そういや僕のヒーローだった


初めて買ってもらったバットは彼のモデルだった。ブルーとホワイトシルバーのグラデーションのバット。野球を始めた当時はそれが誰のモデルとか知らんかったけど。みんなが褒めてくれるからバット振るのは好きだったと思う。言ってしまえば今の僕の野球好きは彼に責任の一端があると言っていい。プロ野球を見始めた時から彼はずっとスーパースターだった。日本でずっと首位打者だったのも、アメリカでルーキーイヤーにMVP取ったのも、シーズン最多安打記録作ったのも、2009WBCで決勝タイムリー打ったのも、10年連続200安打したのも全部テレビで見てた。いつか彼みたいになりたいと思ってた。神様みたいなもんだ。
だからこそ彼の今の立ち位置にはなんだかしっくりこないところが多い。彼は今やロートルと言って良くて、最後のシーズン3割達成も9年前。体は衰えていないと本人は嘯くけど、全盛期と比べれば、テクニックもフィジカルも衰えているように見える。現役に拘りながらも、昨シーズンはGM特別補佐なんていう取ってつけたような名誉職を与えられて飼い殺しだった。今シーズンここまで契約してもらってるのも、チームが日本開幕戦を控えているという興行的な理由があるだけだ。彼は最早戦力じゃない。言っちゃ悪いけど客寄せパンダでしかない。彼のスイング動作のメカニック的な欠点も、素人に毛が生えたくらいの自分が見て分かるほど明白で、顕著だ。なのに周りはそれを言わない。彼が偉大過ぎるから。彼は、彼のその偉大なキャリアの中で、周りの人間が彼に区切りをつけられないくらいに、膨れ上がってしまった。それは彼のやってきたことを考えるとどうしようもないことで、仕方がない。どこぞの偉大なメジャーリーガーが言ってた。「彼は自分のキャリアの終わりを自分で選ぶ権利がある」って。その通りだ。だから彼は彼自身のキャリアに区切りをつけなきゃならない。裸の王様でいちゃダメだ。野球を現役で続けたいならもっと別のリーグだって良いじゃないか。サッカーのレジェンドみたいに。世界最高のリーグで戦うにはもう彼は衰え過ぎた。 そろそろ表舞台は次世代を担う若者に譲らなきゃいけない。老兵は死なず、ただ去りゆくのみだ。それは多分彼自身が一番分かってる。
日曜日のオープン戦を現地で見て、初めて生で彼を見て、凄く高揚したと同時に哀しかった。まだやれると信じていたい気持ちとヒーローはヒーローのまま引退して欲しい気持ちが混在している。
開幕戦は今夜。奇跡が見たい。見返してくれよ。イチロー、頑張れ。

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