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展開・因数分解について

展開と因数分解について,大事なポイントをまとめておきます.
一部の高校では,この辺の話は「とにかく計算練習さえすればできるようになるだろう」という観点から,入学前の課題としてやらせてお終いにするケースがよくありますが,以下の大事な眺め方が学べていない生徒が多い印象があります.

【展開・因数分解のポイント】

《展開のイメージ》
「各因数の中から一つずつ選んだ単項式どうしの積」を,すべての選び方について加える.

〈例〉$${ \left( p + q + r \right) \left( x + y \right) = p x + p y + q x + q y + r x + r y . }$$

この例では,因数$${ \left( p + q + r \right) }$$の単項式$${ p ,\ q ,\ r }$$のうちのどれか一つを選んだものと,因数$${ \left( x + y \right) }$$の単項式$${ x ,\ y }$$のうちのどれか一つを選んだものとの積を,すべての選び方について加えたものになっています.合計で$${ 3 \times 2 = 6 }$$個の単項式の和になっていますね.

因数が三つ以上あっても同様です.

〈例〉$${ \left( a + b \right) \left( p + q + r \right) \left( x + y \right) = a \left( p + q + r \right) \left( x + y \right) + b \left( p + q + r \right) \left( x + y \right) }$$
$${ = a p x + a p y + a q x + a q y + a r x + a r y  + b p x + b p y + b q x + b q y + b r x + b r y  . }$$

こちらもちゃんと$${ 2 \times 3 \times 2 = 12 }$$個の単項式の和になっています.

〈例〉$${ \left( x - \alpha \right) \left( x - \beta \right) \left( x - \gamma \right) = x^{3} - \left( \alpha + \beta + \gamma \right) x^{2} + \left( \alpha \beta + \beta \gamma + \gamma \alpha \right) x - \alpha \beta \gamma . }$$

この例についても《展開のイメージ》によって

・$${ x^{3} }$$ができる選び方は
$${ x \cdot x \cdot x }$$
のみなので,$${ x^{3} }$$の係数は$${ 1 }$$.
・$${ x^{2} }$$ができる選び方は
$${ \left( - \alpha \right) \cdot x \cdot x }$$

$${ x \cdot \left( - \beta \right) \cdot x }$$

$${ x \cdot x \cdot \left( - \gamma \right) }$$
のみなので,$${ x^{2} }$$の係数は$${ - \left( \alpha + \beta + \gamma \right) }$$.
・$${ x^{1} }$$ができる選び方は
$${ \left( - \alpha \right) \cdot \left( - \beta \right) \cdot x }$$

$${ x \cdot \left( - \beta \right) \cdot \left( - \gamma \right) }$$

$${ \left( - \alpha \right) \cdot x \cdot \left( - \gamma \right) }$$
のみなので,$${ x }$$の係数は$${ \alpha \beta + \beta \gamma + \gamma \alpha }$$.
・定数項ができる選び方は
$${ \left( - \alpha \right) \cdot \left( - \beta \right) \cdot \left( - \gamma \right) }$$
のみなので,定数項は$${ - \alpha \beta \gamma }$$.

と暗算で展開できるようにしておきたいところです.この例のような展開は,根と係数の関係や$${ 3 }$$文字$${ \alpha ,\ \beta ,\ \gamma }$$の基本対称式の定義などで出てきます.

〈例〉$${ \left( x + 1 \right)^{4} = x^{4} + 4 x^{3} + 6 x^{2} + 4 x + 1 . }$$

これも《展開のイメージ》によって「$${ 4 }$$つある$${ \left( x + 1 \right) }$$のどこで$${ x }$$を選ぶか」を考えれば,例えば「$${ x^{2} }$$は$${ {}_{4}{\rm C}_{2} }$$個,すなわち$${ 6 }$$個出てくるから,整理した後の$${ x^{2} }$$の係数は$${ 6 }$$だな」と分かります.
この例などから,後述する二項定理への理解が深まります.

※ この《展開のイメージ》がしっかり指導されていないために,二項定理や多項定理をイマイチ理解できていない生徒がかなり多い印象があります.

《因数分解のポイント》
因数分解は多項式版の素因数分解です.つまり,もうそれ以上分解できないような多項式どうしの積の形にするのが因数分解です(考える係数の範囲によって,どこまで分解できるか(何を《素数》と考えるか)が変わることがあります).
和の形から積の形にするという意味では,因数分解は展開の逆演算であり,因数分解は展開をすることで検算・逆算できます.

〈例〉$${ 27 a^{3} - 54 a^{2} b + 36 a b^{2} - 8 b^{3} }$$を因数分解してみましょう.

$${ 27 a^{3} = \left( 3 a \right)^{3} ,\ \ - 8 b^{3} = \left( - 2 b \right)^{3} }$$であることから,「$${ \left( 3 a - 2 b \right)^{3} }$$と因数分解できるのでは?」と予想がつきます.
実際,$${ \left( 3 a - 2 b \right)^{3} }$$を《展開のイメージ》で展開してみると,

$${ \left( 3 a - 2 b \right)^{3} = \left( 3 a \right)^{3} + \left( 3 a \right)^{2} \left( - 2 b \right) \times 3 + \left( 3 a \right) \left( - 2 b \right)^{2} \times 3 + \left( - 2 b \right)^{3} }$$
$${ \hspace{46.5pt} = 27 a^{3} - 54 a^{2} b + 36 a b^{2} - 8 b^{3} }$$

となって初めの式と一致するので,確かに

$${ 27 a^{3} - 54 a^{2} b + 36 a b^{2} - 8 b^{3} = \left( 3 a - 2 b \right)^{3} }$$

と因数分解できることが分かりました.

因数分解の大原則は,このような「展開前(因数分解後)の式を予想して,展開して一致するか確認する」という《展開の逆算》なのですが,中には公式として記憶していないと中々予想がしづらい問題(もはや公式に当てはめて因数分解する問題)もあります.
例えば,$${ x^{3} + y^{3} }$$などの因数分解は$${ \left( a - b \right) \left( a^{2} + a b + b^{2} \right) }$$などを展開した経験が無いとなかなか思い付かないと思います.

《因数分解公式》

◎ $${ a^{n} - b^{n} = \left( a - b \right) \left( a^{n-1} + a^{n-2} b + a^{n-3} b^{2} + \cdots + a^{2} b^{n-3} + a b^{n-2} + b^{n-1} \right) }$$
($${ a^{n} - b^{n} }$$は,$${ a }$$に$${ b }$$を代入したら$${ 0 }$$と等しくなるので,因数定理により$${ \left( a - b \right) }$$で括れます.実際,右辺を展開するとたくさん打ち消し合って左辺になります.)

例えば,$${ n = 2 }$$や$${ n = 3 }$$のときはそれぞれ

・$${ a^{2} - b^{2} = \left( a - b \right) \left( a + b \right) }$$

・$${ a^{3} - b^{3} = \left( a - b \right) \left( a^{2} + a b + b^{2} \right) }$$

となります.

また,$${ n = 3 }$$のときのものに$${ a = x,\ \ b = -y }$$を代入して得られる

・$${ x^{3} + y^{3} = \left( x + y \right) \left( x^{2} + y^{2} - x y \right) }$$



◎ $${ x^{3} + y^{3} + z^{3} - 3 x y z = \left( x + y + z \right) \left( x^{2} + y^{2} + z^{2} - x y - y z - z x \right) }$$
$${ \hspace{99.5pt} = \left( x + y + z \right) \left\{ \left( x - y \right)^{2} + \left( y - z \right)^{2} + \left( z - x \right)^{2} \right\}/2 }$$
$${ \hspace{99.5pt} = \left( x + y + z \right) \left( x + \omega y + \omega^{2} z \right) \left( x + \omega^{2} y + \omega z \right) }$$
            (ただし,$${ \omega }$$は$${ 1 }$$の虚立方根のうちの一つ.)

は対比させることで覚えやすくなります($${ - 3 x y z }$$以外が綺麗に対応しています).

◎ $${ x^{4} + \square \, x^{2} + a^{2} = \left( x^{2} + a \right)^{2} - \triangle \, x^{2} }$$
$${ \hspace{76.5pt} = \left( x^{2} + \sqrt{ \triangle } \, x + a \right) \left( x^{2} - \sqrt{ \triangle } \, x + a \right) }$$

この公式は,例えば$${ x^{4} + x^{2} + 1 }$$の因数分解などで活躍します:
$${ x^{4} + x^{2} + 1 = \left( x^{2} + 1 \right)^{2} - x^{2} = \left( x^{2} + x + 1 \right) \left( x^{2} - x + 1 \right) . }$$

《展開公式》
※ 上の因数分解公式たちは,右辺から左辺へ展開をする際には《展開のイメージ》によって展開すれば良い(もしくは,それが大変であれば分配法則を一回ずつ使ってゆっくり展開すれば良い)ので,展開することだけを考えたら覚えておく必要は無いですね.あくまでも因数分解をするため or 展開の時短のために覚えておく感覚です.

◎ $${\displaystyle \left( a + b \right)^{n} = {}_{n} {\rm C}_{0} \, a^{n} + {}_{n} {\rm C}_{1} \, a^{n-1} b + {}_{n} {\rm C}_{2} \, a^{n-2} b^{2} + \cdots + {}_{n} {\rm C}_{n-2} \, a^{2} b^{n-2} + {}_{n} {\rm C}_{n-1} \, a b^{n-1} + {}_{n} {\rm C}_{n} \, b^{n} }$$
$${\displaystyle \hspace{48pt} = \sum_{r = 0}^{n} \, {}_{n} {\rm C}_{r} \, a^{n-r} b^{r} }$$(二項定理)

これも《展開のイメージ》さえ掴めていればその場ですぐに作れますし,逆に,その場ですぐに作れないようでは,例えば$${\displaystyle \left( a + b + c \right)^{n} }$$の展開などで困りますが,使用頻度が多いため,覚えておくようにもしておきましょう.

例えば,$${ n = 2 }$$や$${ n = 3 }$$のときはそれぞれ

・ $${ \left( a + b \right)^{2} = a^{2} + 2 a b + b^{2} }$$

・$${ \left( a + b \right)^{3} = a^{3} + 3 a^{2} b + 3 a b^{2} + b^{3} }$$

です.

※・ は ◎ の具体例に,◎ は ・ の一般化になっています.・ を通じて ◎ を理解したいし,◎ は絶対に覚えておきたいです.ただ,・ の使用頻度はかなり多いので,最終的には何度も展開をしているうちに ◎ も ・ も理屈を納得した上で覚えてしまうのが理想です.

※ 展開と因数分解は表裏一体のため,《展開公式》と《因数分解公式》は本来一致するはずですが,公式の貢献度で言えば短い式から長い式にする向きに使うときこそ効果を発揮するので,敢えてその貢献度で切り分けています.

《因数分解の手順》
因数分解のプログラムは,

① 展開前(因数分解後)の式を予想して,展開して一致するか確認する.
② 因数定理や式の形(対称式の利用も含む)から,共通因数を見抜いて括る.
③ 最も次数の低い$${ 1 }$$文字について整理する.

を ① → ② → ③ → ① → ② → ③ →$${ \cdots }$$とループする感じです.

※ ただし,$${ 2 }$$次式については,平方完成をしてから$${ X^{2} - A^{2} = \left( X + A \right) \left( X - A \right) }$$を利用して因数分解する方法が万能です.
これについては,あらゆる教科書や参考書には載っていない(しかし,僕が初校を手掛けた『やさしく頭をつくりかえる高校数学 I・A』(著:林 俊介) には載っている)テクニックがあるのですが,それはまた別の記事に書くことにします.

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