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デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション

タイトルが長い!(以下の文章はネタバレまみれなので気を付けてください)




前章と後章に分かれている映画は初めて見た。自分は前章を見に行くのがだいぶ遅かったおかげで前章から後章を見るまでに2週間程度の期間しか離れていないので良かったが、人によっては一ヵ月のブランクを挟む人もいるのではないかと思うと、1つの映画を2つに分けることの是非を考えてしまう。
ただそれだけの尺をかけたおかげか、後章を見終えた今の作品世界への没入感はひとしおなので、悪いことばかりでもないのかもしれない。いつかこの映画を4時間近く劇場に籠ったままぶっ通しで見てみたい。オムツが必要になるかもしれない。

日常に突如違和感が訪れる作品と言うのは今となってはそう珍しくないだろう。何気ない女子高生の日常が突如訪れた未確認飛行物体によって一変してしまう、みたいな展開は少なからず見覚えがある。ただ、この作品ほど、日常と異常が危うげなバランスのまま共存している作品と言うのは少なくとも自分は初めて味わった。確かに街の上空にはクソデカUFOが常に浮かんでいて、その影響で多くの人が亡くなった事故も発生している。
けれどそれだけなのだ。明らかに異質で異常な光景が広がっていて、それが無視できない規模の実害をもたらしていることも事実なのだが、ただそれだけだ。主人公たちの生活はなんにも変わらない。担任の先生に恋をして、FPSゲームの相手を口汚く罵って、口うるさいお母さんはウザくて、惚れた腫れたの話題で大盛り上り。日常すぎる。日常が強すぎる。
異常の方も頑張って日常を侵食しようとはしているのだ。
主人公の一人、門出ちゃんのお母さんが口うるさくなったのはUFOによる環境被害に抗議する市民活動に参加していることの現れだ。それに、主人公たちがゲームの世界で苛烈な打ち合いに興じる陰では、現実にUFOからやってきた侵略者へ向けた抗戦が起こっている。その上、主人公たちと非常に親密な間柄であった友人の一人がUFOの事故に巻き込まれてなくなってしまう展開すらあった。
これにはさすがの主人公たちも動揺し、落ち込み、けれど彼女たちなりの折り合いを長い時間をかけてつけていく。
あそこの凰蘭ちゃんの知ってるよ、は重かったな。今思えば、あそこまでは奇妙な言動のマスコットキャラクターでしかなかった彼女もまた、一人の人間であることをこちらに示すシーンとしてもあの描写はとてもいい役割を果たしていたと思う。

そうして友人の一人が死んでしまっても、彼女たちの日常は続いてしまう。それは喜ばしいことなのか否か、判断したくてもできなかったし、判断させようとしているわけでもないのだと思う。
誰かがそれを悪いことだと言っても、いいや良いことじゃないかと言っても、日常は続いてしまうから。
日常の強制力とはいやはや恐ろしい。

そうしてひょんなことから彼女たちの過去が明かされるわけだが、前章は突然明かされたショッキングな過去にあたふたさせられていたら終わってしまった。そうして後章へと続いていく。

後章、主人公たちの日常は大学へと舞台を移して、新たに関わりを持つ人たちも増える。真面目で主人公たちにも優しく接してくれて、侵略者を巡る政府の姿勢に疑問を持ち市民活動に自主的に参加する女の子。可愛い格好がしたくて、人前に出る時は金髪ロングのかつらを被っている男の子。

新しい顔も迎えた彼女たちの日常は、やはり変わらず続いていく。なんならUFOよりも大学と言う新しい環境の方が彼女たちの日常に少なからず影響を与えているのではと思うほど、あれだけ存在感のあるUFOがただ女子大生の日常の背景に収まっているのがまた凄い。

映画が進むにつれ、そんな非日常の割合が増えていく。街には侵略者が度々姿を現し主人公たちと深い関係を持つ侵略者も現れる。けれどやっぱり日常なのだ。侵略者狩りがスマホのアプリをを通じて盛んになるし、主人公たちと行動を共にする侵略者もバッティングセンターやFPSゲームに勤しんでいる。

そうして主人公たちの過去が再び語られて、主人公の一人、凰蘭ちゃんが、門出ちゃんの死を防ぐため、並行世界から意識が映された存在であることが発覚、ここから話の中の以上の割合が加速度的に増していく。
思えば、ここまで映画のほとんどを占めていた日常の風景は、凰蘭ちゃんが世界と天秤にかけた上でなお友人を選んだ、その覚悟がもたらしていたものなのかもしれない。

主人公たちと行動を共にしていた侵略者は、一人UFOの暴走を止めようと動く。タケコプターみたいな機械で空を飛び、UFOの母艦に乗り込みUFOの動きを止めるため体を張る。
そんな彼の活躍があっても、やはり主人公たちにその緊張感は皆無だ。皆で少し離れた港町に合宿に行っていた彼女たちは、高速道路を走って、途中パーキングエリアにでも寄りながら、家に帰るため、日常に戻るため、東京を目指す。
そんな彼女たちを無視するかのように東京の状況はまさに異常そのもので、けれどやはりそこで日常を贈る人物が何万人といる。主人公たちの兄弟がいれば、主人公たちの担任の教師も、主人公の想い人もいる。
そんな東京はUFOの母艦の大爆発に巻き込まれて大被害を受けてしまう。まさにボカンつってね。



ごめんなさい。
東京方面に大きな光の柱が立つ。東京で日常を送っていた人たちは何が起きたのかもわからないままでまばゆい光に飲み込まれて行って、そんなショッキングな映像が流れた後でも、やっぱり主人公たちがそれに直接巻き込まれることはないのだ。
家族を失った者がいれば、その後避難生活を送る者もいて、流石に主人公たちに与えられた影響と言うのもなかなか無視できない規模ではあるにせよ、それでも主人公たちは生きている。少し場所や環境は変わっても、そこにはやっぱり彼女たちの日常がある。そんな日常パートが、あそこまでの規模の大爆発が発生したたった16日後の話でしかないのもまた印象的だった。
あんな世界が終わってしまいそうなほどの規模の大大大爆発があっても、所詮2週間ちょいで日常は訪れてしまう。

明らかに異常なUFOの飛来、正体不明の侵略者、それをひた隠しにしようとする政府、そんな政府に直接疑問の声を届ける市民団体、何人もの人が殺して殺されて、東京を包み込む大爆発も、すべてが主人公たちにとってただの他人事だった。
ずっと他人事だった。
彼女たちの友人の死が唯一の例外と言って差し支えないほど、迫力ある映像とかなりリアリティを持った人間の営みで描かれる多様な非日常が、すべて他人事として日常に飲み込まれていく様子が一貫して描かれていたのはとても良かったと思う。

やっぱり日常が一番面白いからね。


後章の大学編で登場した上京組の二人が個人的にはかなり好きだった。田井沼くんとふたばちゃんの二人だ

田井沼くんは男性でありながら可愛い存在に憧れを抱いており、人前に出る時はロングヘアのかつらを装着しているのだけど、決して彼は女性になりたいと思っているわけでも性別違和を抱いているわけでもないのだ。
男同士の仲だろ~!みたいなことを言っていたり、海で遊ぶシーンでは普通にかつらを外して男物の水着を着ていたりと、ただ可愛い存在に憧れているだけの彼は妙に魅力的だった。
彼は行動を共にしていた人間が侵略者であることを知っても特に抵抗なくそれを事実として受け入れていたし、凰蘭ちゃんの壮絶な過去もあったものとしてただ受け入れていた。
このスルースキルも言ってしまえば他人事の極致と言えるだろう。その意味で作品のテーマに非常にマッチしていた彼がやけに印象に残っている。

もう一人がふたばちゃんだ。彼女は自分で考えることを辞めたくないと語るほど真面目で、その信念から様々ものに触れることができる東京と言う地に憧れて上京し、侵略者を保護すべきと主張する保護団体に加入する。
団体の活動にも精力的で、時には自分たちの活動に口を出してくる人間相手にも毅然と立ち向かう。
けれど、侵略者の直接的な被害に巻き込まれた人間相手には強く出られなかったり、ピストルを手渡されて実力行使に出るまでの度胸は持ち合わせていない、そんな言ってしまえば曖昧な立ち位置にいるキャラだった。
しかしこの曖昧さこそがまたいいよな、と思う。そんなハッキリと自分のスタンスを持った人間なんていないから。誰も彼もグラデーションの狭間にいて当たり前だし、それは身体の性と心の性に違和感はなくてもいわゆる可愛い格好をしたいと思う田井沼くんにも言えることだろう。

けれどいかんせん主人公の二人のキャラクターが極端すぎた。
手渡されたピストルを、私にはこれは無理だと凰蘭ちゃんにおしつけたふたばちゃんは、反省して、と釘を刺される。
そりゃあ世界と友人を天秤にかけて、はっきりとした二項対立の末に友人を選び出した凰蘭ちゃんだ。曖昧さなどかけらもなく、友人を”絶対”だとまで言ってのける彼女から見ればふたばちゃんの曖昧な行動には度し難いものがあったのだろう。
それに彼女も友人の一人を侵略者によって失った一人である。侵略者を保護せよと叫ぶふたばちゃんの曖昧な態度に腹を立てるのも当たり前なのかもしれない。

でも自分はそんな曖昧で、半端な覚悟で、東京に出てきただけで世界のすべてを知れたような顔をしていたふたばちゃんの等身大さが素晴らしく好きだ。素晴らしいじゃないか、曖昧。田井沼くんもまた好きだ。上京組のキャラクターは本当に素晴らしかった。

全て合わせれば4時間近くある映画と言うこともあって満足感は非常に高いが、聞いたところによるとこれでもまだ原作の要素がかなりオミットされているらしい。原作はこれ以上の密度で、その上結論も変わっているだとかなんだとか言うから、原作が気になってしょうがない。

今度快活クラブ行くか。


あと、主人公二人の声優さん。すごくよかった。あのちゃんさんが特に良い。特徴的な声がインパクトだけに終わっていなかったのがすごく良かったと言うか、凰蘭ちゃんの際立ったキャラクターにとても合っていたと思う。幾田さんも上手だったね。


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