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コンパクトなディスコの為のボーカロイド音楽

こんにちはこんばんわ、しろばなさん といいます。

本記事はobscure.氏主催 #ボカロリスナーアドベントカレンダー2020 企画への参加記事になります。

各日の担当一覧は以下の通り。

私は第二会場の12/17担当(大遅刻してすみません…)として執筆させて頂きました。


今回はvocanoteの王道ともいえる、特定のテーマに沿って選曲しコメントを加えるスタイルで勝負したいと思います。

それでは、対戦宜しくお願いします。



・はじめに

 
さて、執筆現在2020年も残すところあと僅かとなりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

今更改まった話でもありませんが、兎にも角にも先が見えないコロナ禍で、各々本当に大変な一年だったのでは無いでしょうか。大変お疲れ様でした。 


ときに皆さん、音楽への接し方はここ一年でどう変わりましたか?


別段変わらない…という方もいらっしゃるかもしれませんが、大いに変化せざるを得なかった…という方も多い事でしょう。
特にライブやコンサートといった各種イベント現場で音楽を楽しむ習慣がある方には、非常に苦い一年だったかと思います。

私自身もダンスミュージックを愛好している都合上、従前は都内のクラブやライブハウスといった「箱」で行われるイベントへ定期的に出掛けていたのですが、、、コロナ禍の影響で結果的にそういった機会がほぼゼロになってしまい、大変歯痒い思いを抱えた一年でした。

今年後半からは感染症対策を適切に行った上でイベントを再開している場所も多く、一時期の総自粛モードからは回復してきていますが…
従前のスタンスへ完全に戻るにはまだまだ長い時間がかかりそうです。一日もはやく終息して欲しいものですね。

私自身、今年は上記の様な事情もあり…「Stay Home」「うちで踊ろう」も手助けして、もっぱら家で/自室で音楽を聴いている時間こそが、音楽に接する大部分で在りました

振り返ってみればこんなに籠って、たくさん、ひたすら聴いていた年は、あとにも先にも2020年だけだろう…というくらいに。

巣籠りついでにずっと放置していたCD棚やライブラリの整理をしつつ、むかし手に入れた音源を片端から聴き返したりすると
こんな状況だからか、こんな状況だからこそ、なのか。不思議なもので、一際心が惹かれる作品にふと再会したりもします。

今年の私にとって特筆すべきそれは
sansuiPのアルバム「Compact Disco」シリーズ3部作でした。

近年ボカロを聴き始めた方の為に説明させて頂くと、sansuiPといえばボーカロイド音楽シーンの黎明期において、所謂「ボーカロイドアンダーグラウンドジャパン」を開拓したパイオニアの一人。

アンビエント、IDMやリスニングテクノといった当時あまり馴染みのなかった非ポップス方面の楽曲を数多く制作されており、現在に至るボーカロイド音楽の多様性を押し広げるのに多大な貢献をしたボカロPです。

「コンパクト・ディスコ」シリーズは氏がボカロを用いて制作した楽曲の集大成ともいえるアルバムなのですが、そのいささか難解な音楽性に対しては
私自身も2020年になってようやくピントが合うようになったらしく、今になって聴き返すとようやく…こんな作品だったのか!と面白おかしく楽しめるようになりました。


そんな中、今更ですが改めて生じた疑問もありました。アルバムタイトル「コンパクト・ディスコ」って、これは何なんだろう、と。
やけにキャッチーな言葉の並びですが、一体どんな意味が込められているのか?
当時は単にコンパクト・ディスク(CDの正式名称)のもじりなのかな?とも思っていましたが…どうも違うようで……??

何度も何度も聞き返す中、ふと浮かんだのは、ある特定の場所を指しているのではないか、という解釈です。

そもそも、ディスコが本来discothequeという場所で流れていた音楽から転じてジャンルの名称になったように、
また近傍ジャンルのガラージはParadise Garage、ハウスはThe Warehouseといった実在の場所と明確に結びついているように、
この手の言葉遊びはある種、音楽家がどの場所をサンクチュアリーと捉えているか?という問いかけに近いものがあります。


つまり、収録されている楽曲タイトルや、アルバム全体にまたがる夜の底に沈むような音像、またエリック・サティにインスパイアされた家具のミク連作を手掛けたキャリアから類推するに「コンパクト・ディスコ」とは…その実、自室或いは寝室というサンクチュアリーに依った音楽の実験だったのだ。と。

2020年になってようやく気付かされた次第です。10年かかってる。


巣ごもりしてひたすら音楽を聴きあさっていた今年。
私にとっては、この気付きは非常に大きな発見であり、ご時世も手助けしてタイムリーに強く興味を惹かれる体験でした。


…という事で、本記事では以上の解釈、つまり「コンパクト・ディスコ」=自室或いは寝室というサンクチュアリーに依った音楽の実験という視点を手がかりとして
ボーカロイド音楽を選曲し、遊んでみたいと思います。(唐突)




・コンパクト・ディスコ?


とはいえ、sansuiPの難解な音楽性をそのまま参照して選曲を行うのも芸がありません。
また、シリーズ最後のアルバムリリースから10年近く経過している事情もあり、ワールドワイドな音楽のトレンドが移り変わったことで言葉の示すところも変容を遂げていることを考慮すると2020年時点での解釈を加えた方がより面白くなりそうです。


そうすることで、2020年のいまこそ聴くべき楽曲が自ずと浮かび上がってくるはずだと。そのように考えました。

では、自室或いは寝室というサンクチュアリーに依った音楽の実験、という解釈はベースに置きつつ、少し考えてみましょう。


「コンパクト」であること

 →端正に取り纏まっている、という原義はなおのこと。チルウェイブ以降のチルアウトミュージックをポスト・ジャンルの代表格として捉える動きや、近年のTINY POPムーヴメントにおける箱庭感を評価する傾向などを鑑みるに演出された清潔な「chill(チル)さ」、あるいは「こなれ感」といった要素を考慮する必要がありそうです。


「ディスコ」であること

 →ループするダンスビートで、分かりやすいシンセ使いで、、、、というディスコ音楽に頻出の特徴はもとより。近年国内外問わずブームになっている80sリバイバルの象徴的存在として意味が付与されている点は見逃せないでしょう。すなわち、アッパーでハッピーで極彩色の、輝かしく遠い完全な過去への憧憬。転じて、今となっては手が届かない何処か、或いは誰かへ向けた「感傷」の入る余地を考慮にいれるべきでしょうか。



・選曲しよう

 纏めると、「2020年のコンパクト・ディスコ」として選ぶ基準は以下の通りになりそうです。
 
 ・自室あるいは寝室という場所に関連していて
 ・端正に纏まっていて過剰さが無く
 ・chillさと
 ・こなれ感があり
 ・感傷の入る余白があり
 ・ループするダンスビートな
 ・近年のボカロ曲 
  
  ※何をもって近年とするかは諸説ありますが、ここでは2016年以降に設定しました


 こんなに条件挙げて大丈夫か…?と自分でも思いましたが、
 案外サクッと見つかり計3曲も素晴らしい楽曲がヒットしましたので
 1つずつご紹介しましょう。
  

 以下、やっと本編です (前置きが長い)
 


・聴いてみよう


Thursday dream /もり (2020) 

アンニュイな夜をクルーズする珠玉のディスコナンバー。こうやって書くと、なんだかハイウェイやネオンライトのイメージが伴っていそうなものですが。本作はその舞台がひとりで眠るベッドの上、とりとめなく拡がる感傷の宇宙の中に完結する点がとても面白い。もり氏はかねてよりディスコ・リバイバル経由のビート感をチルポップに落とし込む作風に定評がある方ですが、本作では柔らかく饒舌なシンセ使いも堪りません。「誰かになりたいのは木曜の真夜中」という歌詞も良いですよね。華の金曜でも、サタデーナイト・フィーバー(トラボルタ!)でも無い。木曜日を切り取るバランス感覚の絶妙な心地良さ。そっと身体を揺らしているうちに、いつの間にか眠ってしまいそうな。ゆっくり身を委ねたくなる一曲。最高。


「sexes」/alt.pop (2017)

ベッドルームの営みをスタイリッシュな角度で切り取った官能的な一曲。alt.popと沢田凛氏が紡ぐ歌詞世界が私はとても好きなんですが、肉感的な憧憬やパーソナルな情愛の記憶といった”強い”題材を扱いながらも、そこに身体を持たない歌手=ボーカロイドを介在させることで、いつの間にか楽曲をポップスの湿度に落とし込んでいる。この感覚は、特有のものと言う他無いでしょう。
恋愛もSEXも煙草も、アルコールも。かつてはひどく神秘的にさえ思えたそれらが単に日常の風景になって、その先にあったはずのものが見えなくなって。。いや、最初から何も無かったのか。
聴いていると思わず浮かんでしまう…そんな感傷に、chillいハウス・ビートがスッと入り込んできます。セクシャル。



悲しくてやりきれない(una World TripHop Remix)/Y.sato (2018)

ザ・フォーク・クルセダーズの名曲に現代風のビートアレンジを加えカヴァーした1作。どこか懐かしいシンセの響きが心地よく、心なしかゆったり歌詞をなぞって歌う音街ウナの歌唱も印象的なナンバーです。
ちなみにY.sato氏はvaporwave→futurefunk、そしてLo-Fi HIPHOPといったネットミームとセットで発展にしてきたジャンルに造詣が深いトラックメーカーとのこと。動画に用いられているループアニメーションも、ジャンルのマナー手法として引用してきているのでしょうか。ずっと眺めては、やけにおセンチになってしまいます。
原曲は実に半世紀もの間に名だたる歌手によって歌い継がれてきたことでも有名な1曲ですが、とうとう人間では無い歌手=VOCALOIDにもその順番が回ってくる時代になったのか…と。
謎の感動があります。良いですよね。。



以上、3曲ご紹介しました。いかがだったでしょうか。

あまりまとまりのない文章で恐縮ですが、読んでいただいた皆さんに何か興味のとっかかりになるものを提供できたのであれば幸いです。



それではまたどこかで。


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