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劇場版 ウマ娘プリティーダービー 新時代の扉

見た。ネタバレしかないです。


ウマ娘のアニメもゲームもまったく知らない身で劇場に足を運んだのだけど、映画だけでも楽しめるとの前評判は嘘ではなかったことを知った。
完全初見の自分でも大いに楽しめた映画だったと思う。

そんなわけでウマ娘は始めて見たのだけど、どんなキャラクターのウマ娘でも全員もれなく足が速いのが面白かった。引っ込み思案というか、主張が控えめで、根暗に思える子も足が速いし、科学者気質で、肉体より頭脳!みたいな子もやっぱり足が速い。登場するウマ娘がどんな性格であれどんなパーソナリティであれ、彼女たちは皆漏れなく足が速いんだなと思うとなんだかとても面白かった。

主役のジャングルポケットはまっすぐ過ぎるいい子だったし、アグネスタキオンの強敵感、マンハッタンカフェやダンツフレームの影の成長もとても良かった。
ただ、自分の中に一番深く、強く、印象を刻み付けたのは、フジキセキだった。フジさん、本当にかっこよすぎやしないか。
すべて見終わってもうフジさんのことしか考えていない自分がいた。主役はジャングルポケットのはずなのだけど、この映画におけるフジさんの役割が自分の好み過ぎてダメだった。
自分ではもう手を伸ばすことすら難しい目標に向けて、ひたむきに真っすぐに馬鹿真面目に手を伸ばし続ける後輩を見て彼女は何を思っていたのだろうか。もちろん作中では、壁にぶち当たった後輩に自分の背中を見せることで再起のきっかけを与えていたわけだけど。
その前のシーン、トレーナーとジャンポケちゃんの河原での会話を神社の鳥居の陰で盗み聞きしている時の彼女の心境は果たしてどのようなものだったのだろう。包帯が巻かれた自分の足を見つめて何を思ったのだろう。
自分が叶えてやれなかった夢を叶えるためのチャンスも能力も精神性も持ち合わせた後輩に、彼女が100%応援の気持ちだけを抱えていられたとはとても思えない。それでも、そんな気持ちをおくびにも出さずに、後輩の背中を押すために勝負服(胸元空きすぎててビビった)に袖を通して一切の手加減無く走って見せた彼女だからこそ自分はこれだけ惹かれているのだと思う。
レース中の、現役時代には程遠い……というフジさんの言葉から、彼女が自分の至らなさをこれ以上なく思い知ったのだろうということは想像に難くないものの、しかしそれが逆説的に次の一歩を踏み出すきっかけにも繋がっていたような気がするのだ。自分の足で走り出すことで自分の現在地を正しく把握し、また彼女が彼女の中にあった悔しさに目を向けられたからこそ、あの河原でのレースの後、彼女は再起を決意することができたのだろう。
後輩の背中を押すため、無意識のうちに隠さなければと抱えていた悔しさ、やりきれなさ、無力さ等々、決して明るくない自分の中の感情にレースを通して向き合い、そうしてフジさんは新たな一歩を踏み出す。
そのきっかけとなった後輩というのが、フジさんの走りを見てその輝きに心を焼かれた張本人、ジャングルポケットであるのがまた素敵だ。

止む無い事情から走ることを辞めざるを得なかった彼女の発した「君はまだ走ってる」の言葉の重みはジャンポケちゃんにも自分にも深く突き刺さった。走り続けることの難しさを誰よりも思い知った彼女だからこそ、シンプルな言葉でもこれほど重みを持ってこちらに訴えかけてくるのだ。
高すぎる壁にぶつかって自暴自棄になってもなお走ることを辞めなかったジャンポケちゃんのあまりに力強い姿は、フジさんだけでなくアグネスタキオンにも強い影響を与えていた。あれだけ言葉を重ねて自分が走らない理由を語っていた彼女が走り出すのを抑えられないほどに、ジャングルポケットの走り続ける姿は印象的に映ったのだ。
走り続けることの難しさを、走り続けることの放つ光の強さを、この映画を通して味合わされた気がする。太陽光を幾多にも反射し虹色の輝きを部屋中にまき散らすサンキャッチャーが度々ジャングルポケットの姿と重ねて描かれていたのもとても納得がいく。
自分の意図するところなく周囲に光をまき散らすそんな眩しい姿がまたジャンポケちゃんと重なるが、それ以上に、サンキャッチャーというのが太陽光なしでは光を反射することのできない器具であるのがまたとても素晴らしいと思う。あの日目にしたフジさんの走りに、一度完全に敗北を教えられたライバルに、自分に追いつこうと成長を重ねるライバルに、いくつもの光を注がれた結果として、やはり走り続けることを選んだ、選ぶしかできなかったジャンポケちゃんの姿がサンキャッチャーと言うモチーフに素晴らしくマッチしていて、それが本当に素晴らしかった。

サンキャッチャーは多分その構造上傷がついても光の反射の仕方が変化するだけで寧ろ光量なんかは増す気がするのだけど、その辺どうなんだろう。

ずっと結んでいたリボンをもう自分で結べますよとジャンポケちゃんが言ったのは、ジャンポケちゃんのフジさん離れの意味もあったのだろうけど、その逆、フジさんのジャンポケちゃん離れの意味も込められていたのだろうと思う。落ち込んだ時に後ろから背中を押すだけではなく、向き合ってリボンを結んであげるだけではなく、隣に並んで同じゴールを眼差す関係にも変化していこうという、彼女たちのこれからへ目を向けさせるとても意味の大きい描写だったのだと思う。


そんなわけで、終始フジキセキのかっこよさばかりに目を向けてしまったものの、それでも十分にこの作品を楽しめたと胸を張ることはできる。
フジさん、ほんっとうにかっこよかった。

ラストで唐突に始まったライブには多少驚いたものの、無からライブが生えてくる経験はラブライブで十分に積んでいるので、あまり抵抗はなく受け入れることができた。

とにかく、フジキセキがかっこいい。自分の感想としてはこれに尽きる。
Youtubeで冒頭数分のフジさんのレース映像が公開されていたので見てみたのだけど、彼女が全力の走りを見せられていることも、それを見たトレーナーが涙ぐんでいる姿も、そんなトレーナーの姿を見つけて、先ほどまでの必死でかっこいい姿とはまた違ったふにゃっと笑う笑顔も、ラストの一礼の所作の美しさも、すべてが最高過ぎた。
フジキセキ、ああフジキセキ。かっこよすぎる。最高だ。最高だった。


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