黒い影
島村さんが、駅のホームで電車を待っていたときのことである。
目の前の白線まぎわに、夫婦らしい老人と婦人が、手をつないで立っていた。
にこやかに二人とも話している。島村さんは、ほほえましいな、と、眺めていた。
すると、老人の背後から、人の形をした黒いものが現れた。二人の目には見えていないようだ。影はゆっくり、老人の肩にかぶさった。
そこへ列車がやってきた。
老人はほほえんだまま、婦人の手を離すと、いきなり列車に飛び込んだ。
あっという間のできごとだった。ブレーキを踏む間もなかったにちがいない。
列車が再び走り出して、ホームで駅員が「事故者のお知り合いの方、いらっしゃいませんか。」と、声を上げても、婦人は呆然と立ちつくしていた。島村さんが、黙って婦人を指さすと、駅員は彼女の肩を抱くようにして、連れて行った。
その日の夕刊に、
「自殺の理由がわからない、結婚指輪をした指が見つからない」
という記事が小さく載った。
【完】
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ご購入ありがとうございます!
せっかくご購入いただいたのですが、続きが何もなくてすみません。
この作品は、2006年の「超-1」と言うコンテストに応募したものです。
ブログに公開されて批評される形式のものだったんですが、ブログは残っているのですけれど、作品は削除されていました。
応募規定に、「著作権は著者にある」と書かれているし、もうブログにも載っていないのなら、自分の手元に戻してもいいのかなぁ、と、思い、noteに上げさせていただきました。
「指輪が見つからないなんて新聞に載るもんか、うそ臭い」と批評された作品ですが、取材した通りに書いたので……。
以上で、あとがきに代えさせていただきます。ご購入ありがとうございました。
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