見出し画像

【法規】「電線」「ケーブル」「コード」という用語の、定義の有無について

はじめに

低圧又は高圧の架空電線には、感電のおそれがないよう、使用電圧に応じた絶縁性能を有する絶縁電線又はケーブルを使用しなければならない。

《電気設備に関する技術基準を定める省令・二十一》

法令には上記のように、電気工事において使用すべき電線類を規定しているものがある。しかし、「電線」「ケーブル」「コード」という3種類の用語は一般には同じものを指すことが多く、分類について直感的に理解するのは難しい。これらの用語が法令において実際にどのように定義されていたり、いなかったりするのかについて調べた。

引用する法令の表記

引用する法令は《》内に表す。また、以下の略称を用いる。
電技:『電気設備に関する技術基準を定める省令
電技解:『電気設備の技術基準の解釈
電技説:『電気設備に関する技術基準を定める省令の解説
内:『内線規程』

「電線」は特殊な定義がある

「電線」とは、強電流電気の伝送に使用する電気導体、絶縁物で被覆した電気導体又は絶縁物で被覆した上を保護被覆で保護した電気導体をいう。

《電技・一.七》

一般には「ある点からある点へ電気を伝えるために線状に作られたもの」全般を表す「電線」という用語について、『電気設備に関する技術基準を定める省令』は強電流電気を伝送するものに特定して定義している。そのうえで、この特定された「電線」と区別して「弱電流電線」という用語を定義している。

「弱電流電線」とは、弱電流電気の伝送に使用する電気導体、絶縁物で被覆した電気導体又は絶縁物で被覆した上を保護被覆で保護した電気導体をいう。

《電技・一.十二》

「弱電流電線」とは、弱電流電気の伝送に使用する電線であり、これを支持又は保蔵する工作物を合わせて、「弱電流電線路」として規定している。電信・電話やインターホン、拡声器等の音声の伝送回路等がこれに該当する。

《電技説・1》

これらは伝送する電気の強弱による分類であり、電線類の構造や特性による分類ではない。また、電技説の定義は電技が特定して用いた「電線」という用語を「弱電流電線」の定義に循環させてしまっているので、あまり適切な表現ではないように思う。これはそもそも「電線」という多義的な用語を特定的に用いている電技の定義が混乱を生んでいるとも解釈できる。

先に示したように電技第二十一条においては低圧又は高圧の架空電線に「絶縁電線」「ケーブル」以外の使用を認めていないが、この「絶縁電線」「ケーブル」という用語については、電技のみならず電技解にも電技説にも定義はない。

「ケーブル」は通称

電線とケーブルとの間には明確な区別はありません。一般には構造が複雑で太く、シース(外装)のあるものをケーブルと呼んでいます。

電線とは』日本電線工業会ウェブサイト

法令には「ケーブル」という用語の定義がないうえ、この用語は「ケーブル」と法令が区別している「絶縁電線」(絶縁被覆された線状の電気導体)をあらわすもの(「エコケーブル」など)や、そもそも電気導体でないもの(「光ファイバケーブル」など)においても広く用いられている。日本電線工業会が「光ファイバケーブル」も「電線」と呼ぶようになったとしているのは、「電線」という言葉が「電柱を伝うもの」全般を指すことに由来するものと思われる。

電気関係法令が想定している「ケーブル」とは慣用的には、絶縁電線を複数束ね、それをシースによって覆ったものであるが、この定義ではまだ、「ケーブル」と「コード」との区別が不明瞭なままである。

「コード」は「移動電線」の一種

コードは、電球線及び移動電線として使用する場合に限るものとし、固定した配線として施設しないこと。

《内・3203-1》

コードは、内線規程によって移動電線としての使用に限定されている。ケーブルや絶縁電線よりも可とう性の高いコードはそれゆえに構造的に脆い電線でもあるため、耐久性を必要とする場所(屋外等)では使用できない。

移動電線の定義は電技解にある。

移動電線 電気使用場所に施設する電線のうち、造営物に固定しないものをいい、電球線及び電気機械器具内の電線を除く。

《電技解・142.六》

移動電線はさらに、「コード」と「キャブタイヤケーブル」に大別され、種類によって施工可能な場所が定められている《内・3203-1表》。

VCTはキャブタイヤケーブルであるが、記号の似たVCTFは「コード」に分類されるなど、紛らわしいケースもある。


詳細な電線類の分類については下表を参照のこと。
電線・ケーブルの分類と記号・名称(日本電線工業会)
https://jecamec.jp/pdf/densen_kijun.pdf


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?